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思春期の家出①〈親を殺すか、自分が家を出るか〉しかないところまで追いつめられた子どもたち 弁護士・坪井節子先生INTERVIEW

STORY6月号(P.206~)「わが子の家出」についての記事を担当した新人ライターの石澤です。
今回は、東京弁護士会「子どもの人権110番」で、いじめ、虐待、家出、少年犯罪といった子どもの人権救済活動に取り組み、さらに、社会福祉法人「カリヨン子どもセンター」で理事を務める弁護士・坪井節子先生にお話をうかがいました。
家出を選ばざるをえない子どもたちのいちばん近くにいらっしゃる坪井先生から、深刻な問題を抱えている子が多くいることを知り、うちの子でなくても真剣に考えなければならない状況だと感じました。
ここでは、本誌には書ききれなかった坪井先生のお話を紹介します。

撮影/杉本大希
坪井節子先生 弁護士。東京弁護士会「子どもの人権救済センター」などでいじめ、少年犯罪、虐待などに苦しむ子どもたちの相談援助活動を行う。社会福祉法人「カリヨン子どもセンター」理事長を務め、現在は理事。

“プチ家出”は、まだマシなほうなんです

“プチ家出”をすることができる子は、ある意味で健全なほうです。まだ逃げられるのだから…。“プチ家出”は自立のためのワンシーンという場合だって考えられます。
それに比べて、私たちのところへ来る子どもたちは、“プチ家出”のレベルじゃないんです。家の中で〈生きるか死ぬか〉と堪えなければいけない子たちなんですよ。
優等生で、必死に受験勉強を頑張って、いい学校に入って……でも、頑張っても頑張っても、一度も褒められず、何かあると怒鳴られたりして生きてきた子たちなんです。親から、その間ずっと虐待されているにも関わらず、〈親の期待に応えないと…〉〈なんとか親に愛されたい〉と頑張ってきたのです。
そういう子たちがギリギリのところまで追いつめられて耐えられなくなると、あとはもう〈親を殺すか、自分が家を出るか〉しかない。頭がいい子たちだからから親を殺したりはしない。その結果、家出をするのです。
昔から「家出=非行」というふうに見られていますが、子どもたちは正しいんです。
束縛されることに不満を感じ、自分の身を守るためにやってることなのに、どうして大人たちは許さないのだろう…。

行き場のない子たちが反社会勢力に巻き込まれる

結局、行く場所がなく、“プチ家出”で済まない子たちは歌舞伎町へ行くんです。
寝泊まりするところがなければ、最終的に反社会的勢力のお世話になるという覚悟をしないといけない。もう逃げ場がないから、風俗に追い込まれたり犯罪に巻き込まれても、そこで生きていくしかない。そして、反社会的勢力に巻き込まれちゃった子は簡単には逃げられない。逃げたいと思っても逃げさせてくれないんです。

自殺未遂に追い込まれた子どものケース

有名私立一貫校で、ひどいいじめがあって、子どもが遺書を書いて自殺未遂をしたことがあありました。
教育熱心なご両親の家庭でした。
ある時、お子さんが「僕はもう学校に行けない」と言ったのですが、親御さんはそんなに子どもが苦しんでるとは知らなかったので「あと3カ月我慢すれば高校に行けるのよ。考えなさい。強くなんなさい」って。
その時、子どもは最後の命の綱がプツンと切れた、と言っていました。

〈やっぱり親は僕に「強くなれ」って言うんだ。僕が「弱いからいけない」って言うんだ。僕はもうこれ以上強くなれない、死ぬしかない〉。

自殺未遂をして発見された子どもは、救急治療で一命を取り留めました。
親御さんは、やっと気づきました。

「もう学校なんて行かなくていい。私たちは学校でいい成績を取ることが、この子の幸せだと思って一生懸命やってきたけど、この子がいなくなったら何にもなくなる。もう学校も成績も何にもいらない。あなたが生きててくれさえすればいい」と。

生きていること以上に大事なものはないと覚めたわけ。
その言葉で、彼は親が自分を愛してくれていたことがわかった。〈学校よりも自分の命が大事だと気づいてくれた〉〈もう一度、生きてみようと思った〉って。
子どもの相談を聞いていると、親は何気なく言っちゃってるんですよね。追い込むような言葉を。しかも、子どもがどういう気持ちでいるのか、気づいていないことが多いんです。
自殺に追い込まれる前に、その子がなぜもっと自分の気持ちを打ち明けなかったかというと、「そんなことを言ったら親が悲しむと思ったから」だって。
それまでは散々ひとりで戦ってきたのに、もう学校へ行けない、学校で結果が出せないということは、〈もう将来がない〉と思ってしまったのです。

教育熱心な親は、実は子どもに依存している

スマホがあると、GPSで子どもの居場所が分かってしまうので、子どもシェルターの「カリヨン子どもセンター」では、駆け込んできた子どもたちのスマホを職員が預かります。
そこまでして親から隠れなきゃいけない子たちが来ます。子どもと外との連絡は、弁護士を通してのみ。親たちは警察や探偵を使って探すので、そういう前提にしないと子どもたちを守れないこともあるのです。
親御さんたちには、プライドが高くて立派なお家の方が多く、「児童相談所やシェルターなんて、とんでもない」という方が多い。自分たちが悪いと思ってないのです。
「虐待なんて、してません。いいものを与えて、こんなに熱心に教育してきた」「子どもは、わがままなんだ」
「親のありがたさがわかってないんだ」
親はそういう感じなんです。
「高校に退学届を出してやる」と言って脅す親もいます。それが心理的な虐待だということに気づいてない。
そういう親ほど子どもに物凄い期待をかけているので、子どもが家出したり、不登校になったり、受験に失敗したりすると、自分自身の人生が真っ暗になっちゃうと錯覚する。
子どもに依存してるわけですよね。

思春期に反抗してこそ子どもは大人になっていく

厳しい門限があり、スマホを持たされてGPSで追われて、ちゃんと塾に行ってるかどうか毎日管理されている子どもたち。
でも、本来、思春期から大学までの間は、親の言いなりになれなくて当たり前。
親の言いなりになっている子どものほうが怖い。そういう子たちは、どこかの段階で絶対に爆発するから。
思春期にちゃんと親に反抗していた子たちが、大人になったときに、やっと親というものを客観視できるようになり、大人と対等の関係になるんです。

子どもは親の所有物ではなくて対等なパートナーです

そういう私も、子どもたちとはいろいろありました(笑)。
うちの子も家出したことがあるから、わかる。
娘が大きくなってから教えてくれたのだけど、子どもの頃は、私と夫の夫婦喧嘩がとても怖かった、と。言葉だけの喧嘩とはいえ、〈お父さんとお母さんは離婚しちゃうんじゃないか〉と不安を感じていたようです。子どもは親が思ってるより、いろんなことを考えているんですよね。
娘が不登校になった時も、本当に不安でした。親は、なんとか学校に行かせたいと思うものよね。でも子どもにしてみれば〈学校に行くぐらいなら、家を出てってやる〉みたいな感じになるんです。
「お母さんは子どもの人権を守る活動をしているのに、自分の子どもの人権が守れてないじゃない」と言われたこともあります(笑)。
娘たちがまだ5歳ぐらいの頃、ちょうど弁護士として子どもの人権について深く学び始めた時期に〈私は毎日、上から目線だった…〉と気づきました。「これはあなたのためよ」と思ってしていたことが、実は心理的虐待につながる要素をはらんでいるし、子どもを支配する母親になりがちだし、これでは子どもと対等なパートナーになれない、と。
その日は家に帰って早速「今日から、お母さんもあなたたちのパートナーだからね」と言いました。子どもはポカーンという感じでしたね(笑)。
ですが、それは、すごく大変なことでした。〈この幼い子たちだって、自分の人生を自分で選んで生きていくひとりの人間。私たちは対等なんだ〉という意識を自分の中に埋め込まなければならない…。
例えば、2歳の娘がニンジンを食べなかった時。「ニンジンを食べないんだったら、おやつをあげないわよ」と言っていました。みなさんも普通にそういう状況はありあますよね? でも、それは脅迫だと気づいたのです。脅迫してニンジンを食べさせる親が、子どものパートナーとは言えない。
そこで
「お母さんね、あなたの目がとっても大事なの。あなたの目が悪くなってほしくないの。ニンジンの中には、ビタミンAという栄養が入っていてね、これがなくなると、目が病気になることがあるの。だからお母さんは、あなたにニンジンを食べてほしい。でも、ニンジンを食べるか食べないかは、あなた決めるのよ。」と言いました。
でも食べない…。
ところが何回もそれを繰り返した結果、1週間ぐらいしてからカレーライスの人参を1枚食べました。どうして食べたのかは、わからない。本当にビタミンAが必要だと思ったのか、お母さんが忙しそうだからと同情してくれたのか。でも、少なくとも「おやつをあげないからね」と脅迫して食べてもらうことだけはしないで済んだ。
小さな子どもたちにとって、自分の人生の中で選べることはいくつもあります。それなのに親は先手先手で「こうしなさい、ああしなさい」と言ってしまう。でも、子どもだってひとりの人間だということを忘れないでほしい。子どもは親の所要物じゃなくて、対等なパートナーなんですから。

18歳でひとり立ちをさせるのが教育の目的――スウェーデンの場合

30~40年前に、スウェーデンの社会科の教科書を見せてもらいました。
スウェーデンでは、18を過ぎたら家を出るのが当たり前で、そのときにひとり暮らしができるようにするためのことを学んでいます。家を借りるときはどうする? 光熱費はどうする? 税金どうする? 保険はどうする? そういったことを高校生に教えています。そして困った時のための相談先リストがすべて教科書に書いてあります。ビックリしました。
日本の教育では、いくら知識を詰め込んだところで、親のサポートなしに18歳でひとり暮らしはできません。高校生、大学生は銀行口座の作り方さえ知らない。ひとり立ちする時のために、親が子どものお金を貯めておきますよね。親が先回りをして、子どもの社会的自立のお膳立てをしてしまうのです。

親子関係や家出に悩んでるSTORY読者へのメッセージ

もし、あなたのお子さんが“プチ家出”をして、やっと家に帰ってきたとします。
そのときには決して「どこに行ってたの!」と叱らないでください。「心配してたよ」と声をかけ、「お母さんたちが悪かった? やり方をなにか変えたほうがいい?」と本人に聞いてください。
答えは、子どもとの関係にしかないから。子どもが正直に答えてくれない場合もありますが、それも大人になっている証拠!
親を傷つけたくないから、嘘をついてることもあります。親を尊重するために言わないことだっていっぱいある。親が子どもを支えているわけではなくて、子どもが親を支えてくれているのも知ってほしいです。私自身、子育ての失敗談はいっぱいありますが、本当に子どもたちに育てられましたから。

思春期の家出②「子どもは行動を起こす前に必ずサインを出しているんです」

《取材ライターの編集後記》 “プチ家出”は成長の過程とのことですが、それ以前に、親の都合で子どもに我慢させていることがいっぱいあったのだと気づかされました。忙しいことを理由に子どもに耳を傾けてなかったこと、「あれはだめ!」「これをしなさい!」と、すべて命令口調だった私。この子のためにではなく、結局は自分の都合のいいように子どもを叱っていたのだと教えていただきました。

STORYライター・石澤扶美恵
9歳の娘を持つ母。娘はギャングエイジから思春期に入り激しい反抗的態度の毎日で悪戦苦闘。娘本人も、イライラしてしまうコントロールの利かないこの性格と向き合うことが辛く、逃げ出すことも。そんな娘と向き合う時間にストレスを感じることもあり、食べることでストレス発散!趣味はランチ巡り。ショッピング。
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