子どもの目線で中学受験を描いた『きみの鐘が鳴る』作者、尾崎英子さんにお話を伺いました。
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話してくれたのは…尾崎英子さん
2年前の「中受体験」では、 情報に踊らされて無駄な課金も多々ありました
尾崎英子さん
作家。1978年大阪府生まれ。早稲田大学教育学部卒。近年、息子の中学受験の経験から『きみの鐘が鳴る』を執筆、中学受験や教育にまつわる講演など多方面で活躍。
大手塾、秋以降は追加講座フル受講
息子と共に「中学受験」を体験したのは、2年前――。小学4年生の頃から近所にあった大手塾に通わせ、最後まで通塾しました。
御三家を狙っているわけでもなかったので、「こんなにやらなくてはいけないのだろうか……」。そう心のどこかでずっと思いながらも、「やるからには!」というのもあって、テストの点数を見ては「何やってたの!?」と、はっぱをかける自分がいました。
小6の秋以降は、通常授業のほか、塾の勧めるがままに「志望校特訓」「冬期講習」「正月特訓」などオプションの講座をフル受講。「正月特訓はやめておこうか……」、そう一旦は心によぎったものの受講しないのも不安で……。
大手塾の平均課金、150万円くらいは投資したと思います。それでも、我が家はあくまで塾の勉強についていくための受講で、息子はこれで手いっぱいだったのですが、周囲を見ると、余裕があったり、上を目指したりする子はさらに課金していましたね。
「中受課金」は、青天井だからかけようと思えばいくらでもかけられる世界で、ある意味ギャンブルと同様。志望校の冠が付いた他塾の模試後は、志望校対策講座を勧められましたが、さすがに息子がつぶれてしまうと思い留まりました。
無駄な課金が子どもの時間を奪うことも
子どもが塾で勉強する間は、親は神頼みするくらいのことしかできず、湯島天神に北野天満宮……と、学問の神様が宿る神社を巡っては御祈禱をしてもらい、神棚を作って毎日お水を上げていました。そんなプラスαの出費も案外していましたね。中学受験を描いた著書『きみの鐘が鳴る』の中で、頑張って毎日祈ったのに叶わなかったら、「神棚を燃やしたい」という狂気をはらんだ作中の母の言葉は、私の実体験のエピソードです。
また、Twitter(現X)を活用して、中受経験のある親御さんやインフルエンサーの発信する情報を収集していたのですが、秋以降はさまざまな情報がタイムラインに膨大に増えて……。「この本が志望校対策にいい」と聞けば、過去問演習で取りこぼした問題や、ピンポイントでできなかった単元を扱った問題集を買ってみるという繰り返しで、小6後半に十数冊も浪費。理科・社会のニッチな箇所に意識が向きすぎたので、中学受験の核である国語・算数にもっと時間を費やせばよかったと後悔したこともありました。私が振り回されたことで、息子の大切な時間をも奪う結果になってしまったかもしれませんね。
中学入学から数カ月後、受験を通して精神的にも逞しくなったと息子の成長を実感した時があって。その時初めて、私も一緒に伴走しやり切った、と冷静に受験を振り返ることができました。そこから、「中学受験に挑戦するすべての子どもたちが報われる物語を書きたい」と『きみの鐘が鳴る』を執筆するに至りました。
親は、誰しも生まれてきた時は、その子が「楽しい人生を送れますように」と祈るはず。それが、「中受」の渦中では、すべてのゴールがそこだと思ってしまう……。お金のかけ方しかり、親が本質を見失わず、冷静に向き合うことこそ、大事なのだと思います。
皆さんのお子さん、それぞれにカンパネラ・祝福の鐘が鳴り響きますように――。
『きみの鐘が鳴る』
昨秋発売以来、今年度の模試や塾テストの国語に出題され話題の『きみの鐘が鳴る』(ポプラ社)。今夏文庫化された『竜になれ、馬になれ』(光文社文庫)も、思春期の親子にお勧め!
撮影/平井敬治、佐藤 彩(静物) 取材/羽生田由香、石澤扶美恵 取材協力/宮寺佳愛、佐藤絵美子、香取紗英子、端迫絵実、山本亜矢 ※情報は2023年10号掲載時のものです。