エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「エイジング」について。
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小島慶子さん
1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、今年から10年ぶりの日本定住生活に。
『自分が自身の一番の味方でいること。それが1番の〝前向き〟エイジング』
アンチエイジングという言葉に抵抗があります。だって生きることは、加齢そのもの。「アンチ生」ってどうなのよ。
思えば、生まれてからある時点までは年齢を重ねることはめでたいことでした。「大きくなったね」「立派な大人になって」などと言われたものです。高齢になるとまためでたいことになります。「いつまでもお元気で何よりですね」「うんと長生きしてね」と言われますから。
では一体いつからいつまでは、歳をとるのがめでたくなくなるのでしょう。たぶん40歳から70歳ぐらいまでかな? 女性はその間に閉経するし、男女ともに更年期で体が大きく変化します。でもそれが生身の宿命。経年変化を「劣化」と揶揄する人たちは、自分が生きているのを忘れているんでしょう。
そういやこないだ鏡を見たら、歯の先端が透明になっていました。このままだとマヤ文明の水晶ドクロみたく頭蓋骨が透き通っちゃうのでは? と気になって検索してみたら、どうやら歯の老化現象の一種のようでした。そこでかかりつけの歯医者さんで診てもらい、フッ素入りの歯磨きやマウスウォッシュでコツコツとエナメル質を強化することに。すると今度は、視界にゴミみたいなのが見えるようになりました。飛蚊症がひどくなったみたいだなとかかりつけの目医者さんに行くと、これまた原因は「一言で言えば加齢ですね」と。ああ私、生きているんだなと感慨深かったです。
私はかかりつけ医が大好き。歯医者さん、目医者さん、内科、産婦人科、全部なじみの先生がいます。
美容皮膚科も然り。30代半ばでシミをとって以来、もう15年も同じ先生のところに通っています。出会った頃は20代だった先生も40代のママに。患者の希望を丁寧に聞いてくれて、話がめちゃくちゃ面白い素敵な先生です。2〜3カ月に一度クリニックに行って、シミの芽を焼いたり、コラーゲンを励ましたり、毛穴を目立たなくしたりするレーザーをおまかせで当ててもらっています。おかげで肌が整って、日焼け止めだけで出かけられるようになりました。私はいつもバタバタして遅れそうになるので、化粧せずに外出できるのはとても助かるのです。化粧していなければ、顔を洗わないで寝られるしね(良い子は洗いましょう)。
加齢に伴って、肌が弛んだり色むらが出たりするのはごく自然なこと。美容医療は、変わっていく顔にゆっくりと慣れる手助けをしてくれます。私の場合は目の周りの皮膚が薄いので、深いシワがたくさんあります。先生はそれを見越して、早めにボトックスを打ってシワが刻まれにくいようにしたかったみたいですが、針が怖いという私の気持ちを尊重して、15年もの間、着々とシワを刻む私を見守ってくれていました。
医師としてはじれったい思いもあったはず。それでも、本人が納得していることが一番大切だというお考えがあったのだと思います。最近になって、先生が日本一細い針を使っていると聞いて、それがどれほど細いのかどうしても知りたくなり、ついに眉間と目尻にボトックスを打つようになった私ですが、すでにかなりシワが深いので、打っても本人にしか変化がわかりません。でも満足しています。そろそろまた打ちに行かなくちゃ。肌も歯も目も内臓も、こうして自分のペースでお世話を続けています。かかりつけの先生たちは、いわば私の老化に伴走してくれる人たちです。
「手入れ」というのはいい言葉です。自然の野山に手を入れて、畑や田んぼにする。嵐が来て作物がやられる。また手を入れて、作物を植える。今度は旱魃でやられる。また手を入れて、種を蒔く。そうやって自然との対話を繰り返して人が少しずつ手を入れ、里山の美しい景色が作られています。子育てもそれと同じだよと、解剖学者の養老孟司さんがおっしゃっていました。子どもは自然ですから。ならば自分の体ももちろん自然の産物ですから、やっぱり手入れが大事です。手入れとは、自然を支配するのではなく、根気よくやり取りを重ねて調和をはかること。
誰もが平等に毎分毎年加齢します。歳を重ねることを悪いことだと思うから、アンチの立場で自分の体を眺めちゃう。体とは死ぬまでの長いお付き合いなんだから、一番の味方でいないとね。どんなあなたでも、大事にするよと。アンチ(反対)じゃなくて、プロ(賛成)エイジング。時の流れを前向きに受け入れて、変わりゆく体とお付き合いを。まずはいろんなかかりつけの先生を味方につけて、楽しくお手入れを続けましょう。
文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2025年1月号掲載時のものです。