女性としてこれからのキャリアに悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。第一線で活躍している女性リーダーの方々にお話を伺うと、そこには、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。
今回ご登場いただくのは、アパレルブランドAmeri VINTAGEの代表取締役兼ディレクターを務める黒石奈央子さんです。(全3回の2回目)
黒石奈央子さん(37歳)
Ameri VINTAGE CEO/ディレクター
立命館大学経営学部卒業後、大手アパレルブランドのVMDを経て、独立。2014年10月、オリジナルブランド「AMERI」やヴィンテージアイテム等を取り扱うセレクトショップ「Ameri VINTAGE」を立ち上げ、代表取締役兼ディレクターを務める。愛犬はチワワのCOJICOJI。
SNS黄金時代は、"一瞬で目に留まる商品力"が成長のカギ
STORY編集部(以下同)――インフルエンサー発の数あるアパレルブランドの中でも、アメリヴィンテージは異彩を放っているなと感じるのですが、アパレル時代に培われた経験は大きいでしょうか?
アパレルでの経験値や、ノウハウを知っているかどうかは大きいですね。でもそれ以上に、「自分の会社かどうか」が大事だと思っています。自己投資をしているか、つまり自分のお金で立ち上げたのかどうかで、やっぱり本気度が違う。私は貯金30万円しかないところから始めたので、オープン初日にこけちゃうと、ご飯が食べられないくらいの状況でしたから(笑)。ある程度の確信のもとに、本気でやっていました。
正直、2万人のインフルエンサーブランドって、今となってはそんなに大きな売り上げではないんです。ただ、フォロワーが少なかったとしても、お客様に刺さる商品力と価格、腹八分目の多すぎない数量感が大事。これさえ守っていれば、大体のブランドは売れます。そのバランスは、全て私の肌感覚で決めています。通常のアパレルブランドでは事業部長とディレクターが別々にいますが、私が市場分析からデザインまで1人でやっているので、感覚値で戦略を立ててデザインにまで落とし込めるのは、アメリの強みだと思っています。
――事業を年商44億円まで成長させてきた黒石さんですが、何か戦略はありましたか?
本当に地道に、少しずつ売り上げを伸ばしていっただけなんです。これでは型数が足りないな、人数も足りないなと、販売数もスタッフも徐々に増やしていきました。なので、何かをきっかけに爆発的に拡大したというようなことはないんですよね。
戦略という意味では、アパレルは「その服可愛いね、どこの?」という言葉を生み出せるかどうかが肝だと思っています。SNS黄金時代には、「この服どこのだろう?」といかに知らない人に思ってもらえるかどうかが成長のカギです。そこから、実際に購入してもらうためには価格も重要。クオリティは高いけれど、思ったよりも”ちょっと安いかも”という価格設定にしています。安すぎても、逆に高すぎてもダメ。特に日本のマーケットは中流層が多いので、ハイでもプチプラでもない、ミドルプライスが売れるんです。デザインも同じで、全てはバランスだと思っていて。個性がありすぎても受け入れられず、普通すぎても刺さらない。日本人は、”人とちょっと違う”というのがすごく好きなんですよね。
海外でもよくリサーチをしますが、海外の人とも好みの傾向がかなり違っています。みんなと一緒がいい、個性を出し過ぎるのは嫌、でもちょっと目立ちたい、というのが日本人の国民性。その匙加減をデザインに落とし込むことがマストです。例えば、前から見ると普通のトレンチコートだけど、後ろのディテールが凝っていて可愛いとか。「これくらいの個性的なデザインだったら着てみたい」と思わせる要素を、全ての商品に入れるようにしています。
SNS上では、一瞬で覚えてもらえる”ブランドらしさ”を少しだけ振りかけることで、ユーザーはスクロールの手を止めて商品をクリックしてくれるようになります。なので、”THE シンプル”な服はほぼ無いですし、売れません。逆にそのデザインのスパイスが、アメリらしさにも繋がっていると思います。
あとは、カジュアル系やモード系など、ファッションの系統をカテゴライズする文化がありますよね。ファッションにこだわりがある人なら、自分のファッションの軸が定まっているかもしれないけれど、「モード系も着たいし、たまにはフェミニン系も着たい」と、気分によって色々なファッションをしたいのが大半の女性。でも日本のブランドは、カテゴリーに囚われているところがあると感じていて。同じショップの中でも、モード系やカジュアル系などジャンル分けされていたりするんです。そんな時に、販売戦略の参考にしていたのがZARA。ZARAは全てのジャンルが置いてあって、リードタイムも早く、いつでも新しいトレンドが入っているんですよ。
もともと私もどんな系統でも着るタイプだったので、アメリを立ち上げる時に「ここに来れば、全てのジャンルが揃っている」というブランドにしたかった。それで、”NO RULES FOR FASHION” というブランドスローガンに決めたんです。「ファッションにルールはなく、どんなジャンルでも、好きなように楽しんでほしい」という意味が込められています。
――起業されてから、挫折や苦労などはありましたか?
何かに投資をしてそれが吹っ飛んだとか、1億無くなったとか……そういうのはありますよ(笑)。でもそれって挫折ではないと思っているんです。もちろん失敗はあったと思いますけど、立ち上がれないくらいにショックな出来事という意味では、今考えても思い出せないですね(笑)。自分の中では大したことではなかったんだろうと思います。スタッフ間のトラブルや人間関係で悩んだこともありましたが、解決できる問題だったし、その度に見直して次に繋げるしかなかったので……そんな風に毎回乗り越えてきました。
マインドとして、仕事に対しては割とドライで。悩み事も人に相談するよりは、自分で考えてすぐ行動して解決して、あまり大ごとにはしてきませんでした。もちろん、悩むことはいっぱいあります(笑)。節目節目で考えるべきことは山ほどあるし、日々色々なことがありますけど、今のところはやってこられているので、それでいいのかなと思っています。
――会社が大きくなるにつれてスタッフも増えていると思いますが、社員とのコミュニケーションについて教えてください。
ショップスタッフも含めて、社員は今60人になりました。私は結構、人のマネジメントは得意だと思うんですよ(笑)。例えば、「パフォーマンスが悪いな」と思う社員がいたら、そこに留まらせるのではなく、その子の強みと弱みは何だろうと考えてすぐに部署を異動させています。以前、どの部署に行っても全然うまくいかないスタッフがいて、色々な部署で適正を見たことがあって。彼女は感性が素晴らしかったので、最終的にはセンスが活きる部署に落ち着きました。もちろん何年かかけて、頑張って成長させることも必要かもしれないけど、それよりもまずその人の適正を見極めることが一番大切。社員の働き方を見て、得意・不得意を客観的に見るようにしていますね。
あとは私、超効率重視な女で(笑)。無駄なことをしている時間が一番嫌いなんです。社員を合わない部署で何年天塩にかけて育てたとしても、成長率ってそこまで上がらないですよね。でもその子が活きる場所で働けば、成長率もモチベーションもグッと上がると思うんです。本人の成功体験をつくることで自信に繋がるし、結果的に会社のメリットにもなります。社員とは年に2回、賞与面談のタイミングで直接話をする機会を設けて、一人ひとりと向き合っています。直属の上司に言えないことや普段思っていることなどを、丁寧に吸い上げていますね。
会社は過半数以上が愚痴を言っていると、いい子が辞めてしまって、愚痴だらけの会社になってしまうんです。逆に過半数以上が素直で頑張り屋さんだと、愚痴を言う人は居心地が悪くて辞めていく。そういった人間性の高い人を増やして残ってもらうことが会社経営には不可欠ですね。AMERIは素直で誠実な社員が多いので、これからも大切に育てていきたいと思っています。
撮影/沼尾翔平 取材/渡部夕子