STORY6月号(P.206~)「わが子の家出」についての記事を担当したライターの竹永です。
最近はSNSの普及もあって、家出少女が事件に巻き込まれるニュースをよく目にするようになりました。
〈うちの子も、もしかしたら…〉心配される母たちの声も聞こえます。
私のほうでは、子どもたちに寄り添うシェルター「ハピネスハウス」の宇野明香さんにお話をうかがいました。本誌のつづきをWEBにてお伝えします。
家に帰れずに深夜徘徊する様子をSNSに上げる子ども
私自身が産後、周りを頼れる環境がなく、子育ての大変さを身をもって経験しました。
だから、あるとき、子どもの虐待のニュースを見て〈許されることではないけれど、親自身もそこまで追い詰められてしまうくらいしんどかったのかな…〉と感じました。
〈ちょっとでも手抜きできる日をお母さんたちに提供できたら何かが変わるかもしれない〉
そんな思いがあり、子ども食堂をオープンしたんです。その多くは小学生の子たちでしたが、大きくなるにつれて、だんだん家に帰りたがらない子が出てきたんですよね。家で自分の気持ちが出せないでいるみたいで、帰る頃に泣き出しちゃう子も…。リストカットなど、身体的に症状が出る子もいました。
そのうち、そんな子の1人が、家に帰れずに深夜徘徊している様子をSNS動画に上げているのを見て、〈安心安全に寝られる場所を提供してあげたい!〉という焦りにも似た気持ちが。
少女たちのシェルター「ハピネスハウス」は昨年、そうして生まれました。
優しくていい子たちだからこそ、限界まで我慢してしまう
シェルターを利用する子は、中高生から大学生。長い時間一緒にいる子たちからは、しっかりと話を聞いて、状況を見極めたうえで泊まってもらっています。あとは、中高生の居場所を運営する団体から紹介されることもあります。
市販薬の過剰摂取や、リストカットの子、シェルターの中で首を吊ってしまう子…。メンタルがぐちゃぐちゃになるまで我慢してるんですよ。
大学生の子だったかな。家はお金持ちで家族はみんな仲が良いという“設定”を装って、自分もずっと外面よく生きてきたのですが、自分の気持ちよりも周りの目や世間体を気にしてしまうことでどんどん苦しくなってしまった。結局、今ではSNSだけが唯一本当の自分で居られる場所だと言ってましたね。
虐待を受けたり、夜に家を追い出されて公園で隠れて寝ていたりする子、家に一緒にいるのに存在を無視され続けている子もいました。親が外面がいいと誰にも信じてもらえないんですよね。
子どもなんだし、近くの人に助けを求めればいいのに、〈自分が悪いことをしたからいけない…〉〈見つかったらいけない〉と、ひたすら耐えている子たち。心、そして体まで蝕まれていくと、回復には本当に時間がかかってしまうんですよ。“さみしい”とか“辛い”という気持ちは当たり前のこと。だから「しんどい時にはおいでね」って伝えています。
親は子どもの声をもっと真剣に聞いてほしい
「こうすれば家出ができる」「ここに行ったら同じ仲間がいる」――SNSは今の子たちの家出を助長しているのは間違いないと思います。
好奇心のある年頃ですし、今さらSNSを規制するのも無理があるでしょう。そうなると、いざというときに、〈やっぱりやめておこうかな?〉と思えるかどうかが分かれめになります。
子どもは行動を起こす前に必ずサインを出しているんです。それを見逃さないことが大切です。
子ども食堂には、学校に行けない子たちも遊びに来てくれますが、「朝、起きれなくてしんどい」とか「学校に行こうとしたらお腹が痛くなる」ということがあります。
それを聞いて「そんなことに負けるな!」と叱る親は、自分の思いどおりにならないことに憤りを感じるのかもしれませんが、もっと子どもの声を真剣に聞いてほしいと思います。
もちろん、難しい年頃の子への対応を母親が全部担うのは難しい場合もあります。
だから「ハピネスハウス」には大学生をはじめ、子どもと年齢の近いスタッフがいて、親には話せないことも気軽に話せる環境があります。親や先生以外の人と話すことで、何かしら解決されるものもあると実感しています。
支援を必要とする少年少女が生きづらい社会
命を守るためにも家から出たほうがいい、という事例も多くあります。
私たちは、子どもたちが自立するためのお手伝いをしていますが、未成年の場合は本人確認のできる身分証明証がありません。運転免許を持っていたら別ですけれども、家の契約も保護者の同意が必要だし、銀行口座を作ってもキャッシュカードは自宅に送られてしまう。今の制度だと、保護者から離れた子どもたちは生きることが難しいんです。
結果的に親元に戻らざるを得ない場合でも、なんとか命は繋いでもらいたい…。これ以上、自傷がエスカレートしないように、「自分を大事にしてね、あなたはそのままでいいんだよ」と伝えています。
私自身も過酷な環境で育ってきたのですが、今の子どもたちの話を聞いていると理解の範疇を超えたものばかり。子どもの人権が守られていないと感じます。
頼れる大人がいない若者たちにとって、「ハピネスハウス」が〈本来の自分らしくいられる〉〈自分が大丈夫だと思える〉居場所となり、いつでも立ち寄ったり、帰ってこられる“第二の実家”になってくれたらいいなと思っています。
ただ漠然と、〈今の時代って、怖いもんだね…〉なんて感覚でしたが、その背景には、昔も今も変わらない親子関係が隠れていたんですね。
自分もかつては子どもで、親に「出て行け!」なんて言われ、裏山の切り株にうずくまっていた経験があります。でも、田舎だったから? 情報が乏しかったから? 大して怖い思いもせずにいまがあります。
もしあの頃スマホがあったら…相当駆使していたに違いないですし、そのせいで危険に遭遇していたかもしれません。
自分への戒めも込めて、ここに書きますが――
親からの言葉って、相当な威力があるものだと思います。
“出て行け”という言葉も、今思うと、
「親の言うことを聞かない子どもは、この家から出て行け & 親の言うことを聞いて、家の中に残っていてほしい」
と難解な親心が入っているのですが、子どもの私にとっては、〈もう自分は必要ない子なんだ…〉としか聞こえてこなかった。
40代になっても覚えているくらいだからこそ、子どもに発する言葉には細心の注意を払わねばと思います。
でも一方で、自分の発することばかりにかまけて〈子どもからの発信をしっかり受け止めているかしら?〉と。「子どものサインを見落とさないで」というアドバイスにハッとした次第です。
今のところは、上の娘も、下の息子もオープンに話してくれているように思いますが、これからますます思春期突入! 受信機MAXにして臨むべし! ですね。
STORYライター・竹永久美子
中3女子と小5男子の母。スーツ一辺倒だった外資系医療営業から専業主婦時代を経てライターに。”いまを思いっきり楽しむ!”をモットーに、ファッション・美容・ヘルスケア、あらゆるジャンルの新しいものに挑戦する6年目ライター。JuniorSTORYでは、思春期の子を持つ親としてなにが正解か? 取り巻く社会が変わる中で親も変えるべきことを学び、発信している。