発想がクスっと笑えて面白い!と、子どもだけでなく大人をも魅了し続ける絵本作家のヨシタケシンスケさん。大人気の”発想えほん”シリーズの第5弾『ぼくはいったいどこにいるんだ』(ブロンズ新社)が話題です。今回のテーマは「地図」。主人公の男の子が、お母さんからおつかいを頼まれたときに手書きの地図をもらったことをきっかけに、地図に興味を持ちはじめます。やがて自分を取り巻く環境を図(地図)に置き換えて考え、最終的に自分の「未来地図」を想像し始めます。その“ぼくのみらいのちず”には、ヨシタケさんが子どもたちに伝えたい想いが詰まっていました。
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『ぼくはいったいどこにいるんだ』を書くきっかけは何だったのでしょうか?
この本のテーマは「地図」と言っていますが、実は「図」の本です。いろいろなことを図にするとわかりやすいですよね。僕自身、ふだんから図を描くことが好きだったし、図は物事を誰かと共有するときに便利です。図の中でもイメージしやすいのが「地図」。今回、絵本では様々な地図が登場しますが、僕自身、いちばん描きたかったのが、主人公が自分の未来について考えるときに出てくる“ぼくのみらいのちず”です。僕たちは、“人生の図”って言われたとき、目の前に2つの扉があって、それぞれの扉の先には別々の道があるような図をイメージすると思うんです。でもそれだと目の前の扉(選択)を間違えてしまったら、取り返しがつかない人生になってしまうのかなと思ってしまい、扉を選ぶことさえ怖いですよね。でも、僕は人生って実はそういう選択ではないと思うんですよね。
目的に対して、一直線に人生を歩める人なんてわずかで、大半の人たちにとって人生は絵本の“ぼくのみらいのちず”ように網目状になっているのかなと。選択肢はたくさんあっていいし、今日選んだことと明日選ぶことがバラバラでもいいですし、引き返してもいいはず。違うものを選んだつもりだったけど、実は繋がってきたり。そんなふうに人生の道のりは紆余曲折、迷いながらいろんな道を通るけど、最終的に自分の行きつくところに繋がっていくんだよ、と言いたかったんです。「どんなコースになるかは わからないけど、どのコースを とおっても、ぼくは ぼくらしく なっていくんだとおもう」。「だから、安心して失敗して大丈夫」ということを一枚の絵にしました。これは僕が子どもたちにこの絵本のなかでいちばん伝えたかったことです。道のりの正解は一つじゃないんです。僕自身、絵本作家になって10年ですが、それまで自分が絵本作家になるなんて思いもしませんでした(笑)。
自分らしく道を進んでいくには?
何かを選択するときって、“なんとなくこれいいな”とか“ちょっと面白そうだな”っていう自分のなかにある直感に従っていいと思っているんですよね。そういう感覚っていうのは、自分の好きなものを溜めておくことで培われると思うんです。書き溜めておいたり、コレクションしておいたり。それを繰り返すうちに、自分が何が好きなのか、何を大事に覆っているのか、なぜそう思うのかがわかってきます。自分の好きなものは、人生の選択の場面で自分を救ってくれると思います。また、人に見せて自分はこういう人間です、って伝えることもできますよね。僕は絵本作家になる前、30歳でイラスト集を作ったのですが、そのイラスト集が絵本の編集者の目に留まり、絵本の依頼があり、今があります。
ヨシタケさんが絵本作家になるまでを教えて下さい
学生時代は、立体作品をつくっていました。そして漠然と怪獣のぬいぐるみや、映画の小道具や大道具を作るような人になりたいなと思っていました。ですが、新卒を雇ってくれるところなどなく、結局ゲーム会社に就職しアーケードゲームの企画をしていました。僕には不向きだったと思います。僕が考える“面白いこと”と、アーケードゲームでウケる“面白いこと”が違っていて、先輩に怒られてばかりでした。そんな仕事のストレスの発散で企画用紙の隅っこに手ですぐ隠せるくらい小さくイラストを描いていました。「あの課長どこかにいけばいいのに」とか(笑)。そしたら、ある日、後ろを通りかかった事務の女性にうっかり見つかってしまって…。ところが、その女性が僕のイラストを「可愛い~」と言ってくれたんですよね。自分が描いたものを面白がってもらえるんだと、びっくりして。それが嬉しくて、僕の転機になりました。夜のコンビニでコピーをとって、300部くらいイラスト集の自費出版をして、それを配ったりしているうちに、イラストの仕事がポツポツくるようになりました。大学の先生に「よくその絵でうちの大学に入れたな」といわれたぐらいでしたから、まさか絵の仕事が出来るとは思いませんでした(笑)そのあと、絵本を描きませんかとお話があり40歳で『りんごかもしれない』でデビューしました。
親にならなければ絵本作家になっていなかっただろうなと思います。自分の絵本を作るモチベーションは、自分が子どものときに好きだった、好きなページを好きなだけ見ていられるような絵本を作ることと、子どものころに知りたかったことに応えたいということですね。僕のような臆病な子どもに「先行きがわからないって不安だよねー」って届けたい。僕は人一倍、常識を気にしていて、怒られないように怒られないようにと過ごしているような子どもでした。そんな昔の自分に、「大人も、かなりブレてるよ、ブレブレだよ。結構いい加減だよ」って伝えて安心させたいんです(笑)。子どもから見たら、大人はしっかりしていると思いがちですが、実はそうでもないですよね。絵本に出てくるお母さんも、理想の母親像として描くのではなく、我が子のことはちゃんと好きだけど、忙しいし、常にご機嫌ではいられないリアルな母親像を描きたくて、眉間にシワを寄せてます。
また、親になって分かったことですが、親だからこそ言えないことが、たくさんありました。「世の中には、叶えられない夢もあるんだよ」のような言いにくいことも絵本でなら語れる。親としての不甲斐なさを知っているからこそ、絵本に託すという気持ちがある。絵本にできるのは、そういう「提案」だと思うんです。
『ぼくはいったいどこにいるんだ』ブロンズ新社
『ぼくはいったいどこにいるんだ』ブロンズ新社
お母さんにおつかいを頼まれた主人公の男の子。でもお母さんの書いた地図がさっぱりわからず、地図を書くのが上手な友達のお母さんに地図を書き足してもらいます。男の子は地図の便利さなどに気づき、様々な地図を考えていきます。ユーモアたっぷりのヨシタケ流アタマと心の整理術!は子どもだけでなく大人も必見です。
ヨシタケシンスケさん
1973年生まれ。神奈川県出身。絵本作家、イラストレーター。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。2013年絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。日常のさりげないひとコマやこれまでの絵本になかった発想、キャラクターなどが子どもから大人まで魅了し続けている。他に、『もうぬげない』(ブロンズ新社)、『つまんない つまんない』(白泉社)、『あんなに・あんなに』(ポプラ社)など多数。
撮影/BOCO 取材/東 理恵