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車いすテニス国枝慎吾さん・愛さん夫妻の、二人で歩んだ19年とこれから

四大大会で50勝を挙げ、「車いすテニス」を世に知らしめパラスポーツの概念を変えた国枝慎吾さん。そんなレジェンドの隣で、いつもパッと明るい笑顔で微笑む女性がいたのをご存じですか――?引退までの5年間、全ての遠征に帯同し、食事・精神的サポートと国枝さんと共に闘った、妻・愛さん。引退宣言から数カ月、コートから一歩先へと踏み出した国枝さんご夫婦の今、そして未来を追いました。

目次 ★ 19年間テニスをする夫しか知らないから、 始まった新しい時間が楽しみです
★ 我がサポートに悔いナシ! だから今、清々しい気持ちです
★ 夫が現役中は 得られなかった 〝自分のための時間〟。諦めた趣味や習いごとも再開したい――。
★ 夫婦ともに選択肢が広がった新しい人生。見たことがない景色をたくさん見てみたい――
★ 夫婦共に心に残るつの闘い
★ アスリートフードマイスターの資格を持つ愛さんの手料理SNAP!

19年間テニスをする夫しか知らないから、 始まった新しい時間が楽しみです

Ai Kunieda
夫・国枝慎吾さんの食生活をサポートするため’13年にアスリートフードマイスター3級を取得。本年アスリートフードマイスター最優秀賞受賞。インスタグラム(@ai_meshi3241)で日々の食事を発信。

我がサポートに悔いナシ! だから今、清々しい気持ちです

オフの日は近所の公園でパンとコーヒーを 現役時代から、夫がオフの土日はリフレッシュを兼ねて、散歩に出かけていました。お気に入りのパン屋さんのパンとコンビニのコーヒーをテイクアウトして、近所の公園のベンチでランチをするのが定番。引退した今も、週末の過ごし方は変わっていません。

夫と出会ったのは、同じ大学のテニスサークルでした。同級生だったこともあり、友達として接するうち自然にお付き合いが始まりました。その後、7年間お付き合いして27歳で結婚。不思議と車いす生活を送る夫と人生を共にすることに、葛藤はありませんでした。両親も「愛が選んだ人なら」と、反対はしませんでした。

出会ってから19年間、夫はずっとテニス一筋。そんな彼から、「引退することに決めた――」

そう打ち明けられたのは、年が明けてすぐのこと。1月3日にトレーニング向かう途中、運転する目の前にくっきりと富士山が見え、「登りきったな」という思いが沸き上がってきたそうです。練習を終えて帰ってきた彼に、真っ先にその気持ちを打ち明けられた私は、「これまで私は、テニスをするあなたしか知らない。だから、それ以外のあなたを見るのが楽しみ」そう、伝えました。彼は、「救われた気持ちがした」と、1月22日に引退を表明し、笑顔で会見に臨みました。

夫は現役時代、パフォーマンスに影響が出ることから、「痛い」「辛い」といったネガティブな情報は一切外には出さないよう徹底して、どんな状態でも「絶好調」をアピールしていました。だから、「俺は最強だ!」が座右の銘の夫が、本音をさらけ出し、彼の弱い部分を知るのは、ある意味私だけだったんです(笑)。

そう、実は夫が引退を意識し始めたのは、’21年の東京パラリンピックを終えたあたりからでした。「そろそろかもしれない……」私も、そう感じてはいたのですが、テニス四大大会・シングルスの中で唯一、ウィンブルドンの優勝だけが獲得できていなかったため、’22年も引き続きプレーできるよう、夫のやる気スイッチを探しながらサポートし続けていました。そして、同年ウィンブルドン初優勝を果たし、「生涯ゴールデンスラム」を達成。これは夫のキャリアの中でも、その隣でサポートをしてきた私にとっても、大きな出来事でした。

だから、私自身も、「我がサポートに一片の悔いなし!」と清々しい気持ち。私たち夫婦にとって、そして私自身にとっても、これからが見たことのない第2章。今、そのスタート地点に立ち、ワクワクしている自分がいます。

【愛さん】シャツ¥15,950(ネイヴ)カットソー¥13,200(ルミノア/ゲストリスト)スカート¥19,250(ルージュ・ヴィフ/ルージュ・ヴィフ ラクレ ルミネ新宿店)バッグ¥66,000(バイファー/バーニーズ ニューヨーク カスタマーセンター)ピアス¥20,680(バルブス/ZUTTOHOLIC)ブレスレット¥35,200ラリマーリング¥63,800(ともにマリハ)他リング(愛さん私物)[慎吾さん]着用分はすべてユニクロ

夫が現役中は 得られなかった 〝自分のための時間〟。諦めた趣味や習いごとも再開したい――。

甘いものは夫婦ともに大好きご褒美の日はケーキが定番です

夫も私も大の甘党。近所のお気に入りのパティスリーがあり、大好きなミルフィーユを夫に内緒でこっそり食べる日も。夫も「これからは大好きなスイーツを存分に食べられる!」とご満悦です。
撮影協力/アルノー・ラエール パリ www.arnaudlarher.jp

ボーダートップス¥9,900(emmi/エミ ニュウマン新宿店)スカート¥28,600(アルアバイル)バッグ¥22,000(ヴィオラドーロ/ピーチ)ピアス¥13,200(アンセム フォー ザ センセズ/アマン)

これからは明日を気にせず夫婦でワインを楽しめます

夫は現役中、時間も量も気にせずにお酒を飲むことはなかったのですが、これからは明日を考えずに飲める機会も増えそう。引退後、まだ夫婦でゆっくり祝杯をあげていないので、チーズとワインで心置きなく飲みたいです。
撮影協力/アルパージュ alpage.co.jp

ツイードジレ¥41,800(エリオポール/エリオポール代官山)シアーニット¥13,200(エストネーション)パンツ¥15,400(FRAY I.D/FRAY I.D ルミネ新宿2店)バッグ¥121,000(J&M デヴィッドソン/J&M デヴィッドソン カスタマーセンター)サンダル¥36,300(チェンバー/クルーズ ショールーム)ピアス¥17,600(アンテプリマ/アンテプリマ 新宿タカシマヤ)

知り合った学生時代のように二人でテニスを楽しんで

「愛は運動不足だから、付き合ってあげる」という夫(笑)。彼は、今後もライフワークとしてラケットを持ち続けるつもりのようなので、二人のテニス時間も大切にしたい。これからは、出会った頃の学生時代のように遊び感覚で純粋にテニスを楽しむことができるんじゃないかな、と思っています。

ハーフジップパーカ¥7,590キュロットパンツ¥7,700トレンカ¥6,930スニーカー¥10,450(すべてルコックスポルティフ/デサントジャパンお客様相談室)ピアス¥49,500(ケンゴ クマ プラス マユ/ヴァンドームヤマダ)

結婚を機に諦めたフラメンコを再スタート

社会人になってから習い始めて、すっかりハマったフラメンコ。楽しくて毎週教室に通っていたのですが、夫のサポートをするようになり、なかなかスケジュールが合わなくてお休み中。これからは自分に使える時間が持てそうなので、レッスンも再開予定です。

ニット¥17,600(カデュネ/カデュネ プレスルーム)リブタンクトップ¥12,100(YANUK/カイタックインターナショナル)スカート¥24,200(マイカ アンド ディール/マイカ アンド ディール 恵比寿店)バッグ¥27,500(ジャンニ キアリーニ/ジャンニ キアリーニ 銀座店)ピアス¥17,600(アンテプリマ/アンテプリマ 新宿髙島屋店)ネックレス¥148,500(ガルニ/ガルニトウキョウ)

◇ なぜ私ばかり諦めるの……? モヤモヤ気分で始まった生活

結婚生活のスタートは、「テニス選手・国枝慎吾と結婚するんだ」という意識は全くなく、「たまたま好きになった人がテニス選手だった―」そんな単純な私の考えを、すぐに打ち砕くものでした。

当時、新卒入社した福祉用具のレンタル会社から食品メーカーに転職し、仕事のやりがいを感じ始めていた私は、結婚後も仕事を続けるつもりでいました。それが、次第に自己実現との狭間で悩むようになりました。

そして、夫の練習拠点の近くに引っ越すと、働いていたメーカーへの通勤に2時間かかるようになり、体力的にも辛く会社を辞める選択をしました。また、結婚前に没頭し楽しんでいたフラメンコの趣味も、夫を軸とした生活に諦めざるをえませんでした。

「夫だって自分が好きで選んだ道なのに、なぜ私ばかり……」と反発したり、なかなか納得できずに、結婚して4、5年は、どこかモヤモヤしていました。

◇ 海外遠征に帯同した5年で心から“チーム国枝”の一員に

そんな私の気持ちが切り替わったのは、’16年の夫の大きな怪我がきっかけでした。右ひじを痛め、手術の回復にも時間がかかる中、夫のやり遂げようとしていることの大きさと、皆からの期待を初めて肌で感じ、心からサポートし、応援したいと思ったのです。

引退を覚悟するほどの怪我だったので、「もう最後になるかもしれない……」と遠征に帯同するようになったのもこの頃。

滞在するホテルにキッチンがあれば食事やお弁当を作り、そうでなければ、最低限おにぎりだけは作れるように準備して、現地での食生活を管理していました。基本的に恥ずかしがりやの彼は、私の目を見て「ありがとう」と言うことはありませんが、「妻に感謝している」と周りに話すことが増え、人づてに彼の気持ちを知ると、サポートのモチベーションになりました。

コーチやトレーナーと一緒に全力で応援し優勝する喜びも負ける悔しさもみんなで共有するようになり、「妻も含めたチーム国枝としての一体感が出た」と言葉にしてくれるようになりました。優勝スピーチにも私の名が挙がるようになり、この5年間で夫も私も変わったと思います。

夫とともに闘い、夫婦としての信頼を互いに感じる今、その温かな気持ちの中で、習いごとや趣味――、私自身が諦めていた一つ一つを再スタートできたら、そう思っています。

夫婦ともに選択肢が広がった新しい人生。見たことがない景色をたくさん見てみたい――

「料理ができるようになりたい!」という夫の希望で二人で料理を 引退後、「二人でしてみたい!」と最初に浮かんだのが料理。妻が作りたくない日もあるだろうし、コートから出たら何もできないから、生きる術を身につけないと(笑)。作ってみたいのはパエリアか親子丼かな。簡単そうだから」(慎吾さん)撮影ではパエリア作りに挑戦。

夫は引退後、たくさんの取材依頼をいただき、今も忙しい毎日。

「引退後もやることがあって良かった!」と、定年した夫を見守る気分です(笑)。今後のことは、まだ明確に決めていませんが、この先、夫にやりたいことが見つかった時に、私がまた隣でサポートできたら、そう思っています。

コートから一歩外に出ると、車椅子での生活は、残念な思いや、悲しい気持ちになることも、まだまだあるのが現実。それだけに、急に明日休みができ、「旅行に行こう!」と思い立っても、行き先がバリアフリーかどうかを調べるのも一苦労。それで、結局は断念してしまい、行き慣れた場所に出かけがちでした。でも、時間も自由も増えるこれからは、二人で見たことがない景色をたくさん見てみたい。

現役時代の夫は、遠征で海外に行っても、ホテルと会場の往復だけの生活。試合後はホテルに帰り、パッと食事をして、次の日に備えて寝るのがルーティンで、一切観光もしませんでした。でも、昨年1月のオーストラリア遠征では、珍しくチームのみんなでトラムに乗り、海辺のカフェでのんびりと過ごしたんです。引退を意識して、気持ちに少し余裕ができたのでしょう。

「背負っていたものを下ろせて楽になった」そう口にする彼の言葉に、これまでどれだけ緊張感のある日々を過ごしてきたのだろう――そう感じます。これからは、ライフスタイルも大きく変わり、色々なことを自分で選べるようにもなると思います。住む場所、時間の使い方……、自由を得た今、長い人生、一度くらい海外に住んでみるのも面白そう。具体的な人生プランはまだこれからですが、まっ白なキャンバスに夫婦の未来、自分の未来をどう描こう――、そんなふうに考えるのが、今楽しくてしょうがありません。

[愛さん]ニット¥14,300(バビロン/エレメントルール カスタマーサービス)Tシャツ¥9,900(ウーア/カレンソロジー青山)パンツ¥17,600(ヘルシーデニム/ゲストリスト)ピアス¥147,000(マリハ)[慎吾さん]すべてユニクロ。

夫婦共に心に残るつの闘い

  • 2018年 全豪オープン 優勝
  • 2021年 東京パラリンピック男子シングルス 優勝
  • 2022年 ウィンブルドン 男子シングルス 優勝

「一番心に残るのは東京。2016年に怪我をして、妻にはどん底から這い上がる時期に寄り添ってもらい、お互いの頑張りが報われた大会でした」(慎吾さん)「怪我から復帰してようやく優勝できた全豪、悲願のウィンブルドン優勝の感動は忘れられません」(愛さん)

アスリートフードマイスターの資格を持つ愛さんの手料理SNAP!

献立は「まごわやさしい」を基本に考えます。この日は白米にゴマをちょい足し。豚汁には冷蔵庫の余り野菜をたっぷりと。
遠征前の晩ご飯は鯛めしが恒例。国枝家のパワーご飯です。バランスよく食べたいので、食卓にはフルーツの登場頻度も高め。
塩麹にひと晩漬け込んだ牛肉を焼いてご飯の上にのせたお弁当。余ったぶんはわっぱのお弁当箱に入れて、私のお昼ごはんに。
ストウブで作った、大根と豚バラのミルフィーユ鍋。キレイに並べる作業も楽しく、簡単で美味しい頼れるメニューです。
夫に「なんかクセがある」と言われたキーマカレー。スパイスが効いたものが食べたくなる暑い日のランチにぴったり。

撮影/村上 健、遠藤優貴 ヘア・メーク/内藤 歩、TOMIE スタイリスト/杉本学子、MaiKo yoshida、入江未悠 取材/坂本結香 構成/河合由樹 ※情報は2023年6月号掲載時のものです。

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