行ったことはあるけれど、ただ「きれい!」で終わってませんか? チームラボボーダレス――この新感覚ミュージアムが目指す「共創社会」について、子どもたちと一緒に考えてみます。
【アートで共創教育 連載vol.7】チームラボ・松本明耐さんに聞く「年齢が違うお子さんたちは、ここでそれぞれどのように楽しんでいますか?」
初めはただ遊ぶだけで楽しかったのが、そのうち裏の仕組みが気になっていく。
生まれては散ってゆくアートたちを見て、社会や世界も同じようなのかも……などと繋げて考えてみるようになる。 etc.
前回はチームラボの松本明耐さんから、子どもたちは年齢を重ねるごとにアートの見方や考え方が変わってゆくことを教えていただきました。
それらを踏まえ、今回は、うちの子どもたちがいちばん楽しみにしていた「運動の森」へ行ってきました。
「運動の森」は一言で言うなら“暗闇アスレチック”。通常のアスレチックとは違い、さらにバランス感覚が必要です。視覚だけに頼らず、聴覚や触覚などを研ぎ澄まさなければなりません。
そしてコンセプトは“身体で世界を捉え、世界を立体的に考える”。脳の海馬を成長させ、空間認識能力を鍛える新しい「創造的運動空間」です。
「運動の森」は昨夏に3作品がリニューアルされ、、チームラボボーダレスにオープン当時に訪れた方はご存知ない作品も登場しています。私たち親子も今回が初体験です。
子どもは、意外と暗闇が好きなもの。
真っ暗すぎるのは怖がりますが、花火大会の夜やお正月の夜のような暗がりはテンションが上がるようです。
日差しのある昼間とは違った非日常空間で、視覚、聴覚、触覚、臭覚をフルに使うことは、都心暮らしの現代の子どもにとっては新鮮な体験なのでしょう。
いや、子どもに限らず、親にとってもそうなのかもしれませんね。
また、初夏の暑さに弱い大人には嬉しいアスレチックでもあります(笑)。
外のアスレチックは、日差しが強く日焼けも気になるうえ、まばゆい光の反射で目も辛く、体力が落ち気味の大人には疲れ果ててしまいます。ですが、ここなら全く快適に、子どもとほどよく会話しながらママも楽しめるのが嬉しい限りです。
“暗闇アスレチック”は、今までに体験したことのないからだを張った新アート。
子どもと親が一緒になって体幹を鍛えられそうです。
昼間の公園もいいけど、暗闇だからこそ五感が研ぎ澄まされる
まず、ひとつめは「タイフーンの上のエアリアルクライミング」。
蛍光色のカラフルな棒がワイヤーに吊られ、幻想的に空中浮遊。
低いものから高いもの、バラバラに配置されており、これが、本当にグラグラゆらゆらし、脚を取られ、股裂け状態になってしまいます。バランスを取るのが難しい!
からだが硬い私は、股が開かなくて痛くなるうえ、手がガクガクと揺れる……。
明らかにからだがなまっているのがわかりました。“老化だな……。体幹鍛えられるわ~”と思いつつ、横を見ると2人の子どもたちはサスガです。サクサクと先へ進み、「鬼ごっこしようよ~」とはしゃいでいるじゃありませんか。
「赤だけ進むこと~。黄色だけ進むこと~」などと言い合いながら、色分け鬼ごっこをしたり、股をわざと広げて進んでみたり、からだを思いっきり斜めにしてみたり……。子どもは遊びを考える天才ですね。想像力と創造力を発揮しながらデジタルアートの空間を自分たちの遊び場へと変えていきます。
これこそが体験して学べること。一緒に遊びに行くからこそ、間近で子どもの発想を見て、聞いて、感じることができる。やはり、子どもの遊びの現場に、親も一緒になって参加することが大事ですね。
娘と息子がお互いの感じ方の違いを表現して認め合う瞬間
遊びながら、娘がふいに下の床に降りた時、
「下がふわふわしてるよ~」と教えてくれました。
安全面に配慮した床のマットの柔らかさと、吊るされた棒の固さとの感触の違いが楽しいようで、棒に登ったり床に下りたり……。
そのうち、足元の巨大な渦に息子が気がつき始めました。
「なんか下がグルグルと渦巻いてきた! 台風の目みたいになってる!」
おぉ! そんな発見が出来たのか! よく気付いたね!
と、私自身も嬉しくなりました。
それこそデジタルアートならではのもの。自分が棒から棒へと渡り歩いていくことで、今まで何もなかったところが影響を受けて変化してゆく。
息子はびっくりしたようです。
さっきまで何もなかったのに、自分を中心に渦が巻き始め、自分が台風の目になった錯覚に陥っていました。
「水の波紋だね」
ぽつりとつぶやく娘。
確かに、水の波紋にも見えます。
双子の息子と娘の感覚の違いが、ここにも出るのか。
自分たちの言葉でそれぞれの感じ方を表現してくれた。
その瞬間に立ち会えるのは親として本当に嬉しいことです。
双子であっても感じ方が同じではない。
それぞれの意見を聞いて、〈そういう考えもあるのか〉とお互いに認め合っていました。2人が違った思いを感じ、受け止め合い、自分なりの解釈を考えた。
学校の勉強ではあまり教えてくれないことを、一瞬で学び取ってくれました。
コロナ禍だったということもありますが、最近の子どもたちはYouTubeの動画やゲームばかりで、家にいることが多くなりました。公園などの外遊びも少なくなりました。
生まれながらにしてデジタルネイティブ世代の子どもたちは、自分がゲームの主役になったような気分でデジタルアートの中で身近に遊ぶことができるのかもしれません。
たぶん、これからはゴッホやフェルメールといったファインアートに触れる機会も増えていくでしょう。デジタルに慣れ親しんだ現代っ子たちが、ファインアートの作品に触れたときにどういう見方、楽しみ方をするのか。その新しい感覚を、凝り固まった考えに染まった親たちにぜひ教えてほしいと思いました。
私たちの考え方もアップデートしなければならないだろうから。
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撮影/西 あかり 取材/東 理恵
https://borderless.teamlab.art/jp/