多様性の時代において、ひとつの職業に限らず複数の職業を両立させることは珍しくなくなっています。今回は、自分らしく輝くため、どちらの仕事も欠かすことなく全力で取り組む、二足のわらじを履きこなす女性たちに注目し、取材してきました。
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介護福祉士+お笑い芸人
安藤なつさん 43歳・東京都在住
介護とお笑い芸人。2つを続ける理由
それはシンプルに「好きなことだから」
それはシンプルに「好きなことだから」
お笑いコンビ「メイプル超合金」ツッコミ担当の安藤なつさん。実は彼女が介護歴20年以上ということをご存じでしたか? 安藤さんが介護と出合ったきっかけは、小学校1年生のとき。
「叔父が小規模な介護施設を運営していたんです。その家に遊びに行く感覚で、自然と介護の現場に触れるようになりました。施設を利用する脳性麻痺のある方々や知的に障害のある方々といった色々な人と一緒におやつを食べたり、歌ったり。幼い私にとって〝介護〟は遊びの延長線上にあったんです」。
安藤さんにとって、介護に携わることは特別ではなかったため、お手伝いの幅はどんどん広がっていきました。そして、高校に入学した後に、〝お笑い芸人〟への道が開けていきます。
「中学時代から好きだったお笑い。高校生になり、観る側から参加する側になったんです」。
高校卒業後にホームヘルパー2級の資格を取得、お笑いの活動がしやすい夜間の訪問介護の仕事を選びます。
「介護する家族にとって睡眠時間の確保は大切。夜中にトイレに連れていったり、水分補給させたり…ご家族はどうしても睡眠時間を削られてしまいます。その大変な時間に、人の手を借りる。その勇気は、介護を辛いものにしないために大切なことだと思います」。
安藤さんが利用者の方と対峙するときに心がけること、それは「相手の気持ちを考える」ということ。
「夜間介護で、認知症のおばあちゃんのオムツ替えのとき、『バケモノ!』って驚かれたんです。一瞬、え?って思いましたが、考えてみれば、夜中に暗闇から人が突然現れたら、そりゃバケモノだよなって思ったんです。それで、『山から下りてきたばかりで』と話に乗っかりつつ、『オムツだけは替えさせてくださいね』と伝えました。一旦、その人の立場になって考えてみる。すると、新しい視点が見えて、別の方法やもっと楽しい方法が見えてくるんじゃないかと思うんです」。
’15年に「メイプル超合金」として出場したMー1グランプリ決勝前日まで勤務を続けていたという安藤さん。お笑い芸人と介護、まったく異なるように見える2つの職業には共通点があると言います。それは、「どちらも相手の反応が直接伝わってくる」という点。
「介護では『ありがとう』もあれば『やめて』もあり、意思が直球で返ってくる。お笑いは観客が〝笑い〟で意思表示をしてくれます。相手の感情を直接感じ取ることができる点に、やりがいを感じるんです」。
人手不足の介護業界。「介護の現場で働くことの楽しさややりがいを多くの人に知ってもらいたい」という思いから、安藤さんは今後も広報的な活動を続けていきます。
撮影/BOCO 取材/上原亜希子 ※情報は2024年10月号掲載時のものです。