そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。港区女子たちは、一体どんな着地をしているのか。現在アラフォーとなっていると思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。
※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
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時給3000円、可愛い女子大生限定の怪しいバイト…普通の女子大生が「港区女子」になるまで
贅沢三昧の女子大生生活
ラウンジは私にとって居心地の良い場所だった。女子同士は仲良しで、楽にお小遣いも稼げる。
バイトと人間関係に慣れてしまうと、大学のクラスメートやサークル仲間と遊ぶのは一気につまらなくなった。当たり前だ。バイトの可愛い女たちといれば、学生が自腹では行けないレストランや遊び場への誘いはいくらでもある。
もうランチやコスメ代をちまちま気にする必要もない。高田馬場や新宿の居酒屋も、もう行けない。行きたくない。どうしても感覚と価値観が変わっていった。
バイト前に仲良しのお客と銀座でふぐを食べ、ラウンジで千疋屋のフルーツ盛りをつまみながら数時間ゆるい接客をし、その後は誰かしらの誘いで西麻布あたりの鍵付きのバーなんかで有名人と飲む。それが私の日常になった。
ラウンジのお客さんだけでなく、バイト仲間はなぜか魅力的な人脈をいくつも持っていた。有名なスポーツ選手にお笑い芸人、アイドルグループ。それまでテレビや雑誌で見ていた有名人とプライベートで飲み、時に口説かれることもある。関係性はよくわからないけれど、その場のお世話係みたいな男性が「今日はありがとうね」とちゃんとタクシー代もくれた。
港区で「ありのまま」になれる女たち
怒涛に訪れる秘密めいた刺激に抗える若い女は、そういないと思う。
私たちは、その場を存分に楽しむだけでよかった。それが唯一の役割で、立ち振る舞いや会話術はすでに場慣れした仲間から学んだ。ただ、素直にその場を楽しみさえすればいいのだ。人によってはそれが難しいようだが、私には簡単だった。
おいしい体験は、人材豊かなほど多くなる。本能的にそれがわかっているから、私たちはお互いをライバル視することもなく、いわゆるシスターフッドの意識すら持っていたと思う。仲間になれそうな子は積極的に引き入れ、女同士で連帯し助け合い、若さと美貌を隠すことなく存分に武器にし、日々を楽しむ。
これが成り立つのは、同じような女たちでつるむからだ。一定以上に美しく頭のいい女たちは、基本的に他人を妬んだり僻んだりしないことをラウンジで働き始めてから知った。逆に妬まれることも僻まれることもなく、普通の女たちに気を使い自虐的になる必要もない。
夜の銀座や港区で、私たちはむしろ自由に、ありのままで楽しく過ごすことができたのだ。
時給1000円で働き、安居酒屋で飲むのが“健全”?
「それって結局、水商売なんじゃないの?」
「みっともないよ。バレたら恥ずかしいよ」
疎遠になったクラスメイトやサークル仲間に、たびたび批判されることもあった。ラウンジのバイトのことを隠す気も特になかったし、聞かれたことに答えると、だいたいは眉をひそめられる。
でも、私はなんとも思わなかった。
ならば時給1000円くらいのウェイトレスをして、同年代の男子と3000円飲み放題コースの居酒屋で、サークル飲みや合コンに参加していれば健全なのだろうか?
先日は人気男性アイドルグループの1人と、グランドハイアットのスイートルームで一夜を過ごした。誰でもできる経験じゃない。
もし安居酒屋の飲み会に行けば、彼の髪型だけを真似た、無駄に強気な一般人の男の口説き文句を安酒とともに延々と聞くことになるだけ。それなら誰にも文句は言われないだろうか。
最近は有名なインカレサークルのレイプ事件が話題だが、酒に睡眠薬を混ぜられたとか、非常階段の踊り場で襲われたとか、耳を塞ぎたくなるような悲惨な事実が次々と明るみになっている。
私はそんなひどい扱いも、怖い思いもしたことはない。無理やり身体の関係を迫られることもないし、身体なんて使わなくてもきちんと何かしらの対価が払われ、皆が楽しく過ごす。それの何が悪いのだろうか。
別に誰に媚びるわけでもなく、勝手においしい誘いが日々舞い込んでくるだけ。それを素直に受け取り楽しむことが、悪いことだとどうしても思えなかった。
「君が、どんどん嫌いな女になる」
「さすがに、もう無理だよ。毎晩毎晩遊び回って、俺が勉強大変な中、まじで何してんの? 俺が何も知らない、気にしないと思ってる? さすがにナメてるよ。朝美、もうまともな社会人になれないよ」
こんな生活が半年ほど続いたとき、突然彼氏にふられた。彼は2つ上の医大生で、たしかに私の何倍も勉強をしていた。
余計なことは言わないまでもバイトのことは正直に伝えていたし、会う頻度は減っていたけれど、私なりに彼のことは大切にしていたつもりだった。つい先日も、銀座のシャネルビルにオープンしたばかりのフレンチの食事会を断り、彼の部屋で手料理を振る舞い誕生日をお祝いしてあげたのに。
「大好きだった朝美が、どんどん俺の嫌いなタイプの女になる。耐えられない」
だがそう言われると、たしかにそうだと納得してしまった。純朴で真面目な彼に、私みたいなチャラチャラした女は似合わない。私はもう彼の理想の女ではないし、実際、彼をナメていたかもしれないとも思った。
自分の彼女が、自分が手の届かない未知の世界で日々贅沢を身につけていく。彼の男のプライドはズタズタだっただろう。きっと時間の問題だったのだ。少々胸が痛む一方で、でも心の隅で「これでもっと自由に遊べる」なんてほっとした。
「朝美、もうまともな社会人になれないよ」
しかしながら、彼のその言葉だけは大きくハズレた。
ラウンジの客たちはいつも「ここで働いてる子は、そのへんの社会人より度胸も愛嬌もあるから、みんな一流の会社に就職する」と誇らしげに言っていたが、これが当たっていた。
すべて一般職やエリア総合職であったものの、私は受けた6社のすべてから内定をもらい、順調に社会人生活をスタートさせたのだ。
▼そんな朝美の現在は…
港区の「ママランチ会」の実態。インスタグラムには映らない“会計係”
取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子