男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
田中さん(以下敬称略) 6歳の長男の話なんですが、「女性/男性」という区分で物事を見る傾向があります。やっぱり社会の価値観が沁みついているみたいで……。
例えば、「プリキュアは女だから、仮面ライダーよりも弱い!」などと言うんです。「仮面ライダーのほうが男だから強くて、プリキュアになんか負けるわけないんだ!」と。最近は、仮面ライダーにも女性がいるんですが……。
長男は、男のほうが女より強いことに、妙にこだわりを持ってしまっています。
親としては、そうじゃない事例もあるということを丁寧に言い続けていくのが大事だと思っています。
太田 私の息子たちは、年齢的に仮面ライダーは卒業してますが、先日、TVのニュースで海外の政治家たちが集まる会議の模様が映り、ずら~っと真っ黒な服を着たおじさんたちが並んでいるシーンがあったんですね。これを見て、私は意図的に息子たちにフィンランドの首相やドイツの首相など、数少ない女性リーダーの存在を教えるようにしました。今の日本を含めて、世界は不完全で、公平ではないこと、でもそれは当たり前ではないということを、そのたびに言っていくしかないと。
私たち大人が想像力をもって、対等な社会はこうあるべきだということを繰り返し話していくしかない。それはそれで大変なことですが。
田中 うちの長男は、どうしても比較がやめられないんです。TVに映っていた子どものお絵描きを見て「あれ、うまいね」と僕が言うと、「いや、僕のがうまいよ!」と。
TVの子が上手いという話をしていただけなのに、長男は自分が劣っていると思われたくないんです。他人と比べて自分のほうが優れているとか、褒められたい感情がある。
「いやいや、あなたはあなたで上手いけども……。この子も素晴らしいと思うよ」とわかりやすく話をしているつもりなのですが、なかなかすぐには伝わらない。
太田 なにか特効薬があるとか、この一言で決まるというものでもないですからね。
きっと子どもに伝わる瞬間がある。親はブレずに角度を変えながら話すことが大事
田中 いろんな言い方を試し続けたうえで、ある時、突然、言葉に機が熟し、長男が“腑に落ちた!”と思う瞬間を待つ感じですね。
太田 息子さんが周りの人たちとマウントを取り合うのではなく、みんなそれぞれにいいところがあると理解してくれればいいですね。頂点に立つことを目指すのでなく、さまざまな個性を認め合うことが大事です。
田中 息子は、カッコいいことだけじゃなくて、可愛いものも好きなんですね。でも結局、保育園の中では、可愛いものが好きな男の子は否定されがちです。そこで、ちょっと落ち込んでいた息子に僕は「でも、‟カッコいい”も“可愛い”も好きなほうが2倍得じゃん!」と話をしました。最近はそれをすごく納得してくれて。
「僕は、2つとも好きだから2倍得だ! そのほうが人生も楽しい!」と。
太田さんがさっき話されたように、〈特効薬はないから、言い方を変える〉、あるいは〈いつも丁寧に同じことでも説明する〉ことで、子どもたちが納得してくれる瞬間はやってきます。
太田 親が焦らないことですよね。私も特効薬があれば知りたいです(笑)。
いろんな角度から話す。その子の個性によって、こういう言い方のほうが伝わりやすいというのがあったり、試行錯誤ですよね。
でも親がブレずに、〈この子が将来対等な関係に築けるように〉〈ジェンダーバイアスで苦しまないように〉という想いがあれば、親も思い切っていろいろ言えます。諦めないで、いろいろ試行錯誤すること。
私も、今すぐには十分理解できなくても、いつか子どもに言葉が刺さってほしい、響いてほしい、と思いながらやっています(笑)。
うちの子どもたちは、だいぶわかってきてはいて、特に長男は自分の言葉で弟に説明をしたがります。
そういえば先日、長男が「どうして女性差別があるの? どうして女性のほうが劣ってることになったの?」と聞かれました。
「そうだよね、それに、合理的な理由なんかないということが大事だよね」と話したら、息子は「ずっと疑問だった。不思議だった」と言っていましたね。うちでは私が絶対王者なんですけど……(笑)。
「その疑問、忘れないでね。合理的理由なんかないのに、なぜ今性差別があるのかを考えようね」と言いました。
子どもからの質問の答えを誤魔化さず、正直に向き合いたい
田中 なるほど。僕の子どもと太田さんの子どもの年が離れてるので、お話を聞いていると子どもの質問のレベルも時間とともに上がってくるんだな、と思いました。
適切な年齢で適切なことを感じる。今の長男の感覚は、まさに偏見から来ているものかもしれません。
理由はないけど、女性を劣っていると思い、偏見に基づいて差別している。だから「それって、おかしいよね」という話をしなければなりません。
抽象的でレベルの高い話だと思うので、中学生ぐらいにならないとイメージと実態の違いや、われわれ社会の思いこみについて説明しづらいのですが、逆に言うと、中学生でそれぐらいのレベルの話ができるなんて、とても意味のあることです。
その子なりの理解力のスピードもあるので、〈この言葉がわかるかな?〉と思うこともありますが、本当に諦めないことですよね。一年経って、やっと腑に落ちることもあると思います。焦らなくてもいい。
だから、わが家も長期戦で行きます(笑)。
太田 こちら側が準備したり、調べたりすることも必要ですよね。
子どもは、いつどんな角度からボールを投げてくるかわからないので、答えられなかったらウヤムヤにせず、「すごく大事な質問をありがとう」「今は答えられないので少し考える時間をくれる?」のような返事をすることも大切だと思います。私にだって、その場では答えられないこともありますから。だから正直に、そう言います。
ジェンダーやセクシュアリティの問題について、今どういう議論があるのか紹介し、それについて〈ママはこう思う〉〈パパはこう思う〉ということを話し合う。その流れで、子どもたちにも自分なりの意見を言ってもらえるいいな……と思いますよね。
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取材/東 理恵
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。