6月13日から26日まで、およそ2週間にわたりオランダとベルギーを公式訪問された天皇皇后両陛下。天皇陛下にとってオランダは13年ぶり、ベルギーは27年ぶりのご訪問であり、両陛下が複数の国を歴訪されるのは24年ぶりとなりました。
両国では温かい歓迎を受け、王室施設に滞在。宮中晩餐会や記念式典へのご臨席に加え、文化・福祉・教育などさまざまな施設をご視察され、世代を超えた交流を通して両王室との揺るぎない友好と信頼の絆を深められました。
そして今回のご訪問でも、ひときわ注目を集めたのが皇后雅子さまのファッション。リラックス感のある日中の装いから、気品と華やかさを兼ね備えたイブニングドレスまで、訪問先やシーンに寄り添った着こなしが大きな話題となりました。その装いに込められたメッセージや見どころについて、放送作家、皇室ライター・つげのり子さんに詳しく伺いました。
「日本は昨年、オランダとの交流425周年を迎え、今年はベルギーとの交流160周年という節目の年を迎えました。
オランダとは江戸時代から400年以上にわたる交流の歴史がありますが、第二次世界大戦で戦火を交えたことで、戦後はオランダ国内の反日感情が強く、難しい関係が続きました。その転機となったのが、2000年の上皇ご夫妻のオランダご訪問です。真摯なご交流が現地の人々の心を動かし、両国の関係改善への大きな一歩となりました。
また、雅子さまが療養中に当時のベアトリックス女王のご招待で、オランダにて静養されたこともあり、近年では両王室は“親戚”ともいえるほど親密な関係を築かれています。アルゼンチン出身のマキシマ王妃も、銀行員としてキャリアを積んだ後に王室へ嫁ぎました。しかし、父親の政治的問題が物議を醸し、批判されたこともありました。ご自身と境遇の重なる雅子さまにとって、よき理解者のお一人といえるでしょう。
滞在中には、サッカーワールドカップの日本対オランダ戦を、オランダ国王ご夫妻と愛犬も交えて、滞在先のヘット・アウデ・ロー城で一緒に観戦されたことも伝えられました。互いへの信頼と敬意が自然に伝わる、まさに家族のような温かな交流が印象的でした。
一方、ベルギー王室と日本の皇室も4世代にわたり交流を重ねてこられました。昭和天皇が皇太子時代の1921年にベルギーを訪問され、その後、1953年には上皇陛下も皇太子時代に訪問されるなど、長年にわたり親交を育まれてきました。
フィリップ国王は天皇陛下と同世代ということもあり、ご家族ぐるみのお付き合いが続いています。今回、空港で両陛下をお迎えになったのが長女のエリザベート王女だったことからも、両王室の親密な関係がうかがえます。
こうした長い歴史と深い絆に支えられた両国との国際親善だったからこそ、今回のご訪問では、両陛下が終始リラックスした穏やかな表情で交流を楽しまれていた姿が、とても印象的でした(つげさん)」。
★ 日本とオランダの象徴を、着こなしの色に託した歓迎式典
★ 皇后としての存在感がひときわ印象的だった晩餐会での優美なドレス
★ 両陛下、国王夫妻の絆を感じさせる、4人でのカラーリンク
★ ベルギーでの空港ファッションは、新緑を思わせる若草色のモダンなスーツ
★ ベルギーでは、自然に調和したリラックス感溢れる着こなしも披露
★ 「出会い」「再会」を意味する神聖な白を選ばれて
★ 文化への相互理解と敬意をドレスで表現された皇后、王妃のファッションの饗宴
訪問される国への敬意と格式高さが両立したオランダの空港ファッション
オランダ、首都アムステルダム郊外のスキポール空港に到着された両陛下。
鮮やかなロイヤルブルーに、ホワイトのパイピングが美しく映える気品あふれるスーツ。ポイントとしてあしらわれた小ぶりのリボンは、まるで日本とオランダを結ぶ深い絆を象徴しているかのようです。ノーカラーのジャケットに縦のラインを際立たせるパイピング、山を高く、天井をフラットに仕上げたキャノチエ帽、そしてすっきりとしたタイトスカート。全体をIラインでまとめたスタイリッシュなシルエットが、知性と洗練を感じさせます。
「オランダの国旗は青・白・赤の3色。そのうち青と白を取り入れることで、訪問国への敬意を表されたのかもしれません。また、ロイヤルブルーは古代ローマ時代から高貴さを象徴する色とされてきました。国際親善の幕開けにふさわしい、品格と祝意を兼ね備えたカラーをお選びになったのではないでしょうか(つげさん)」。
日本とオランダの象徴を、着こなしの色に託した歓迎式典
オランダ、アムステルダムのダム広場での歓迎式典にて。
海を思わせるブルーに、優雅なマーメイドラインのワンピース、そしてエレガントなヴェール付きの帽子。まるで人魚姫を彷彿とさせるような、気品あふれる装い。全体的に直線ではなく、柔らかな曲線を描くデザインでまとめられ、雅子さまの穏やかで優しい表情をより一層引き立てています。
「今回のオランダご訪問では、ブルーを基調としたお召し物が多いご様子でした。オランダは国土の約4分の1が海抜0メートル以下に位置し、長い歴史の中で高度な治水・排水技術を発展させてきた、“水”と深い関わりを持つ国。首都アムステルダムも“水の都”として知られています。一方、天皇陛下は長年“水”をライフワークとして研究され、皇太子時代の平成19年から27年まで国連『水と衛生に関する諮問委員会』の名誉総裁を務められました。同委員会で18年から議長を務めていたのが、皇太子時代のオランダのアレキサンダー国王です。そうした“水”を通じた深いご縁を象徴するように、雅子さまも今回のご訪問ではブルー系のお召し物を多く選ばれたのではないでしょうか。
また、この装いはラベンダーを帯びた淡い水色で、日本の6月を彩るアジサイを思わせる色合いでもあります。オランダといえばオレンジを思い浮かべる方も多いですが、2014年にアレキサンダー国王夫妻が来日された際には、雅子さまもマキシマ王妃もオレンジ色のお召し物を選ばれていました。今回は、あえて分かりやすいモチーフカラーではなく、両陛下らしい知性と品格を感じさせるメッセージを、ブルーに託されたのかもしれません(つげさん)」。
皇后としての存在感がひときわ印象的だった晩餐会での優美なドレス
オランダ、アムステルダム王宮でのアレキサンダー国王夫妻主催の晩餐会にて。
オランダで開かれた晩餐会では、雅子さまのラグジュアリーなイブニングスタイルが大きな注目を集めました。ロイヤルブルーに金糸のレースを重ねた気品あふれるドレスに、第三ティアラを合わせた華やかな装い。その圧倒的な輝きにも引けを取らない、雅子さまの優美で凛とした存在感がひときわ印象的でした。
一方、オランダのマキシマ王妃がお召しになったのは、オランダを代表するブランド「Iris van Herpen(イリス・ヴァン・ヘルペン)」によるカスタムメイドのガウン。伝統的なオートクチュールの卓越した職人技に、最新技術や革新的な素材を融合させたブランドならではのクリエーションは、まさにアートピースのような一着。既成概念にとらわれない前衛的なデザインでありながら、王室の晩餐会にふさわしい気品と華やかさを兼ね備えたそのドレスは、自由の国オランダを象徴しているよう。伝統を重んじる雅子さまのエレガントな装いと、革新性を映し出すマキシマ王妃のモードなスタイル。それぞれの国らしさと個性が美しく響き合う、印象的なファッションの競演となりました。
「令和に入って以降、晩餐会ではホワイト系のドレスや和装で臨まれることが多かった雅子さま。今回は、皇太子妃時代を思わせる鮮やかなロイヤルブルーのイブニングドレスをお召しになり、その新鮮な装いが大きな話題となりました。華やかなドレスを気品豊かに着こなされるお姿からは、皇后としての揺るぎない存在感が見受けられます。
ドレスを彩る花柄のレースは、雅子さまのお印であるハマナスをモチーフにされているのではないでしょうか。また今回、天皇陛下はオランダ最高位の勲章『オランダ獅子勲章』を贈られましたが、その勲章のサッシュの色に合わせて雅子さまのドレスを仕立てられた可能性も考えられます。さらに、マキシマ王妃とのゴールドのカラーリンクも、事前に意識してコーディネートされたのかもしれません。
雅子さまの笑顔を一層輝かせていたティアラは、通称『皇后の第三ティアラ』。秩父宮妃勢津子さまから上皇后美智子さまへ、そして皇后雅子さまへと受け継がれてきたと思われる、由緒あるティアラです。扇状に広がるナツメヤシの葉を図案化した『パルメット』をあしらった優雅なデザインは、繊細な花柄レースのドレスとも美しく調和していました。
一方、豪華絢爛な存在感を放っていたマキシマ王妃のティアラの中央には、約40カラットともいわれる希少な『スチュアート・ダイヤモンド』が輝いています。かつてスチュアート朝のイギリス女王メアリー2世が所有していたと伝わる由緒ある宝石で、オランダ王室を代表する至宝の一つ。王室最高峰のティアラを身に着けての歓迎からは、両陛下への最大級の敬意と、日本とオランダ両国の揺るぎない信頼関係の深さが伝わってきます(つげさん)」。
両陛下、国王夫妻の絆を感じさせる、4人でのカラーリンク
オランダ、ユトレヒトの「プリンセス・マキシマ小児がんセンター」に到着され、アレキサンダー国王夫妻と記念撮影に臨まれる両陛下。
雅子さまには珍しい植物モチーフの総柄ジャケットに、定番の白パンツとバイカラーパンプスを合わせ、小児がんセンターをご視察。オリエンタルな趣を感じるスタンドカラーと、着物を思わせる艶やかな光沢素材、さらにミントグリーンとパステルピンクの淡く優しい配色が、柔らかな気品を際立たせていました。その後に訪問された「アムステルダムの森公園」では、豊かな緑と花々に溶け込むように調和し、まるで一枚の絵画のような美しい佇まいが素敵でした。
「普段はテーラードジャケットを好まれる雅子さまですが、この日は珍しいスタンドカラーのロングジャケットをお召しに。オリエンタルな雰囲気があり、アジアのテイストを意識された装いだったように感じます。小児がんセンターをご訪問されることを踏まえ、見る人の心を和ませ、威圧感を与えないミントグリーンとパステルピンクの淡く優しい配色を選ばれたのではないでしょうか。
また、この日はオランダご訪問の最後日でしたが、特に印象的だったのはカラーリンクです。天皇陛下はマキシマ王妃と淡いピンク、雅子さまはアレキサンダー国王とミントグリーンをさりげなくリンクさせていらっしゃいました。互いを尊重し、深い信頼関係で結ばれているからこそ実現する、自然で美しいカラーコーディネートがとても印象的でした(つげさん)」。
ベルギーでの空港ファッションは、新緑を思わせる若草色のモダンなスーツ
ベルギーご到着時、飛行機から降り立たれた両陛下は、ここでも美しいカラーリンクを披露されました。若草色のネクタイを締められた天皇陛下に寄り添うように、雅子さまは若草色のスーツをお召しに。ジャケットは七分袖、スカート丈もいつもよりやや短めで、軽やかで新鮮な印象。年々深刻化するヨーロッパの暑さを考慮された装いだったのかもしれません。
ドレープを効かせたスタンドカラーや、ペプラムシルエットを取り入れたロングジャケットなど、シンプルな中にもモダンなデザインが光る一着に、約30年前から大切に愛用されているパールのブローチを添えられたコーディネートは、雅子さまならではの審美眼と物を慈しむお人柄を感じさせます。また、シルクシャンタン特有の上品な微光沢が高貴な佇まいをより一層引き立て、洗練されたシンプルさを際立たせていました。
「新緑を思わせる若草色のネクタイとスーツで、ベルギーの地に降り立たれた両陛下。この日、空港でお迎えしたのは、ベルギー国王夫妻の長女であり、次期女王のエリザベート王女です。エリザベート王女は、オックスフォード大学とハーバード大学で学びました。雅子さまもまた、両大学で学ばれ、王女は後輩にあたります。エリザベート王女は今年大学を卒業されたばかりで、国賓をお一人でお迎えするのは今回が初めて。無垢な白いセットアップに身を包まれたその姿は、まだ何色にも染まっていない、未来への可能性を秘めたお姿を象徴しているようでした。
幼い頃から交流のある両陛下は、王女の国賓接遇デビューという晴れの舞台を祝福するかのように、若草色のリンクコーディネートで臨まれたのかもしれません。『これから若草のように瑞々しく成長し、大きく羽ばたいてください』という温かなエールが込められていたようにも感じられます(つげさん)」。
ベルギーでは、自然に調和したリラックス感溢れる着こなしも披露
滞在先のベルギーの離宮シエルニョン城でフィリップ国王一家と記念撮影に臨まれる両陛下。
この日の両陛下は、ノーネクタイの天皇陛下と、マリンカラーを基調としたジャケット×パンツスタイルの雅子さまという、ご静養時を思わせるリラックスした装い。マニッシュなダブルジャケットのセットアップにパールジュエリーを添えることで、凛とした中にも柔らかさが漂い、上級者ならではのバランス感覚が光っていました。また、雅子さまは空を思わせるブルーのトーンを意識されたかのような装いで、マティルド王妃もグリーンを基調としたコーディネートを選ばれ、自然の色彩を感じさせるさりげないカラーリンクも印象的でした。互いに調和するような装いからは、王室同士の温かな関係性と、和やかな交流の雰囲気が伝わってくるようでした。
「歓迎式典や王宮晩餐会など、国賓としての公務の前に、大自然を望むシエルニョン城への招待を受け、ご滞在された両陛下。そのご様子はとてもリラックスされているようにお見受けし、お城を取り囲む美しい自然に溶け込むように、ナチュラルなブルーのグラデーションを意識された装いを選ばれたのではないでしょうか(つげさん)」。
「出会い」「再会」を意味する神聖な白を選ばれて
ベルギーの首都ブリュッセルにあるラーケン宮に到着された両陛下。
歓迎式典や晩餐会が行われる、国王のお住まいである王宮・ラーケン宮に到着された両陛下。普段はタイトスカートの装いが多い雅子さまにとっては珍しく、ノーカラージャケットにフレアシルエットのワンピースを合わせたエレガントなスタイルでした。純白のジャケットには同色のパールボタンがあしらわれ、バッグやシューズ、ジュエリーに至るまでオールホワイトで統一。ワントーンでまとめながらも単調に見せず、ボタンやジュエリーで大粒のパールを効果的なアクセントとして配し、さらにジャケットとスカートの異素材のコントラストによって立体感と奥行きを生み出されています。全体を白でまとめる中にも、質感やディテールで変化をつけることで、洗練された華やかさと品格を両立された、見え方を熟知した完成度の高い装いでした。
「この日、マティルド王妃は雅子さまのお召し物と調和するような、ベージュのセットアップをお召しになっており、以前から親しい仲であるお二人は、事前にご相談のうえで色調を合わせられた可能性も感じられます。ラーケン宮は、上皇さまや陛下もご訪問されたことのある宮殿であり、これまで数々の王族・皇族が訪れてきた由緒ある場所です。1984年、イギリス留学中だった陛下が、ベルギーを訪問された上皇ご夫妻と久しぶりに再会された場所でもあります。そのような背景を踏まえ、『出会い』や『再会』を新たな気持ちで迎える白、あるいは歴史ある景観に調和し、場の神聖さを損なわない色として、純白を選ばれたのではないかとも想像されます(つげさん)」。
文化への相互理解と敬意をドレスで表現された皇后、王妃のファッションの饗宴
ベルギーでの晩餐会では、アイボリーの生地に淡いピンクベージュのレースを重ねたイブニングドレスをお召しになった雅子さま。ティアラはオランダと同様に「皇后の第三ティアラ」をお選びになり、ネックレスとイヤリングもティアラと同コレクションと思われるパルメットモチーフのデザインで統一。ティアラとネックレスは上下で響き合うような対称的な印象を生み出し、圧倒的な存在感とともに、王宮の光を味方につけるようなドラマティックな煌めきを放っていました。
一方、マティルド王妃は、トップからボトムへとパウダーピンクからジェイドグリーンへと移ろう繊細なグラデーションのドレスをお召しに。ジョルジオ・アルマーニ プリヴェのビスポークによるデザインで、デコルテ部分には団扇をモチーフにした刺繍が施され、日本へのオマージュも感じさせる意匠。マティルド王妃が着用されたティアラは、1926年にアストリッド王妃の婚礼祝いとして贈られた「ダイヤモンド・エンパイア・ティアラ(ナイン・プロヴィンス・ティアラ)」であり、重厚な輝きが歴史の深さを物語る、由緒あるジュエリーとして知られています。
「ベルギーは16世紀以来、伝統工芸としてレース産業が発展してきた“レースの国”。そんな歴史背景を意識され、美しいレースのドレスを選ばれたのでは。また、天皇陛下はベルギーからレオポルド勲章グランコルドンを贈られており、その勲章を付けるサッシュの鮮やかなパープルが装いの重要な要素となります。雅子さまの淡いピンクのレースドレスは、このパープルのサッシュと美しく響き合い、色彩としても見事な調和を生み出していました。サッシュの存在感を引き立てるために、この配色が選ばれた可能性も感じられます。一方、マティルド王妃は、日本の団扇をモチーフにした刺繍をあしらったドレスをお召しになり、心のこもったおもてなしの意を表すような装いでした。雅子さまとマティルド王妃の装いには、文化を通じた相互理解と敬意が、衣装という形で丁寧に表現されていたことが印象的です。さらに、『皇后の第三ティアラ』は秩父宮妃勢津子さまから上皇后美智子さまへ、そして皇后雅子さまへと受け継がれたものと思われます。上皇夫妻とベルギー王室、特にボードワン国王夫妻との長年にわたる深い友情の歴史、その思いを受け継ぐかのように、ティアラを通してベルギーへの敬意と絆を示されていたのかもしれません(つげさん)」。
取材/味澤彩子
教えてくれたのは…
放送作家・皇室ライター
つげ のり子さん





















