結婚20年目。改めて愛を誓うジュエリーを。
セカンドマリッジの魔法
果たして、この人と結婚したのは正解だったのか。
20年間、何度この質問を頭の中で繰り返しただろう。もう本当に別れる。限界。そう決めて大騒ぎした痛い思い出も数え切れたものじゃない。
夫との出会いは20代前半、友人に連れられ参加した飲み会だった。「チャラそうな男……」と、私は第一印象で夫の本質を見抜いていたわけだけれど、同時に営業マンらしい人当たりの良さや気遣い、口のうまさとマメさにやられてしまった。気づけばその1年後に授かり婚をして、お腹を膨らませたウェディングドレス姿で微笑んでいた。
20代の若さと勢いがあったとはいえ、よくこの夫の妻として20年も過ごせたものだと自分で自分を褒めたい。子育てをほったらかして接待だゴルフだと遊び回られ、自分のために記憶から抹消すると決めた女関係の苦いトラブルもある。お坊ちゃん特有のマザコン気質で、過干渉な義母を前にすると私の味方は一切せず、見事にヘラヘラ切り抜ける。要領の良さだけはピカイチだけれど、そのぶん振り回され、しわ寄せを被るのはいつも私だった。
「20年だよ、僕たち。すごいことだよなあ。あ、2人でフレンチでも行こうよ」
ご機嫌な様子で馴染みの店を提案する夫に、私は「お任せする」とやや尖った声が出てしまう。ちょっといいスーツを着て、髪のセットに私よりも時間をかける。アラフィフに突入しても相変わらずナルシストな夫は「いい夫ごっこ」でもしたいのだろう。
「ちょっと寄り道しようか」
私が息子たちの晩ご飯を用意する間、ずっと洗面所を占領していた甲斐があり、髪型をばっちり決めて肌を艶々させた夫が言った。「え? お店の予約時間は?」と眉をひそめる私に答えず、彼は六本木の街を歩いていく。
そして、突如連れて行かれた東京ミッドタウンのハリー・ウィンストンの入り口で私は言葉を失った。
「お待ちしておりました」
紳士的なドアマンに、夫が一丁前に名前を告げている。
「せっかくだから予約しといたよ。何か好きなもの、買いなよ。20周年なんだし」
これをデジャヴと言うのだろうか。若かりし頃の記憶が一気に蘇る。予想外の妊娠にパニックで号泣する私を、彼は今日のように突然ハリー・ウィンストンに連れていき、その場で指輪を買ってしまったのだ。
「懐かしいな~やっぱ指輪かな。最近、『セカンドマリッジ』で指輪をアップデートするのが流行ってるとか言いますよね?」
夫は持ち前のコミュ力で店員さんを巻き込み、目の前に強烈に輝くバンドリングが置かれた。華やかなダイヤが美しいカーブを描いている。
「いい歳になってきたしさ、このくらい豪華なのも似合うよ」
左薬指に指輪をはめられた瞬間、あの頃の感情が魔法のように溢れた。きっと苦労もするだろうし、たぶん「めでたしめでたし」で終わる安心安定の理想のゴールインではない。そんなのわかっていた。でも残念ながら、私は何だかんだでこの人が好き、この人といる自分も好きで、それは理屈ではないのだ。
これからも、夫の隣で歳を重ねていきたい。私は指輪と共に、再び幸せに包まれてしまった。
リング「ウィンストン・トゥルーリー・バンドリング」〈DIA×PT〉¥1,859,000〜ピアス「HWロゴ・イヤスタッズ」〈DIA×PT〉¥2,761,000〜(ともにハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション)ジレ¥41,800(エストネーション/エストネーション)ブラウス¥23,100〈ANAYI〉バッグ¥30,800〈クリスチャンヴィラ〉(ともにANAYI)パンツ¥36,300(ロエフ/ユナイテッドアローズ 原宿本店)靴¥40,700(ファビオルスコーニ/アルアバイル)
撮影/吉田 崇〈人物〉、西原秀岳(TENT)〈静物〉 モデル/鈴木えみ ヘア・メーク/犬木 愛(AGEE)スタイリスト/亀 恭子 取材/味澤彩子 撮影協力/BACKGROUNDS FACTORY デザイン/mambo西岡(ma-h gra)※素材の表記は、DIA=ダイヤモンド、PT=プラチナを表します。※商品の価格は、発売日時点のものになります。 ※情報は2024年2号掲載時のものです。