外出自粛やリモート授業などで子どもが家にいる時間が長い今。動画の視聴時間の長さや、本の選び方・ 読み方を見て「これでいいのかな」と思う機会が増えたのは逆にチャンスかも? 子どもと「本」「動画」との付き合い方をじっくりお聞きしました。
◯教えてくれたのは…
◯ 犬塚美輪さん 東京学芸大学准教授
東京大学教育学部・同大学院で教育心理学を学ぶ。読み書きの心理プロセスと指導法研究が専門。紙やネットなど様々な媒体の真偽が不確かな情報をどのように読むかも研究している。著書『14歳からの読解力教室』も話題。
★ Q.「YouTubeなどの動画ばっかり見てる」のは何が問題なのか?
1.活字ではなく動画で情報を得るのはダメですか?
動画コンテンツはうまく利用できると便利なのですが、活字よりも誤った情報が拡散されやすく、知らず知らずのうちにデマ情報にたどり着いてしまうリスクがあります。大人も子どもも、一度得た情報や知識を後から修正するのはとても難しいこと。どのような動画を見ているか気をつけたほうがいいでしょう。また動画で見ると〝分かったつもり〟の状態になりやすいのも問題です。映像や画像で得た知識はなんとなくのイメージは残っても、理解度はそこまで高くないことが多いです。動画で情報を得ることをダメとは言いませんが、家庭で何らかの対策は必要かなと思います。
2.動画ばっかり見てると読書量減る?
一日のうちで余暇に使える時間は限られているので、単純に時間配分の問題で、動画を見る時間が増えたら活字を読む時間は減りますよね。とはいえ、映画好きな人は本もたくさん読んだりもするので一概には言えないのですが…。動画にもいろんな種類がありますが、TikTokのようなタイプはちょっと危険かなと感じています。TikTokは短時間でできるだけ楽しませよう、といった試行がギュッと詰まっているので、見飽きたと感じにくく、無制限にダラダラと見続けてしまいそうな印象です。
3.「動画ばっかり見てる」ことのデメリットは?
名作と呼ばれる小説は背景や人物設定がしっかりしているぶん、話が大きく動き出すまでに時間がかかります。一方、YouTubeやTikTokはすぐに面白さを感じられるように作ってあり、待たされる時間がない。頭を使わずとも「面白い!」という興奮状態をキープできるコンテンツがあると、頭の中でイメージを構築しながら楽しくなるのを待たなければならない本を選ばなくなりそうです。正直言って『走れメロス』もTikTokも生きるうえで役には立たないかもしれません。でも前者は人生をより豊かにする、世界を見る解像度を上げることに繋がりそうだなと親が感じるので、TikTokばかり見られるとモヤモヤしてしまうんですよね(笑)。
>> 動画コンテンツとの正しい付き合い方
1.動画視聴はペアレンタルコントロールが必須
自分で上手に利用できる、もしくは必要な時しか使わない場合は制限を設けなくていいと思います。しかし、多くの子どもは自分でコントロールすることが難しいので、見る時間や内容を家庭で決めるといいでしょう。突然制限すると「あったものを奪われる」形になるので、できればスマートフォンを持たせる時に設定したい。
2.学習動画など有益なコンテンツを上手に利用する
私の統計学の講義を受けた学生にも、理解できなかった部分をYouTube検索して補足勉強した子がいました。そのように、参考書的な使い方で活用できたらいいですよね。繰り返し視聴や一時停止ができて便利です。メディアが増えることはプラス要素が大きいですが、見るコンテンツの取捨選択は親の手助けが必要ですね。
3.どんな動画を見ているかいつでも話せる関係作りを
現状ではYouTubeの視聴に関する判断は家庭に委ねられています。個人的な話ですが、ある時、娘がテスト勉強をしながら何時間もYouTubeを再生していました。理由を聞くと「集中力が高まるから波の音を聞いていた」と。親が知らない使い方をしていたりもするので、普段から子どもが見ている動画について親子の会話があるといいですね
イラスト/大原沙弥香 取材/伊藤綾香 ※情報は2021年11月号掲載時のものです。