男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
「性の二重基準」が今もなお放置されている
田中さん(以下敬称略) 前回、性的同意の話をしましたが、ジェンダーの問題に関わるような気がするので、この話しをもう少し深くできればと思います。
社会学では、“性の二重基準”という概念があります。「男は性に奔放であってもいいが、女は性に貞淑でなければならない」というものです。
このようなダブルスタンダードが存在しています。
こういうものがあると、男の人が女の人を誘うとき、どうしなければならないか……?
男性は、半ば強引にいかないと性行為に行き着けないわけです。
女は貞淑でなければいけないので、からだを守っている。だから、男は攻め込まないとセックスにありつけない。’80年代に『ホットドッグ・プレス』などの雑誌で、〈女性には飲ませて、やっちゃえ!〉といったような記事が出ていましたが、性に奔放な男たちは「身持ちのかたい」女をどう崩すか、という話になってしまう。逆に、女の子が避妊や性感染症予防のためにコンドームを持っていたら、はしたないということになってしまうのです。
なぜこの話をしたかったかというと、男の人はやはり“性的同意”というのが面倒くさいと思いがちなのではないかという印象を持っているからです。「なんでそんなことしなきゃいけないんだよ」という人が多いわけです。
でも、性の二重基準が崩れることは、性に積極的な女の子や、逆に、性に消極的でありたい男の子にとってはいいことだと思います。
〈男は奔放で、女は貞淑〉という構図が変わっていく中で、それぞれが好きなやり方で付き合っていけばいいし、性的同意の交渉もしていけばいい。
若い人の間でも、今だに、女の子が避妊具を自分で用意して持つのは、はしたない、という意識があるようです。そういうところがフェアになっていけば、男の子にとっても悪いことではないんです。
親もそういう話をもっとしていけばいいのですが、自分が若かった頃とは違うので子どもにどう伝えていけばいいかわからない。そもそも自分たち夫婦が性の二重基準から抜け出しているかという問題もあります。
だからこそ、意義がある話だと思うんですよね。
太田 夫婦も、性的同意を取れていないことは結構あると思います。
女性の性的主体性を認めるのはハードルが高いというか……。ものすごく「ヤリたい女性」だとか、言われかねませんよね。
女性の性の解放が、極端な文脈でしか語られない……。女性が脱ぐ方向の時は女性の自由な意思だ、と「性的自己決定権の行使だ」などと語られる一方で、触られたくない、脱ぎたくない、脱がされたくないという女性の性的決定権があちこちでないがしろにされている。なにか議論が散らかっていると感じます。
田中 太田さんの言うこと、わかります。
だから一時期、篠山紀信やアラーキーによる素人のヌードみたいな写真集が出てきました。ポルノとして消費されてしまうようなもの。そういった極端なものしか出てこないというのは、おっしゃるとおりですよね。
太田 そうなんです。もっと普通に取り組めばいいのに、それがなかなかできないですよね。
海外の性教育の現場では、生殖としての性行為だけではなく、快楽コミュニケーションとしての性行為についてもしっかりと教えているという話でした。でも、そういったことは日本の教育では今もタブーです。
ちなみに、田房永子さんはマンガの中で、女性だけの場でも女性器の扱いが隠し事のように語られていると指摘されていて、その感じすごくよくわかると思いました(「ママだって、人間」(河出書房新社) 所収「まんこの洗い方問題」)。
「ちんちん」のような言葉が女性器にはない、のが問題
田中 田房さんも性器の名称について書かれていたことがありましたが、例えば男女の性器のことをそれぞれ「夫さん」「妻さん」という呼び方で、なるべくナチュラルに使っていくというのはどうでしょう。なかなか定着しない言い方かもしれませんが、「ご主人さま」「奥さま」というより自然で丁寧な呼び方だと思います。
太田 慣れますよね。
田中 「妻さんは…」と言うぶんには僕自身も違和感はないです。
ただ、それは逆に言うと、女性の性に関する表現のタブー性、つまり“女性は性に貞淑で……”ということを打ち破るのはなかなか難しいと強く思います。
新しい言葉を意識的に作っていかないと。
それは少しずつでき始めているのかもわかりませんが、もっとスピードをあげたいと思いますよね。
日本語では男性器を「陰茎」とか言いますけど、言葉自体、あまりニュートラルな感じがしない。でも男の子は、ある意味性教育はしやすいです。「ちんちんが……」「たまたまが……」と言えばいいのですから。
ただ、うちの子が娘だったらそういう会話は難しかったと思います。
太田 私も息子には、絵本をそのまま見せて女性器の話をしていました。本を読んでヴァギナの説明をして、日本語の「膣」という呼び名は定着していないと教えています。男の子の「ちんちん」のような言葉がないと伝えました。
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取材/東 理恵
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。