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Lifestyleママとパパに贈る「ジェンダーレス学」

家族で助け合うことは「自助」だと思いますか? それとも「共助」ですか?【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.19】

進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。

介護保険制度が最大の危機を迎えているのは知っていますか? そうなれば結局、損をするのは女たちです。

「超高齢社会と男女」について④

Q.前回は、介護保険が改悪されるのを阻止したという話をうかがいました。それにしても今は本当に介護事業が増えましたよね。ケアマネジャーの教育制度もしっかりしてきたのだと思います。

いいえ、それどころかコロナ禍のもとで休業・廃業に追いつめられた介護事業者が増えました。ケアマネージャーも合格率が低いのに、割の悪い仕事だと思われて応募者が減少しています。教育制度が良くなったというよりも、現場の経験値が増えてスキルが上がったのです。介護保険23年間の成果です。訪問診療に行く医者も増えてきましたし、医者の常識も変わりました。以前は、高齢者に何かあると病院に送り込んだり、蘇生措置をしたりしてきましたが、今では無理な延命措置をせずに穏やかな看取りをするようになりました。政府が在宅に重きを置いて誘導してきたので、在宅医療の保険診療点数も上がり、訪問医の志とビジネスが両立するようになりました。とはいえ、医療・看護・介護資源には、まだまだ地域差があります。

在宅看取りは地域差が大きい! 地域により3倍の差があり

Q.やはり田舎のほうでは大変なのですか?

はい。データをお見せしましょう。

人口20万人以上の自治体の在宅死の割合(%)

【高い】

順位 都道府県 市区 在宅死率(%)
1 東京都 江戸川区 29.4
2 東京都 新宿区 27.9
3 東京都 葛飾区 27.8
4 兵庫県 尼崎市 26.9
5 大阪府 豊中市 26.1
6 千葉県 市川市 26.0
6 東京都 目黒区 26.0
8 東京都 品川区 25.9
9 東京都 大田区 25.6
9 東京都 豊島区 25.6

【低い】

順位 都道府県 市区 在宅死率(%)
1 新潟県 長岡市 10.4
2 新潟県 新潟市 10.5
3 秋田県 秋田市 11.0
4 北海道 函館市 11.8
5 三重県 津市 12.1
6 富山県 富山市 12.6
7 茨城県 水戸市 12.8
8 北海道 旭川市 13.0
9 山口県 下関市 13.1
10 長野県 長野市 13.3

*2021年の在宅死率。厚生労働省「在宅医療にかかる地域別データ集」から作成。

東京都江戸川区や葛飾区では、在宅医療診療所や常勤医が増え、在宅死の割合が伸びました。在宅医療ドクターが登場したことで、地域が変わったのです。
このデータからもわかるように、在宅死は都市部ではやりやすく、過疎地では難しい。おそらく田舎では、家族やケアマネが高齢者を施設に入れてしまうケースが多いのではないでしょうか。高齢者施設への入居基準が要介護3以上に厳格化しましたから、地方では待機高齢者数が激減しましたので、施設入居も容易になりました。

Q.なるほど! 病院の医師の数も少ないから、施設などに送ってしまうということですね。

病院は在宅復帰が基本ですから、もう高齢者の居場所ではありません。高齢者に家にいていただくためには介護力がいちばん必要なのですが、在宅医や訪問看護師がどんなに頑張っても、そもそもお年寄りが家にいないのでは手も足も出せません。
訪問介護は保険事業の中でも最も割の悪い、低賃金の労働です。なぜ、安いのか? 私はこう思っています。
「高齢者のケアは、女なら誰でもできる非熟練労働だ」
そう考えている人たちがいるからです。

Q.介護してくれるのも、看取ってくれるのも女…。

そうです。〈もともと嫁のタダ働きだったんだから、金を払うとしてもこの程度でいい〉と誰かが考えているのです。家の中にいて女が不払い労働(タダ働き)をすることを私的家父長制と呼びますが、家の外に出て働いても低賃金であることを公的家父長制と呼びます。家の中にいても、外にいても、家父長制から逃れられません。

Q.上野さんは、将来、施設には入りたくないと思っていますよね?

入る理由なんてありません。なんで入らなあかんの? 東さんは、入りたい?

Q.いや、入らないです…。ところで、国は“再家族化”によって介護を家族に押し付けようとしているということでしたが、男女別姓に反対する人たちも「そんなことをしたら家族が壊れる」といった主張をする人が多いです。家族はもちろん大事ですが、それを口実にしているような気がします。

家族主義を支持している人たちには両極があります。
一方は宗教右派のような“ノスタルジジイ”。〈昔は良かった。男はもっと尊重されていた。女はもっと控えめだった…〉みたいな妄想系の人たちです。
もうひとつは、自助ファーストのネオリベラリズム派。ネオリベ派は、小さな政府を目指していて、社会保障費を抑制したいうえに、〈育児や介護は家族の中の自助努力でやれ〉という人たちです。
私は面白い経験をしました。
ある頃から、男女を問わず、学生たちが自分の親の家に帰ることを「実家に帰る」と言うようになりました。「里帰りする」「帰省する」「故郷に帰る」ではなく、「実家」というワードが出てきたのです。
そして、その子たちが「先生、家族の助け合いって、『共助』でしょ」と言い出しました。かつては家族同士で助け合うことを「自助」と言ってきましたが、もう家族で助け合うのは自助じゃない。つまり、家族は自分とは“別の人たち”なんです。だから親子で助け合うのも共助。家族の中の人間関係が、それぐらい距離のあるものに変わっていきました。最近では政府も家族の支え合いを「共助」と呼ぶようになりました。
家族に負担を押しつけるとかえって家族は壊れます。家族を守るためにも、公助は必要なんです。

 Qなるほど。もうそれぞれが独立したものになっていたのですか!

そうです。調べてみてはっきりわかったことは、外から見て3世代同居の世帯でも、とっくに家計分離が起きています。年金制度によって年寄りにもお財布ができましたから。一家に財布が複数ある時代です。
また、あるニュースでは「お父さんのお小遣いが減っています」というヘッドラインにクレームが来たそうです。もはや一家のお財布がひとつではない時代に、家計管理者の妻が夫の小遣いの裁量権を持っているという前提は古い、「今どき、そんなことを言うのはオジサンしかいません!」と(笑)。
今までのお年寄りたちは、いろいろな制度にも黙って辛抱していましたが、私たち団塊の世代らの年寄りは黙っていませんよ(笑)。

「デイサービスには行きたくない」
「子どもだましのレクリエーションもやりたくない」
「老人ホームにも入りたくない」
「管理されたくない」
「他人に自分のことを決めてほしくない!」

これからの時代は、こういう年寄りが増えるでしょう。

 Q.でもなんか楽しそう(笑)。しっかりした意見を持つお年寄りは、素敵だと思います!

〈面倒くさい年寄り〉って嫌われるか、〈はっきりモノを言う年寄り〉として歓迎されるか(笑)。
これからの年寄りはこれまでの年寄りとは違います。

取材/東 理恵

介護について、より詳しく知りたい方はこちらの本がお勧めです
〇上野千鶴子・小島美里『おひとりさまの逆襲』ビジネス社(2023年4月17日刊)
〇上野千鶴子・樋口恵子『最期はひとり』マガジンハウス(2023年7月27日刊)
〇上野千鶴子・高口光子『おひとりさまの老後が危ない!』集英社(2023年10月17日)

上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。2023年に上野千鶴子基金を発足。
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