男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
【男の子の育て方 対談連載vol.1】「うちの子が競争社会で勝ち抜けなかったらどうするの?」が問題です
【男の子の育て方 対談連載vol.3】「あなたは暴力の定義を更新していますか?」
田中さん(以下敬称略) 1回目に<女らしさ><男らしさ>の話しをしましたが……うちの子どもは昭和時代なアニメが好きなので『ちびまる子ちゃん』からの流れで、『サザエさん』を絶対見るんです。「母さん、新聞」とフネさんに声をかける波平さんの様子を見て、私は長男に「新聞ぐらい自分で取ってくればいいのにね」と言うと、子どもは「そうだよね」って、納得する。そのぐらいから変えていくのでもいいと思います。社会全体を変えるには大変なパワーが必要ですから、小さなことから始めないと。
『サザエさん』を反面教師として使うことで、親は介入できます。よく<テレビの影響があったらどうしよう……>とか言いますが、逆にそういうことからやっていけばいいと思います。
太田さん(以下敬称略) 未だに、マスオさんと波平さんに対して、フネさんとサザエさんがご飯を作って、出しているんですよね。
田中 先日はノリスケさんが若い頃の話で「ノリスケはだらしないから早く結婚したほうがいいね」と言われていました。やっぱり夫婦になることで女性にお世話をしてもらうんだな、って。令和3年でもその話しですから(笑)。そんな内容ばかりなので、ある種、面白いですよね。
ジェンダーの話しに対して何から始めていいかわからない人は、そういうことをきっかけにして「今どきこれは通じないよね」とか「お料理ぐらい自分でしてもいいんじゃないかな。どう思う?」という具合に、子どもと会話するのがいいと思います。
一応フォローもしておくと、カツオくんが思いかけず少女漫画にはまったことを恥ずかしがって隠すというお話があったのですが、バレた際に波平が「面白いものに男も女もないぞ」と言うシーンがあって、『サザエさん』でもジェンダーを意識している回もたまにあります。
アニメやマンガをきっかけに、子どもと一緒に話し合う
太田 実は講演会で、とてもよく受ける質問が“夫や親族など、マッチョな振る舞いをする大人について、子どもにはどう声がけをしたらいい?”ということなんです。ジェンダーバイアスのかかった表現に出くわした時、子どもにどう伝えたらいいのかと。私は、アニメやマンガは気になる描写があるようなものでも禁止はしていません。たとえば、マンガで男の子が“お風呂場が覗けてラッキー! ウホーッ!(目がハート)”のようなギャグシーンがよくありますが、そういう時には「あのマンガはすごく面白いと思ってるし、読むのも禁止してないし、いいところがいっぱいあると思うよ。だけど、こういうことが本当にあったとしたら女の人にはとても失礼だし、やってはいけないこと。それをギャグだからといって描く大人のことをママが怒っているのはわかるよね?」という話を子どもに延々とします。
実例を交えて、こういうふうに話をしていますと言うと、講演会でもzoomでも、みなさんうなづいています。具体的な言い回しの例を知りたかった! という方がとても多いです。私自身も、他の人たちがどういうふうに子どもを話しているのかが知りたいです。見るのを禁止なんて非現実的ですし、見たうえでどう批判的に読解する力をつけさせられるかが大事だと思うので。
ジェンダーバイアスがある社会でも工夫はできるはずなので、子どもと一緒に身につけていけばいいと思います。
田中 僕も太田先生の意見に賛成です。結論の押し付けはしない。率直に「自分はこう思う」ということを伝えたらどうかと。そうすれば大事なことは自分で考えるようになります。
むしろ“子どもがこんな考えを持つようになったらどうしよう”ということを親が考えること自体、あまり良くないと思っています。どういう思想を持つか、親のコントロールの下に子どもがいるのではない。思春期になって自我が芽生えて独立していくわけです。親が‟自分の思い通りにいかなかった……がっかり”ではマズイ。自分の考えを伝えて、子どもがどう受け止めるか、です。
今、ネットで何もかも見ることができてしまうのは問題だと思います。無修正のアダルトコンテンツもスマホでも見れてしまう。ですが、その時に「ママ・パパはこう思う」と言うことこそ大事なのです。
親が子ども部屋を捜索するようなことはNG
田中 ところで、太田先生の家では、子ども部屋に鍵はありますか?
「鍵をつけると悪いことをするから」と言っていて嫌がる親もいるらしく。
でも、僕は大反対なんです。
鍵がかからないとなると、子どもは“親にバレないように、どうしようか”となるので、以前よりいろいろなものを見えなくしていくだけじゃないか、と。それなら鍵だけで済んだほうがいいと僕は思っています。
太田 うちはマンションで、長男の部屋には鍵がついていたのですが、兄弟げんかで鍵をかけたドアをガチャガチャと引っ張りあっていたのを見かねた私が「壊れる!」と物凄く怒りまして、本当に壊れそうだったので、その前に外そうということになって、外しちゃいました(笑)。
でも、これから家を作るとしたらどうするかといえば、鍵はつけると思いますね。プライバシーはほしいと思うので。プライバシーへの配慮という意味で、普段、鍵がなくてもノックはするようにしています。勉強しているかどうかは気になりますが、息子の部屋をチェックしようと発想はないですね。
田中 僕が子どもの頃、母親は基本的に家にいたのですが、意味もなく部屋に入ってきたり、部屋を捜索した跡があったりして、とても嫌でした。そういうこと自体がナシだと思います。いつまでも自分がコントロールできる範囲内にいてほしいということですから。
結局、子どもはそこから飛び出していくものですよね。
取材/東理恵、奥村千草
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と1歳男児の父。