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「面白い、先が気になる、やめられない」のまさにエンターテインメントな1冊|大久保佳代子のあけすけ書評

読み始めてすぐ小説の世界にグイッと引き込んでくれる

「面白い、先が気になる、やめられない」のまさにエンターテインメントな1冊です。

桐野夏生さんの作品は、今まで『アウト』『東京島』などを読んでて、薄気味悪さが漂う世界観が私好みで。読み始めて「面白い」と感じ波に乗るまでがとにかく早い。たまに、この展開ちょっと強引かなと思ったりもするのですが、そのすぐ矢先、その気持ちに蓋をされてしまうような新たな展開が待っているので引っかかる隙がなくて。心を摑まれたまま、加速度を増しながらぐいぐいとラストまで連れて行ってくれます。まずまずな長編ですが最後まで一気に読み切れました。

主人公は、特に取り柄がないことにコンプレックスを抱きながら無為な生活を送っている青年・八目晃。晃には、高校時代、美しく聡明な野々宮空知という男友達が。

カリスマ性を持つ空知の友達だったというちっぽけな栄光にすがって生きてきた晃が、空知の父の葬式に行ったことによって始まるカンボジアへの旅。カンボジアで消息を絶ったという空知と彼の美しい姉妹2人を探すための初海外、初一人旅。飛び込んだ異国の地でこれでもかとトラブルに巻き込まれながら空知とその姉妹を探すのですが、カンボジアの日常の描写が非常にリアルで自分自身が旅をしている感覚に。

アジアの国特有の亜熱帯のムッとした空気、車がガンガン走って土埃が舞い、どこからともなく漂うスパイスや熟れたフルーツが混じったような匂い。1泊3ドルのドミトリーの横に住むカンボジア人の婆ちゃんが作ってくれる青唐辛子粥、餅米のデザートも美味しそうで。最初はヘタレで他力本願、無防備・無鉄砲だった晃が敵か味方かも分からない人々に揉まれながらたくましく成長していく姿に、いつの間にやら心配し応援してしまうように。

空知とその姉妹の壮絶な過去が明らかになると共に迎えたラストは、かなり衝撃的です。晃と空知の友情の形は、究極で残酷ではあるけれど、ある意味、なんだかおとぎ話のような綺麗さも感じてしまい。この結末を選択したことで、やっと晃は空知から開放され自分だけの人生がスタートできるような気がします。

私も中学生の頃、みんなから一目置かれるマドンナ的な女子になぜか気に入られ親友のような関係なったことがあります。当時は「この子に嫌われたら終わりだ。見放されたらどうしよう」とヒヤヒヤし顔色を伺って生きていました。彼女から離れて、やっと自分と向き合えるようになったのを思い出しました。晃は空知に「おまえのために死んでもいい」と。そんな友達、人生で1人でも出会えたら、それはそれで幸せなのかもしれません。

海外へ行けない今だからこそ、その異国情緒を味わいつつ、リアルとフィクションの塩梅が絶妙な世界でハラハラドキドキする擬似体験を楽しんでみるのはいかがでしょうか。久しぶりに、本来の読書の楽しさを感じられる一冊です。

『インドラネット』 桐野夏生著 角川書店 ¥1,980 パッとしない青年が高校時代、唯一自分を認めてくれる親友を持ってひょんなことからカンボジアへ行くことに。そこから繰り広げられる奇想天外なストーリーが読書意欲に火をつけてくれる、非日常を味わえる至極の1 冊。詳細はこちら(amazon)


おおくぼかよこ/’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。

撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2021年9月号掲載時のものです。

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