「一家の大黒柱」と聞くと男性を思い浮かべるのは一昔前。今は、時と場合によって「大黒柱」が変わる時代です。男女関係なく一家を支えていくことは大変なこと。仕事と家事、育児の両立に悩みながら、パートナーと共に支え合い、それぞれの幸せの形や新しい家族の在り方を見つけた方々をご紹介します。
湊 しおりさん 39歳・愛知県在住
豊田地域医療センター総合診療科・整形外科
夫のことを「ニートですか」と言う人も
いるけれど「うちはうち」でいい
いるけれど「うちはうち」でいい
愛知県で医師として働く湊さん。「夫婦の役割分担としては、生活費を稼ぐのは私。夫が家事全般を担当しています」。
出会った頃はご主人は会社員で、友達として食事に行く関係でした。「その頃の私は婚活中で、世の中の人が良いと思う条件で探していました。高収入、高学歴、高身長で次男。『医師免許は日本全国で使えるのであなた色に染まれます』なんてことも言っていましたね(笑)」。
しかし婚活は失敗。その要因は「自分を知らなかったこと」と湊さんはいいます。「私は能力ごとの凸凹が激しく、物が溢れる汚部屋に住み、書類やお金の管理も大の苦手。けれども『趣味は当直』と言うほど、仕事は大好きなんです。婚活中には気づかなかったけれど、本当に自分に必要な条件、それは私の苦手をサポートしてくれる人だったんです」。
「次に付き合う人とは犬を飼いたい」と思っていた時に、目の前にいたのが動物好きのご主人。同棲と同時に犬を飼い始め、その生活は予想外に円滑に進んだそう。「私は〈Dr.コトー診療所〉に憧れがあり、ある日『僻地で働いて診療の幅を広げたい』という希望が出てきました。会社員だった彼に、『一緒に来てほしい』とお願いをしたところ、『いいけれど、お金を稼ぐことに意味を感じないから、家計を支えなくていいならば、もうあまり働きたくない』と言われたんです。その流れから夫には仕事は辞めてもらい、転居や賃貸の手続き上、入籍していたほうが都合が良かったので、結婚という形を取りました」。
その僻地への転職後から、今の夫婦のスタイルに。「夫は家事が得意で、部屋もきれいに保たれています。ペットの扱いも上手くて、ペットのために洗濯機を毎日3回も回します。私が書類を書かないといけない場面では、下書きまでしてくれて秘書みたいです」。
自由と気楽さを手に入れて申し分ない反面、夫が仕事をしないのはありえないと思っていた湊さん。「男の人なのにそれでいいの?」――そんな考えが自分にあったことにびっくりしたと当時を振り返ります。「男女のおかしな役割分担の固定観念に、自分がすっかり毒されていたことにがっかりしました。周囲には夫のことを『ニートですか』と聞いてくる人もいます。けれども一生認めてくれない人たちに気を遣うのは無意味と気づきました。実際に生活をしてみると、お互いの能力が発揮できるので、最高に上手くいっています。外野の声は気にならなくなり、心から『うちはうち』と思えるようになりました。チームとして考えると過不足なしで大満足。常に『ありがとう』と感謝し合える夫との暮らしは、結果として私にはぴったりでした」。
撮影/前川政明 取材/孫 理奈 ※情報は2023年9月号掲載時のものです。