東日本大震災から12年。今も、被災地の復興・新しい地域づくりが進められています。街並みが変わっただけでなく、震災は、多くの人の人生を変える転換点にもなりました。今回は、20代、30代での被災経験をきっかけに、一歩を踏み出した方々のお話をうかがいました。
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宮城と熊本で被災したシングルマザーが「防災を明るく元気に届けたい」に至るまで
佐々木綾子さん 48歳・宮城県在住 特定NPO法人「STORIA」代表理事
自分ではコントロールできない環境下の
子どもたちにも生きる力を与えるために
〝やってみたい〟を育んでいます
子どもたちにも生きる力を与えるために
〝やってみたい〟を育んでいます
仙台ではすべてのライフラインが停止。マンションに亀裂が入り、避難所生活を余儀なくされた佐々木綾子さん。「私自身が2人の子どもを働きながら育てるシングルマザーで、極限の状態で3カ月間、顔も知らなかった人たちと過ごして感じた思いがありました」。
子どもの頃からヤングケアラーで、自分らしく生きられない環境も体験してきた佐々木さん。「震災で親を亡くしたり、自分ではコントロールできない環境により可能性が閉ざされてしまう子どもたちを目の当たりにして、自分がなぜ生かされたのか。その意味を考えるようになりました」。
つらい環境で生きていく悲しみや喜びを子どもや親御さんと共に感じていくことが私の使命。そう思った佐々木さんはまずはアクションを起こしたいと、’13年に経営大学院に入学。学びながら被災地にも出向いて中学生の学習支援に携わると、「どうせ自分は」と将来を悲観する声を多く聞くように。
「自己肯定感が低くなってしまった子どもたちには、もっと早い時期に自信を持ってもらう環境が必要」と思った佐々木さんは、’16年にNPO法人「STORIA」を立ち上げました。
「日本の母子家庭の貧困は見えづらく、そして深刻です。保護者と過ごす安心感を得られにくい環境にいる子どもたちは、孤立し諦めから希望を失ってしまいます。『STORIA』はイタリア語で物語を意味する言葉。『貧困の連鎖から愛情の循環へ』というビジョンのもと、子どもたちと人生の物語を一緒に紡いでいきたいという想いで名づけました。子どもたちが信頼できる大人と関わり、自分らしくありのままでいられる場所があれば、子どもが持つ潜在能力を引き出すことができる。そのためにSTORIAでは、子どもたちの『やってみたい』という気持ちを大切にしています」。
コロナ前には子どもたちの「お金を稼いでみたい」の一言から、「子どもカフェ」の起業体験が行われたそう。「子どもたちは売上、利益目標を本気で考え、自発的に行動した体験から、他メンバーとの関わりを学び、お客様の喜ぶ姿から自信に繋がりました」。
「男たちの人生相談」というラジオ番組は、子どもたちがパーソナリティを務め、悩みを抱える大人たちに子どもたちが共感して回答。生きづらさを抱えているのは自分たちだけではないと気づき、本気で向かい合うことができた貴重な体験だったそう。
「大人は子ども扱いしがちで、力を見くびっているかもしれませんが、自分らしく生きる力が備われば可能性は無限にある。自分の人生を選択して歩んでほしい。『生まれただけで大切な価値があるよ』とこれからも見守っていきたいです」。
撮影/BOCO 取材/孫 理奈 ※情報は2023年4月号掲載時のものです。