彼女たちは一体どんな女性なのか? そんな議論が度々上がるけれど、港区で暗躍する素人美女、パパ活女子、あるいはラウンジ嬢など……「港区女子」の意味合いや捉え方は人それぞれ。
そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。港区女子たちは、一体どんな着地をしているのだろうか。現在アラフォーとなっていると思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。
※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
【由利の過去】大金持ちの恋人
「ダイヤもバーキンもいいけどね、誕生石は一つは持っておいたほうがいいよ。ルビーは宝石の女王って言われてるんだから」
東堂さんは私の右手薬指にはめられた真っ赤なルビーの指輪を愛おしそうに眺めながら言った。
正直、毒々しいほど赤く大きな石にさほど魅力は感じられない。なんなら、ちょっとおばさんぽいデザインだとも思った。若く見えはしても、こうしたちょっとした嗜好の違いを目の当たりにしたとき、東堂さんが40代半ばの立派なおじさんであることを思い出す。
この指輪に何百万円もポンと払ってくれるならば、先日パリ旅行で買ってもらったヴァンクリのアルハンブラシリーズを買い足すか、ショパールのハッピーダイヤモンドの時計だって余裕で買える。エルメスだって彼と店に行けば、凡人には拝めないレアなバッグが必ず出てくるのに。東堂さんと長い付き合いだという初老の宝石商が持ってきたこのルビーに、それ以上の価値があるのだろうか。
不服な気持ちは拭えないものの、口角をきゅっと上げて東堂さんを見つめてみる。彼は私の口元が本当に可愛いといつも褒めてくれるのだ。すると彼は、満足げな様子で購入を決めた。
東堂さんと付き合って3ヶ月。一通りのハイブランドはプレゼントしてもらった。だから誕生日にはどれだけ大物をもらえるだろうと期待していたので肩透かしを食らった気分だが、まあいい。いつもおおらかで器の大きな彼がこれだけ強く勧めるのだから、きっと損はないジュエリーなのだろう。
「こんなに大きいビルマ産の非加熱のルビーって、すごく珍しいんですよね。うれしい。一生大事にします」
宝石商の長い解説をほんの少し拝借しただけだったけれど、この一言が東堂さんにうまく刺さったのは表情からよくわかった。「由利は価値のわかる女」。彼はいつもそう褒め称えて、私に贅沢をさせるのが楽しいようだ。
お互いに満足ならばウィンウィン。私は甘んじてそれを受け入れるのにすっかり慣れていたし、それが愛だと思うと、幸せと愛しさで満たされてしまう。
「あざとい女」の実情
東堂さんと出会ったのは、たまたま遊びに行った六本木のクラブのVIP席だった。
彼はIT系の会社の合併や売却でものすごい財を築いたという業界の有名人で、私もその存在は知っていた。そして出会い頭から、私は相当気に入られた。とにかく外見がタイプだったのと、有名私大卒の肩書き、そしてフリーのアナウンサー業も彼のツボにハマったらしい。
東堂さんには当然のように妻子がいて、本妻以外にも彼女と子どもがいる。
しかし一定以上のお金持ちは、婚姻制度や世間的なモラルなんてまったく気にならないらしい。なぜなら世の中の物事はほとんどお金で解決できるし、財力と地位のある彼に文句を言う他人もいないからだ。彼としばらく一緒にいるとそれがよくわかったし、ルールに縛られない自由な人生を羨ましく思った。
当初、少し童顔で愛嬌のある顔立ち、日々の筋トレで鍛えた身体、そして若者の流行にも敏感な彼のことを、私は対等な異性として見ていた。
「由利って本当におじさんキラー。さすが!」
だから友人たちに口を揃えてそんなことを言われるのは心外だった。同年代よりも年上の男性に安心感を持つのは単純に好みの問題だろうし、たまたま出会って好きになった相手がお金持ちというだけで、世間は私をあざとい女として安易に認知するのだ。
「愛」のある既婚者
東堂さんの前の彼のときもそうだった。
美容外科の経営者であり医師だった元彼とは、私が司会をしていた企業プライベートパーティーで出会い、すっかり恋に落ちたところで既婚者だと明かされ傷ついた。
奥さんとの間に子供はおらず、夫婦関係は終わっていると散々熱弁していたのは既婚者特有の常套句で、私は意図せずどっぷり不倫に嵌ってしまい、2年ほどの交際期間で心はボロボロになった。
「あんなに好き放題いろいろ買ってもらえたんだから、いいじゃん。由利は愛人として相当愛されたと思う」
元彼に「離婚はできない」と宣言されショックを受けたとき、友人にこんなふうに慰められ悔しかった。
なぜだか私の心情は周囲にあまり理解されないが、掃いて捨てるほどお金のある男が、若い女に多少の贅沢品を贈るのなんて大したことじゃない。そもそも愛人になる気なんてなかった。
これまで真面目に生きてきて、猛勉強をして有名私立大学に入り、さらに努力を重ねてアナウンサーになった。なのに、日陰の愛人として生きるなんてまっぴらだ。ちゃんと愛が欲しい。誠心誠意愛し合える相手でないと嫌だ。
そんな経緯を東堂さんに話すと、彼は「俺は由利ちゃんと向き合うし、絶対に幸せにする」と言ってくれ、以来、彼とはほぼ毎日会っている。
東堂さんは堂々と公の場に私を連れ出し、彼女としてきちんと紹介してくれた。仲間内の旅行にも同伴してくれる。
同じ既婚者であっても、元彼とは明らかに違う。
私は彼なりの誠意が嬉しく、東堂さんを信頼していたのだ。
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取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子