彼女たちは一体どんな女性なのか? そんな議論が度々上がるけれど、港区で暗躍する素人美女、パパ活女子、あるいはラウンジ嬢など……「港区女子」の意味合いや捉え方は人それぞれ。
そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。港区女子たちは、一体どんな着地をしているのだろうか。現在アラフォーとなっていると思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。
※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
▼前編はこちらから
「港区女子に苛立つ…」男に媚びられない女の葛藤。財と権力ある男の力、利用できる?
港区女子仲間のお話はこちら
▼朝美<学生時代>
時給3000円、可愛い女子大生限定の怪しいバイト…普通の女子大生が「港区女子」になるまで
<現在>
港区の「ママランチ会」の実態。インスタグラムには映らない“会計係”
▼由利<学生時代>
「おじさんキラー」港区女子の実情。ブランド品にお小遣い…大金を貢がせる女の意外な苦悩
<現在>
「1杯1000円のコーヒーはもう飲めない…」アラフォーママになった元港区女子が六本木で感じる憂鬱
【茜の過去】「港区女子」になりきれない
朝美や由利のような派手な女の子たちとつるんで遊ぶのは、間違いなく楽しい。
私はたまたま街で声をかけられた読者モデルのスナップ撮影で由利に出会い、その可憐さに一瞬にして目を奪われたのが始まりだ。憧れの女性誌の撮影で緊張していた私に、すでに場慣れした由利は気さくに接してくれた。
以来、私は彼女と仲良くなり、プライベートの生活の質は格段に上がったのだ。
まるでテレビドラマや漫画に登場するような煌びやかな都会の生活。昔から東京の生活に憧れはあったものの、ただの学生の身分で星付きのフレンチの店や老舗の鮨屋に出入りしたり、芸能人の隣で日常的にカラオケができるなんて夢にも思わなかった。
当初は映画でも観るような気持ちで、ただ圧巻の世界に感心するばかりだった。でも私は徐々に違和感を持つようになった。
「ここの大金の支払いは誰がしてる?」
「どうしていつもタダでいいの?」
「彼らの目的は?」
「いつか危険な目に遭うんじゃないか?」
考えなければ、ただその場を楽しんで身を任せていれば、それでいいのかもしれない。でも私は、どうしても舞台裏が気になってしまう。こんな生活が成り立つなんて、どこかおかしい。
毎度タクシー代と称して渡される1万円札。たぶん、誰かのお財布が痛むことなんてない。なのに、受け取るたびに心がすり減るような気がするのはなぜだろう。
真面目で不器用なおじさんと…
1人どこか違和感を拭えないまま、でも私はいつも朝美や由利と一緒にいた。
どんどん生活が派手になり、魔法のように欲しいものを何でも手に入れていく彼女たちを羨ましく思う気持ちもある。毎晩贅沢にパーティー三昧している2人に置いていかれたくもなかった。
とはいえ、彼女たちのように場を盛り上げ溶け込むことも、心底楽しむこともできない。だから半歩身を引いて、「普段はこんな場所には来ないんです」という地味な清楚さを装う。金魚のフンのように後ろにくっつきながら、真面目なキャラに徹するのがいつしか私の生存戦略になっていた。
ーーあかねちゃん、今度ふたりで食事に行きませんか。好きなもの、何でも教えてください。
そして、そんな私を気に入る年上の男もいた。
彼らにとっては若い女と過ごせる時間はそれだけで貴重なのだから、朝美や由利のように堂々と恩恵を受ければいい。そう思い、40代半ばの裕福なおじさんと何度かデートを試みたことがある。代々続く輸入業をしているという独身で清潔感のある人で、女の扱いにいまいち慣れていない真面目さが不器用に映るおじさんだった。
会員制の割烹、ポルシェの助手席、銀座のシャネル……彼が私を連れていく先は期待通りの場所だったはず。なのに、私はやはり素直に楽しむことができなかった。常にびくびくと逃げ腰で、そのくせ、チヤホヤされればじんわりと何かが満たされるような感覚もある。
朝美や由利より私が劣っているわけじゃない。モテないわけじゃない。罪悪感と自分への嫌悪感で泣きそうになりながら買ってもらったマトラッセがその証拠だ。
その気にさえなれば私だってできる。“あえて”やらずに真っ当に生きる道を、自分の意思で選んでいるのだ。デートをしてバッグを買ってもらうくらいで留めておく。それで十分。私は賢い女だから、それ以上はしない。
そんなふうにして、私はこじれた自尊心を保っていた。
もう、媚びは売らない
ずっと憧れていた大手出版社から内定がでたとき、これまでの努力と苦しさが報われたと心底ほっとした。
こつこつと地道に頑張り続けたことも、都会の夜にいまいち馴染めず、女を武器にしきれなかったことも、私にとっては正解だったのだ。
内定が出てからは、なぜだか夜の街に繰り出すのも楽しくなった。
「茜ってすごいんだよ。ずっと憧れてた狭き門の出版社に内定決まったの!」
由利がそんなふうに私を紹介すると、男たちからも「美人なうえに優秀なんだね」と一目置かれるようになった。
新卒で配属された女性誌の仕事は予想通りの激務で、プライベートで遊ぶ暇はほとんどなくなった。代わりに業界人として飲みの場に行くことは増えたが、店や酒の質が昔より下がっても、私はこちらのほうが堂々と楽しむことができた。
朝美や由利は学生時代のほとんど変わらずに、ますます派手に遊んでいるようだ。本人たちが楽しいなら外野がとやかく言う必要はないけれど、若さを切り売りするような生活は少々心配になる。
私はもう、“若い女”として消費材料にされるのはごめんだった。
仕事は大変だが、誰かに媚びていい思いをするよりもずっと楽しい。自分の企画が通り、世の中へ発信できる喜び。きっと彼女たちはこの達成感を知らない。ブランド物だって頑張れば自分で買うことができる。地道にキャリアを積めば、わざわざ男に頼る必要なんてないのだ。
私は激務で体力をすり減らしながらも、人生の舵を自分でとることに快感を覚えていた。
次回、茜の現在は・・・つづく
取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子