「実は楽しい中学受験」シリーズ、様々な角度から中学受験を語っております。
その中の第17回と第23回で「志望校の生徒さんに話しかけてみよう」ということをお話しました。
その学校が本当はどういう場所なのかは現役の生徒さんが知っている。生徒さんが学校そのものと言っても過言ではないくらいなので、思い切って、彼らに話しかけてみましょうというような内容でした。
「もちろん、節度とTPOは守ってね」という条件付きであるのは言うまでもないのですが、つい最近、ある人気校の先生から、このようなことを教えていただきました。
「今年の4月から、個別の学校見学者を100組ほど、ご案内しています。もちろん、本校の様子を知っていただきたいので、休み時間に生徒と対話をしていただき、そのことによって『学校の色や匂い』を直に感じてほしいと思っています。しかしながら、意に反して、生徒の気持ちなど全く考えない『浅はかな質問』をしてくる受験生保護者がおられることもまた事実なのです」
中学生に直接聞く「浅はかな質問」とはどういう問いかけだと思われますか。
「部活は何に入っていますか?」
「宿題は沢山、出ますか?」
「校則は厳しいですか?」
このような部活を含めた学校生活のことは受験生保護者としては知りたい事柄ですので、聞いてみても良いかと思います。
各校の先生方に伺うと、登校にかかる時間や、どの地域から通学しているのかということを生徒さんに直接、ご質問なさる方も意外と沢山おられるのだそうです。
ある学校で、たまたま校門前のマンションに住んでいる生徒さんにこの質問をなさった受験生保護者の方がいました。
「1分?頑張れば30秒です」との答えにショックを受け、志望校から外したそうです。
その保護者の方がおっしゃるに「なんか勝てそうもなかったから」という理由でしたが、
登校にかかる時間は何分が適切だと判断されてのことだったのか、未だに謎です(笑)
このご質問は、生徒さんにわざわざ聞かずとも、大抵の学校はHPないしはパンフレットに明記しておりますので、生徒さんの口から聞きたいという方々の調査目的はいまひとつ不明ではありますが、こちらは許容範囲の質問と言えるでしょう。
同じような質問に「朝は、何時に起きて学校へ行くの?」というものも、結構な頻度であるそうです。こちらも生徒さんによって大きく違うような気がするのですが、まあ、いいでしょう。
更に「受験勉強は、何時間くらいやってたの?」という質問も多いと聞いております。
こちらNGな質問ではありませんが、微妙だなぁと思わないでもないです。
もし私が生徒さんに「長期休み中は毎日14時間程度です」と言われたら「ええーー!?そんなにウチの子、やってない!(もうダメだ)」と挫けそうですし、「いえ、全然やってません。せいぜい1時間です」と言われたら、それはそれで「ええーー!?それで大丈夫な地頭良し子が通う学校なのね!?(もうダメだ)」と挫けそう・・・。
気になるお気持ちは分かるのですが、朝の支度にかかる時間や勉強時間を在校生と比べて、一喜一憂、あるいは平均値を調査して安心するのも、もったいないかなって思っています。
冒頭の先生が憤ったというご質問はこちらです。
「他にどこを受けたの?」
「ココの他に何校受けたの?」
中学受験は過酷なので、今や第1志望校には5人にひとりしか入学できないと言われるほどの激戦なのです。
御三家クラスの学校でない限りは、多くの子どもたちが「頑張ってきたのに叶わなかった」という経験をして、新たなステージに進んでいます。
壮絶な戦いを経て来た子の方が多いのです。何年経っても、その傷が癒えていない子もいます。
大人同士の会話で、通りすがりの人に対して「あなた、どこの学校ご出身?併願校はどこ?」という質問をする人はまずいないと思います。
それほど、センシティブな問いかけだということを分かって頂きたいです。
相手が子どもだからといって、何でも聞いていいということにはなりません。
併願校をお知りになりたいのでしたら、学校がきちんと把握していますので、どうぞ生徒さんに聞かずに、学校に問い合わせをしてください。
この話を教えて下さった先生は「自分の子どもがされたら、どう思うだろう?という気持ちになって欲しかった・・・」と悲しそうでしたが、すぐに「でも、生徒の答えを聞いて、『ウチの子たちは、やっぱりすごい!』と思いましたよ」と安心したような笑顔をくれました。
中3の生徒さんだったらしいのですが、彼らの答えがこれです。
「ここの他に第一志望である大学付属校を1校受けました。
でも、この学校に入学できて良かったです。何故なら、もっと勉強して上のコースに行こうという目標ができたからです!日曜日は2時間くらい勉強をしようと思って始めるんですが、時間を忘れて課題に取り組んでいることもよくあります」
「私は3校受けました。第1志望は不合格でしたが、ここは居心地が良いせいか、高校からはもっと頑張れそうな気がして。しかも毎日が楽しいので、学校生活は充実しています」
受験生の親御さんに不安があることは学校側も承知していますが、生徒を守る立場の先生方としては心ない質問に胸を痛めることは当然でしょう。
やはり相手の身になって、お邪魔させて頂いているという気持ちは必要です。
質問をなさることはとても良いことだと思っておりますが、せっかくの学校見学です。その学び舎ではどんなワクワクがあるのかということを聞かせてもらえるチャンス。
是非、答える側が喜んで答えたくなるような質問をしてくださいね。
鳥居りんこ・・・作家、教育・介護ジャーナリスト
2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。
その後シリーズ化され、悩める保護者から“中学受験のバイブル”と評され、中学受験を辛かった思い出ではなく、子どもとの絆を感じられ、子育てが楽しくなる内容に、心救われ涙する保護者が続出しました。
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構成/加藤景子 イラスト/村澤綾香