男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
少女たちへの淫行だったならば「隠しておいてもいい」とはならなかったのでは?
東 ジャニーズ事務所が性加害を認め、謝罪されましたが、男子を持つ親としてどうでしょうか。
太田さん(以下敬称略) 被害者の方々は、本当に勇気を出して良かったですよね。ここまで進むまでには、多くの声が黙殺されてきました。’99年から’00年に週刊文春が大きく報道し、’02年には裁判も行われましたが、私もその頃には成人していたので、私自身も黙殺してきた中の1人なのだと感じてしまいました。
東 あの噂は、ずっとありましたよね。
太田 ありました。なんとなく知っていましたし、もはや公然の秘密のようになっていました。ということは、やはり、この社会やメディアの責任が問われるべきなのでは? ということです。
田中 考えなければならない重要なことは、〈男性加害者と少年被害者〉という構図をわれわれがうまく理解できていたのかということです。もしこれが、芸能事務所の社長による少女たちへの淫行だとするならば、決して「隠しておいてもいい」とはならないですよね。大変重大な犯罪にもかかわらず、“少年が性被害者”となると認知が歪んでしまうというか、社会が上手く対応ができていない問題があるのではないでしょうか。以前からの繰り返しにはなりますが、男の子が男の子に『カンチョーされた』と言われたら、〈男の子同士でふざけてただけだろう〉とスルーされてしまいがちですが、女の子が男の子にカンチョーされたら、そうはいきません。芸能界の権力のことは私にはわかりませんが、とにかく今回の問題は、〈逆だったらどうなのか?〉を考えて、社会全体が反省しなければいけない。
太田 そうですね。女性の性被害ももちろん「枕営業」のように揶揄されたり、まともに扱われないことはあります。どちらがより大変とか言いたいわけではもちろんなくて、ただ、ジャニーズ氏の加害行為については、社会は侮蔑的な“ホモネタ”のような見方をするところがあったと思いますし、「男性の性被害」も深刻であるということへの意識が乏しすぎたことを深刻に受け止めるべきと思います。本当に酷すぎることです……。性被害に傷つく度合いに性別の差などありません。声を上げづらいのは女子も男子も同じ。ヒアリング報告書で明らかになった被害者の言葉の数々には、とても胸が痛みました。
田中 あとは‟後出し”と言われて非難された被害者もいましたが、そもそも社会が男性加害者と男性被害者のフレームを用意していない以上、そこで何が起きたのか認識するのに時間がかかってしまった。
太田 そうなんです!
田中 もちろん女性だって同じですが、性被害者たちは〈まさか自分が被害者になるなんて…〉という悔しさがあるだろうし、被害を受けた時のことを繰り返し思い出してしまうのではないでしょうか。謝罪があったとしても、これからの人生の中で、時折とてつもない嫌な気持ちが湧き上がってきてしまうこともあるでしょう。にもかかわらず、傍から見ている人が「本当にそんなことがあったの?」などと発言するのは酷いことです。
やはり“男性による男性に対して性犯罪”の認識の薄さが根底にあります。これから雑誌やテレビなどはどう考えられていくのでしょう。
編集・川原田 メディアとして、われわれも反省をしていかなければならないと思っています。田中さんのおっしゃるとおり、男性被害者ということで少し軽んじていたところがあったと痛感しています。〈芸能界で、のし上がっていくにはそういうことも必要〉という何か風変りな根性論があったのではないかと…。メディアにも責任はあります。
田中 テレビ局やCMスポンサー各社は声明を発表していますが、被害者への補償をはじめ、これからどうなってゆくのか、まだまだ注視する必要があります。日本では、大きな問題が起きても〈そのうち大衆は忘れるだろう〉と流して、鎮静化を待つ方向にあります。残念ながら、そんな社会が何十年も続いています。
太田 私自身はジャニーズカルチャーに疎く、有名な数人を除けば誰がどのメンバーなのか全くわからないレベルなのですが、それでもファン層の厚さや人気の高さには驚きます。この件に対するファンたちの受け取り方も大変重要なファクターなのではないかと感じます。
編集・川原田 「会社とタレントは別だから…」という意見もありますが、それもどうなんでしょう…。
太田 本当に好きなアイドルを推している方々の熱量はすごいですよね。おそらく、これからはアイドルの消費の在り方についても考える必要があるような気がします。
編集・川原田 テレビも雑誌も、もちろん売れたほうがいいのですが、ただ売れればいいわけではなく、今後はその背景なども考えなければいけません。それは本来、当たり前のことなのですが…。
田中 ここまでつまびらかになってくると、落としどころも難しくなってきますね。
太田 本当に、どうするのがいちばんいいのでしょうね。ひとつひとつ、いろいろな調査報告書を拾っていくしかないのかもしれません。
取材/東 理恵
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわる投稿が反響を呼ぶ。昨年、SNSの投稿をきっかけに出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では7歳と3歳男児の父。