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Lifestyleママとパパに贈る「ジェンダーレス学」

【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.10】「東大の合格率にも経済力が関係する時代?」

進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。

【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.9】「東大生たちの顔が真っ暗になる瞬間がわかりますか?」

「地域差とジェンダー」について①

Q.地方にはまだ「男性上位」文化が残っていると私は感じます。田舎に戻ると、親戚の人が集まった時に料理を用意したり、お茶やお酒を注いだりするのは女性の役割、という文化がまだ残っています……。どう思われますか。

それには「村寄合」の伝統があります。「家」同士がヨコにつながってオモテに出るのは男、その裏方を仕切るのが女という、集団の性分業です。
昔から、地域社会にはタテ型の家をヨコに串刺しにする、年寄組、若年寄り組、若集組など同性同年齢集団による、助け合いや介入がありました。家長の権力もこの集団から契約を受けました。
たとえば、明治民法では息子や娘は戸主の同意無しでは結婚できませんでしたが、村で若い男女が夫婦になろうとして戸主から反対を受けても、若者組が後押しして農作業への非協力などのいやがらせをして、戸主に同意を求めるなどの介入がありました。

Q<同性同年齢集団>ですか!  確かに田舎では、先輩や同級生のおじさんたちが集まり、お酒を飲みながらグダグダ会議をしていたイメージがあります。

年齢階梯制といって、男性は子ども組から始まって若者組、若年寄り組、年寄り組へと上がっていきます。ちなみに女性の場合は、娘組へ参加します。若者組は後に青年団へ、娘組は処女会へと改組され、さらにその後は地域婦人会に組織されました。

Q婦人会は強い感じがします。

強制加入ですからイヤも応もありません。基盤になっているのは農作業における協同労働です。
今のような機械化で家族単位になる以前の農家では、一斉に田植えをしたり稲刈りをするために協働労働が不可欠でした。その中で男女の役割分担も決まっていました。
地域によっては“女正月”というのもあります。

Q女正月ですか?

日頃裏方にまわって立ち働く女たちを慰労するために、女性だけが寄り集まって宴会をする、という慣習です。

Qその裏で男正月もあるんですか?

男は年中正月です(笑)。裏返せば、それほどいつもは女性ばかりが裏で働いてきたこということですけどね。

Qそうですよね(笑)

ただ、そんな農村の共同体もとっくに空洞化してしまいました。それでもそのあいだに培われた男尊女卑の慣行はかんたんにはなくなりません。女性蔑視は教育投資に如実に表れます。
地方と都会で大きく違うのは進学率とその男女差です。
進学率のジェンダーギャップは、地方に行くほど高い。
例えば、鹿児島県の大学進学率は日本でいちばん低く、そのうえ男女格差もあって、息子には教育を受けさせるが、娘には認めないという親たちもいます。

先日、熊本出身の女子大学生が言ってました。
「『女に教育はいらん』とか『大学なんか行かなくていい』と父親に言われてきたのですが、反対を押し切って進学しました」と。今時の話とは思えませんが、事実です。

都道府県別大学進学率(男女別)*女子の上位と下位

出典:文部科学省 「令和2年度学校基本統計」より作成

Q未だにですか?

未だにです。東さんの出身地の大阪は進学率が高いほうですね。

Q大阪は塾代の補助制度などがあり、いま学力に力を入れているようです。地元の友だちが助かると言っていました。ところで、‘90年代から大学進学率がさらに増えていませんか?

そう。男女ともに増えていますが、女子の進学率が急上昇しています。‘85年にできた男女雇用機会均等法の影響からです。
教育投資は投資ですから、将来にわたってリターン(収益)を期待して親が子にするものです。昔は、娘にはリターンが期待できないから教育投資の効果はないと思われていました。
ところが均等法以後、娘からもリターンが期待できると親が考えるようになってきたのでしょう。

出典:文部科学省 「令和2年度学校基本統計」より作成

進学率が上がり、女性の学生数が増えているにも関わらず、公立大学の入学定員数は横ばいで変わっていません。18歳人口が減少しているので、以前よりは入りやすくなっていますが、文科省は定員を増やそうとしていません。それを補っているのが授業料の高い私立大学です。

また、大学の難易度ランキングと学生の出身家庭の年収とが相関しているというデータもあります。事実、東京大学では中高一貫私立進学校出身者の合格者比率が高いのです。
つまり中等教育の段階で、より高い教育投資をした家庭の子どもたちが良い大学に入ることができるということがわかります。
偏差値が親の経済力と相関していれば、難易度の高い国立大は授業料が安く、結果的に大学では富裕層の子どもがコストの安い教育を受けられる。そうでない子は逆に、コストの高い私立大学で教育を受けねばならないということが起きています。

これが今の日本の教育の現状です。

Q.ひどいです! 経済力が伴わないと国立大学に入れない……。小さい時からお金をかけている家はいい大学に入れる、ということですか……。

そういうことになりますね。
初等教育、中等教育から投資を続けてきた成果が、子どもの大学の進学に表われるのでしょう。
ただしそうやって偏差値を伸ばしてきた学生の、その後の伸びしろが大きいかどうかは別問題ですが。

 

取材/東 理恵

上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。

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