桜の便りが待ち遠しい季節になりました。そろそろ吉野桜見物など奈良へのお出かけを計画している方もいらっしゃるのでは? 「奈良は日帰りが定番」と思われがちですが、その歴史と自然が織りなす奥深い魅力に触れ、あえて奈良を拠点にじっくり過ごす大人旅も実は人気なのです。私自身も、最近は奈良にご縁が多く、取材を通じてはもちろん、知人との会話の中でも「奈良の魅力に惹かれている」という声を耳にすることが多くなりました。せっかく訪れるなら、心から寛げる上質な宿に滞在し、美食と絶景に癒される特別な時間を過ごしたい。そう思い、今回は話題のオーベルジュを訪れてきました。
美食と絶景の旅へ。奈良公園の新たな隠れ家オーベルジュ『VILLA COMMUNICO』で極上薪火料理に舌鼓

2024年夏、奈良・春日大社のふもとに新たなオーベルジュ「VILLA COMMUNICO」がオープン。長い歴史を誇る土産屋をリノベーションしたこの隠れ家は、レストランとわずか5室のゲストルームからなる特別な空間です。客室は「火」「水」「土」「風」「木」という自然の要素をテーマに、奈良の四季や文化を表現しています。
世界観を詰め込んだ空間が魅力。堀田大樹シェフの挑戦
オーナーシェフは奈良市生まれの堀田大樹さん。イタリアでの修業や京都・奈良の名店での経験を経て、2018年に「COMMUNICO」を開業。2022年と2023年に「ミシュランガイド奈良」で1つ星を獲得しました。そんな堀田さんがさらなる挑戦として立ち上げたのが、このオーベルジュ。奈良は若草山の山焼きや東大寺のお水取りなど、火にまつわる神事多いことから着想を得て、”薪火料理”を軸としたオーベルジュをイメージしたそう。オーベルジュを開く前にスペイン・バスク地方で薪火料理を学んだ堀田シェフは「奈良の食のポテンシャルの高さを、もっと皆さんに知ってほしい」と語ります。このオーベルジュでしか味わえない料理に期待が膨らみます。
奈良公園内の絶景ロケーション。趣ある古民家をモダンに再生

「VILLA COMMUNICO」へは、近鉄奈良駅から車で約7分。東大寺を眺めながらゆったり散策しつつ若草山方面へ徒歩で向かうのもおすすめです。歴史ある土産屋だった古民家を改修した建物は、外観に当時の面影を残しながらも、中へ一歩足を踏み入れると驚きの空間。和とも洋とも言えないような空間で、手塗りの壁や温かみのある天然木、地元アーティストが手がけた装飾品が織りなす内装は、どこか懐かしくも洗練された趣。心がじんわりと包まれるような温もりを感じました。
歴史薫るラウンジで、贅沢なチェックインタイム
客室のデザインにも込められたシェフのこだわり
極上の薪火ディナーで五感が目覚める特別な夜

店内の中央には堂々と構える薪火台。昔ながらの「かまど」をイメージして作られたというこの空間は、モダンなだけじゃない、奈良のイメージにマッチする存在感があります。薪火の弾ける音、炎が揺らめく様子、そして目の前で繰り広げられるライブ調理の臨場感。すべてが五感を刺激し、気分が高揚する感じがしました。

驚いたのは、登場する料理が薪火のダイナミックさと反して、とても繊細なこと。見た目も味わいも想像をはるかに超えるものばかりで、前菜からデザートまで驚きと感動の連続でした。薪火使いにこだわりつつも、発酵や熟成といった技法も巧みに取り入れた料理。素材そのものの味わいも大切に、細やかに手をかけて調理されているのを感じました。
「薪火はその日の天候や湿度によって表情が変わる。だからこそ毎回違う一期一会の味わいが楽しめるんです」と語る堀田シェフ。まさにその日のためだけに用意された“スペシャルメニュー”。季節の移ろいに合わせて少しずつ変化するメニューがとても気になります。リピートするお客様が多いのも納得。
さらに心を満たしてくれるのが、地元のクラフトビールやワイン、日本酒などを取り揃えた豊富なドリンク。ノンアルコールにもこだわり抜かれており、ワインペアリングではソムリエが料理にぴったりの一杯を選んでくれるのも至福のポイントです。
薪火の香り漂う贅沢な朝食
奈良の魅力を堪能する大人の滞在
京都や大阪とはひと味違う、穏やかな空気が流れる奈良。その魅力を存分に感じられる「VILLA COMMUNICO」は、オーナーシェフ堀田さんが約7年もの歳月をかけて構想し、情熱を注いできた場所です。歴史ある建物に息づくオーナーの世界観が、ここでしか味わえない“特別な滞在”へと導いてくれます。
奈良の魅力は、短時間の慌ただしい観光では味わい尽くせません。訪れた土地の空気や歴史を、ゆっくりと五感で感じる旅。そんな贅沢な時間こそ、大人になった今だからこそ楽しめるものです。
これからの行楽シーズン、いつもとは違う奈良の過ごし方を計画してみてはいかがでしょうか。
取材/笹 利恵子