「男の子ってよくわからない……」とスルーすることは、将来のジェンダーフリー社会にそぐわないかも!? 「男の子育て」について、識者4名に聞きました!
【女性識者の意見①】弁護士・太田啓子さん
Profile
弁護士。小6と小3男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわる投稿が反響を呼ぶ。息子が最近、読んでいた世界偉人伝のマンガもジェンダーが増え、変わってきたと実感している。
◎「男の子だから仕方ない……」という子育ての仕方は要注意です
弁護士として、離婚やセクハラの案件を多く扱い、男性の問題行動をよく見ます。その経験から、男子2人の母として、ジェンダーを意識した教育を考えていました。
親族でよく「男だから勇気を出して!」「男の子は弱音を吐かない!」などという方がいて「男らしさ」を押し付ける言動に閉口していました。
「勇気がある」「困難の中でも弱音を吐かない」というのは、性別は関係ない。〝男の子の子育て3大問題〟として「男子ってバカだよね」「カンチョー放置」「意地悪は好意の裏返し」問題を考えました。
昔は「やんちゃないたずら」でスルーされたことでも、実は相手を傷つける暴力だということはあるはず。流さずちゃんと正すべき。スルーすることがただちに犯罪につながるとは思いませんが、ハラスメントに鈍感な感性を作りかねない。
母親は男子としての経験がないことで、夫や友人などから「男の子ってそんなもの」と言われると、つい、そうかなと思ってしまいがち。でも今までそんな行動をスルーされてきた男の子たちが今、暴力やハラスメントに鈍感な大人に育ってしまっているのかもしれない。
だから「男の子はしょうがない……」はあきらめてもいい理由にはならない。息子のために、大変でもしっかり伝えること。人として息子を対等に尊重すべき、と思います。
コロナ禍のなか、SNSの投稿がきっかけで『これからの男の子たちへ』を出版。男の子の子育てに悩む母親たちの間で話題に。
太田さんが男児の子育てで感じたことや対談もあり、読み応え充分。〝男らしさ〟を求める義母にもおすすめの一冊。ライター東理恵の愛読書。
【女性識者の意見②】脳科学者・細田千尋さん
Profile
医学博士。脳科学者・認知科学者。東京大学大学院総合文化研究科特任研究員、帝京大学戦略的イノベーション研究センター講師、東京医科歯科大学血管内治療科非常勤講師。
脳から個人の能力や特性を推定、効果的な能力開発法を研究。2男1女の母。
◎ 脳の機能として 「男性脳」「女性脳」 というものはなく、 性差ではなく個人差です
「男と女はそもそも脳が違っている」と〝男女のトリセツ本〟が人気でしたが、脳科学の世界で大問題になりました。そんな「男性脳」「女性脳」はありません。
ジェンダーは生まれたときから刷り込まれています。与えられた環境から、女の子、男の子としての意識の多くが育てられていきます。小学生の算数の成績で男子が女子を上回ると「女の子は数字に弱い」と思い込みを刷り込ませてしまいがちですが、その思い込みが算数をよりできなくさせるという研究があります。
できないのは「男の子も一緒」。私も3児の母で、仕事柄、脳科学を意識しながら子育てをしています(笑)。家族別々に寝ることが流行っても、川の字で子供と一緒に寝たり、絵本の読み聞かせは一方的に話さず、オーバーリアクションをし、子供と対話しながら読む(語彙力が豊富になる)、右脳・左脳をうたったものは見ないなど。
自分にしっかりと軸を持てば情報に振り回されません。ただ、子供を褒めるときには「〇〇ができたね!」と具体的な過程を認めないといけないのですが、つい「天才! 頭いいね~!」などと抽象的に言ってしまいます(笑)。
「私はこれで子育てを成功した」といったような本もありますが、それは単に1つの例、たまたまその方法がその子に合っていただけ。惑わされず、子供の個性に合った方法を大事にしてください。
【男性識者の意見①】臨床心理士・西井 開さん
Profile
臨床心理士。立命館大学人間科学研究科博士後期課程。専門は臨床社会学、男性学。
「ぼくらの非モテ研究会」発起人。月1~ 2回SNSで募集し開催。
◎ かまいすぎは「お母さんがやってくれるも」と思って、ケアから遠ざかってしまうかも
競争社会に嫌気がさした男性たちが今までの経験や感情を語る「ぼくらの非モテ研究会」という場を開いており、およそ10~30代の方たちが参加しています。その中から見えてくることは「男らしさの押し付け」だけでなく「かまいすぎ」の問題です。
出版後、お母さん方の反響もあり「息子がどうなるのか不安」という意見があったのですが、その「不安」という感情に敏感になる必要があると思います。
何かトラブルが起きたとき、息子自身が解決するより先に手を出している、息子を大目に見ているようでいて、実は大きく介入している――
そんな過干渉な母親が少なくありません。それでは息子は母的な存在にケアを頼り、問題を自分なりに考えたり友人同士でケアし合うことが難しくなってしまう。将来が不安でも「未来」より「今」を見ることが大切だと思います。
昨年、「ぼくらの非モテ研究会」の内容をまとめた『モテないけど生きてます』(上)が出版され、話題に。
【男性識者の意見②】大学准教授・田中俊之さん
Profile
大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。
『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を考え、教えている。私生活では5歳と1歳男児の父。
◎ 血液型診断でさえ4種類あるのに、男性と女性というだけで2つに分けるのは乱暴すぎます
男性学の視点から子供たちに教えておくべきなのは、やはり「性差」よりも「個人差」が大事ということ。「男はこう、女はこう」と二分することはざっくりしすぎで無理がある。
今の小学生でも自分らしさが大切、見た目で違いはない、と子供のほうが自然に受け入れています。僕も今、2児の父。長男は『アナ雪』のお箸とピンクの服を着ていますが、彼自身が選んだものですから尊重しています。
性別を理由に否定しない。母親が抱く「こうなってほしい」の押し付けは、子供のためにはならないかもしれない。自分の子供は何が向いていて、何が得意なのかをよく見てあげてください。
価値観のアップデートが必要です。男子だから「上へ、上へ」を目指すという競争主義的な価値観は高度成長期の考え方。今は煽るより静めて、自分のペースで生きていけるようにしてください。
撮影/吉澤健太 取材/東 理恵 ※情報は2021年3月号掲載時のものです。