男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
「アダルト動画を見たでしょ?」とは言わないで
ライター東 太田さんにお聞きしたかったのですが、私の友人が「小5の息子がちょっとエッチなことに興味を持ちはじめて……。iPadで「えろあにめ」と検索しているのを発見してしまった」と。
太田さんのお子さんたちにも、そういったことはありましたか?
どう対処すればいいのかと思いまして……。
太田さん(以下敬称略) ベッドの下にエロ本を隠すのではなくて、検索というところが今どきですよね(笑)。
私も心構えはしているのですが、わが家には今のところ具体的なエピソードはないのです。私が気づいてないだけかもしれませんね。
でも、もし発見したら、それは彼のプライバシーだと思って、たぶん何も触れないと思います。
子どものそんな様子を見るのは、実際のところちょっと動揺くらいするでしょうし、女の人が嫌がっているような内容のポルノを見ているのだとしたらそのコンテンツ自体にいい気分はしないです。
それでも、「いやらしいものを見てなかった?」と指摘することは良くないと思う。
私の場合、息子たちは性教育の本を愛読していたので、〈わかってくれているだろう〉という信頼感がある。だから、それについては特に触れず、いつものように、性教育の題材になりそうなものを見つけたらそれを勧めたりすると思います。
今までも性教育の本を勧めてきたからこそ、自分にはそう思える余裕があるのかも。
ある程度は理解していると思いますので、子どものほうから相談されなければ、気づいても“興味をもつこともあるだろうね”と流しますね。
長男はいま中2ですが、もっと低年齢だったり、メディアリテラシーに不安を感じたら、気づいたその時に時間を取って話す必要があることもあるかもしれませんね。
「ママね、たまたま気づいちゃったから話すんだけど……」という感じで。
話すかどうかは、その子どもの年齢や理解度次第です。
田中 僕だったら「お前が観てたのを知ってるよ」と言われるのは耐えられないです。
もう何も話を聞きたくないと思ってしまいます(笑)。
逆に、子どもがそういう年齢になったときに伝えないといけないと思うのは、ポルノやアダルト動画で描かれているものは〈勃起、挿入、射精〉という1つのパターンだけだということ。
男の人が勃起して、女の人に挿入して、射精に至ったら終わり。それがセックスだ、という刷り込みは、男性本位的でもあるし、他のパターンを認めていない。
男性だからといって、いつも勃起して射精するわけではないのに、そこまで行きつかなかったら自尊心が傷つく男もいるわけです。「今日、オレは勃たなかった……」と。
今の子は、モザイクがかかっていないものも見てしまうので、アダルト動画の性器の様子と比べて自分のちんちんはおかしいんじゃないか? などと悩んでしまう考えてしまうおそれだってあります。
だから、既に子どもが観ているかどうかに限らず、“アダルト動画はセックスについて1つのパターンしか描いていないフィクション性の高いもの”と話しておく必要性があると思います。
どこかの段階で話しておくべきです。
太田 「観てたのを知ってるよ」と子どもに言っていい場面というのは、かなり限られているのではないでしょうか。よっぽど子どもが低年齢とかその後の言動に不安を感じるとかで、大人として説明を補わないといけない場合くらいかなと思います。
「性教育」を教えてもらって見るポルノと「性教育」を知らないで見るポルノは、全然意味が違う
田中 アダルト動画に「性的同意」のようなことは、ほとんど描かれていません。
「フィクションです」といったテロップは出ますが、太田さんがおっしゃるように、とてつもなく暴力的なもの、平気で強姦するようなものもある。
太田 強姦されている間に彼女がだんだん感じてきて、初めはレイプで始まったけど、なし崩し的に同意がなされた……・みたいな誤ったストーリーも多い。きちんとした性教育を受けていなければ、その動画を観て〈セックスとはそういうもの〉と思ってしまう。性別を問わず、女性だってそう思ってしまうところがあると思います。
性教育を受けたうえでポルノを観るのと、性教育がなくてポルノを観るのとでは、全然意味が違います。
田中 そうですね。
太田 だから、ポルノを見たくなるような年齢になる前に、「性的同意」を考える機会をちゃんと持つべきだと思いますよね。
小学高学年ぐらいからは、ある程度、踏み込んだことを言葉で伝えられたらいいですよね。
セクシャルな接触でなくても、「手をつなぐ」や「腕を組む」など、バウンダリーを超えるようなことをどれくらい許容してよいかには個人差もあるし、その時の気分もあります。
そのときに「手をつないでいい?」「腕を組んでいい?」と全て言葉にしないまでも、〈相手が断るかもしれない〉と思ったり、〈断られることもあるよね〉と意識した行動をとれることが大切。たとえ断られたとしても、自分を全否定しない受け止めができるようなコミュニケーションであるべきではないでしょうか。
コミュニケーションは省いてセックスだけしたい。そんな「性的同意」とはかけ離れたメンタリティが一部の男性にあります。あれはなんだろう? と思うのですけれども……。
田中 女性を「攻略」してセックスできたことを、一つの達成と理解しているのかもしれません。
その場での性的な関係性よりも、自分の満足感の方が大きいのでしょう。恋人や妻とのセックスで同意を取らないのは、すでにつき合ったり、結婚したりしているのだから、それが合意であり、いつでもセックスしてもいいと思っているのでしょう。
いずれにしても、女性が人として尊重されてはいないですよね。
【男の子の育て方 対談連載vol.7】「プリキュアより仮面ライダーのほうが強いと思っている息子をどうすれば……?」編
【男の子の育て方 対談連載vol.1】「うちの子が競争社会で勝ち抜けなかったらどうするの?」が問題です
取材/東 理恵
弁護士。中2と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。