働く女性は増えましたが、それでも女性社長はいまだに全体の10%にも満たないのが日本の現状です。そこで今回は、今注目の女性リーダーにお話を伺いました。すると意外なことに、トップへの道筋は野心や夢がもたらした果実ではなく、目の前の仕事に誠実に取り組んだ先にあった、と語ってくれたのです。
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ブックオフ元社長・橋本真由美さんのパート社員時代【画像】
橋本真由美さん 75歳・神奈川県在住
ブックオフコーポレーション株式会社 元社長

専業主婦歴18年の のちパート入社。
毎日の仕事が楽しく夢中で働き社長に
毎日の仕事が楽しく夢中で働き社長に
結婚後18年もの長い間、専業主婦に専念していた橋本さん。2人の娘さんが中・高生と成長し、学費や塾代など家計の負担が増加。家計管理は苦手なものの、少しでも教育費の足しになればと新聞チラシで見つけた時給600円のパートこそ、のちに社長に就任することになるブックオフ1号店のスタッフ募集でした。
当時は「男性は仕事、女性は家庭」が一般的な時代、「平日は夕方5時まで、土日は休み」と家族との約束でパートに出たものの、開店準備に追われて深夜に帰宅するなど、とにかく目の前の仕事に夢中になってのめり込んでいったのだとか。「中古業は仕入れがすべて、その日買い取ったものを鮮度の高いその日のうちにすべて棚に出し切ることで、売り上げに大いに直結するのが見えてワクワクしました。母でも妻でもなく〝橋本さん〟という個人で、店の売り上げや成果を認められ、給与を得たこと。こんな世界があったのかと視野が開け、ますますのめり込みました」。
故郷福井の言葉でいう〝一概な人〟、没頭する気質だと自己分析。「娘2人はそれまで過保護で育ててきたのに、働き始めてからは家事は上手に手抜きし、おかげで今は子を育てフルで働く自立した女性に育ちました。当初、娘たちを置いて家を出ることに申し訳なさがあり、いつだかそんな昔話をしたら、まったく覚えてなくて杞憂でしたね(笑)。だから今、家事育児でご自身のキャリアに悩んでいる方には、自信を持ってご自分の道を進んでほしいとエールを送りたいです。出張など多忙だった夫とは『俺とブックオフとどっちが大事?』なんて喧嘩もしましたが、夫のゴルフクラブ購入と引き換えに、私の全国出張が叶いました。そんな夫の闘病時には介護し、福井に住む実父は遠距離介護を経験しました。1日24時間あるから、なんとかなる。ただ、目の前にある仕事のおかげで、ここまでがむしゃらに頑張ってこられたんです」。
ブックオフには今も、橋本さんが作った『DDY』という合言葉があります。店員が小走りで行動する「ダッシュ」、買い取った中古本を磨き上げて棚に並べる「出し切り」、いらっしゃいませの声に他の店員も反応する「山びこ」の頭文字をとったもの。パートで働き始めた当時の経験から、学生バイトをはじめとする店の仲間たちと、いかに活気のある店にするか、魅力のある店に育てるか、働く人をやる気にさせるか、行動指針が今なお息づいています。
「パート時代からスタッフと一緒に汗をかき、何事も一生懸命にやったことで、将来への種をたくさん撒いていたのでしょうね。その種が鮮やかに花開き、今現在の仕事へご縁が繋がったことに感謝です」。

「目の前の仕事をがむしゃらにやっていれば、誰かが絶対見ています。たくさん種を撒けばいつか必ず咲く時がきます」。
撮影/田頭拓人 取材/羽生田由香 ※情報は2025年4月号掲載時のものです。