日々進化を遂げている不妊治療の現場。これから不妊治療を始めようとしているSTORY世代に、知っておくべき現実や治療との向き合い方について、西洋医学と中医学のプロフェッショナルにお話を伺いました。
多種多様な選択肢がある中で何をどう選ぶか。回り道ができない大人の不妊治療だからこそ、正しい知識を身につけることが必要不可欠。最先端の不妊治療を牽引する専門家の言葉は、治療に一歩踏み出すきっかけを与えてくれるはずです。
★ 大人だからこその情報収集力で 賢く治療に向き合ってほしいです
教えてくれたのは…住吉 忍先生
不妊治療において西洋医学と中医学は切り離されて考えられることが多かったのですが、少しずつ漢方相談の開設をご依頼いただくことが増えてきました。その中で私たちは西洋医学と共存し、いかに漢方で治療に貢献できるかに重きを置き、医師・患者・漢方薬剤師のチーム医療を目指して治療に取り組んでいます。
働く女性が増え、不妊治療を開始する年齢が高くなっている背景もあり、患者さんの中にはホルモンバランスを崩していたり、不調を抱える人が少なくありません。体が本来の状態でないまま卵巣を刺激しても卵胞が育たなかったり、ホルモン値が上がらなかったりと効果的に治療が行えないため、漢方を用いて体全体の機能を正常に戻すなど、治療に反応できる体づくりが大事になります。漢方を使って卵子の質が上がるとか妊娠するという直接的な効果はありません。不調をきたしていた体を整えることで治療の効率を上げ、妊娠に近づくためのサポートをする、というのが不妊治療における漢方の役割です。
38歳以降で不妊治療を始めるとしたら、スムーズにいかないことの方が多いです。そんなときは自分を労ることに力を注いで、心も体も消耗することを避けて過ごしてください。
また医師も看護師も漢方薬剤師も味方だと思って遠慮なく利用してほしいです。特に医師ほど知識を持っている人はいないから、どんどん情報を引き出してください。みんなでチームになって治療を進める方が効率よく取り組めます。
残念なことに「たまたま妊娠する年齢」は過ぎています。自分の人生を計画的にデザインする中での不妊治療としてプラスに受け入れ、大人だからこその情報収集力や情報を見極める力をフル動員して、賢く治療に向き合ってください。
★ 自分の体に起きる現象を理解し、 治療に取り組むことが大切です
教えてくれたのは…浅田義正先生
当院にも「妊娠しない原因を探ってほしい」と来られる患者さんが多くいますが、不妊の原因は不明なことがほとんど<。ただ、高齢になるにつれて妊娠しにくくなる原因のほとんどは、卵子の老化です。
卵子は女性がお母さんのお腹にいる段階で1回だけ作られる細胞で、それを抱えて産まれます。それ以降は二度と作られません。年齢を重ねるごとに卵子も老化します。当然数も減少し、産まれる前は500~700万だったものが、産まれた時点で200万、初潮を迎えて30万と、毎月約1千個は減り続けます。
35歳くらいから卵子の老化も顕著になり、結果妊娠率が低下します。体外受精で妊娠を目指すとなると、ひとりの赤ちゃんを産むためには、38〜39歳で20個以上の卵子、40代では70個以上、45歳になると100個以上が必要。だから治療を始めるなら一日でも早い方が望ましく、正しい卵巣刺激を行い、一度の採卵で効率よく多くの卵子を回収することが重要になります。
また、2019年12月から条件付きで着床前診断の臨床研究が始まりました。これまでは見た目で受精卵の良し悪しを判断していたのに対し、染色体異常の有無で移植する受精卵を判断できるようになったのは大きな進歩と言えます。
これから不妊治療を考えている人に伝えたいのは、人生設計全体の中で治療を正しく位置付けてほしいということ。自分や両親の年齢を踏まえ、どのタイミングで産めると自分たちも子どももハッピーでいられるかを考え、治療に向き合ってもらいたい。
「不妊治療に時間をかけることなく、早く子育てに入ってほしい」というのが私の考え。そのためには結果にこだわった病院選びが大切です。不妊治療は病院によって治療に大きな違いがあるので、結果が出ないなら一つの病院にとどまらず、他の病院にも目を向けて。できるだけ早く結果を出し、多くの時間を子育てに使えるよう、お手伝いしたいと思っています。
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撮影/前 康輔 ヘア・メーク/末光陽子 スタイリスト/佐藤友美 取材/坂本結香 ※情報は2021年7月号掲載時のものです。