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【男の子の育て方 対談連載vol.3】「あなたは暴力の定義を更新していますか?」

太田さん(以下敬称略) 子育てのうえで、親が〈過ちを積極的に認める〉〈過ちの認め方を見せる〉というのが大事だと思っています。
私は親ですから、子どもから見れば当然「強者」。ですが、「強者」であっても間違うということを隠さずその間違い方を見せるということ。「間違ってない!」と言い張るのではなく、「さっきママはこういうふうに言ったけど、少しイライラしていて言い方を間違えました。すみません」とか、「思い込みがあって間違っていました。いま調べたらこうだったから訂正します。ごめんなさい」など、理由も言います。間違っていたことを認めるやり方のモデルを大人が示す必要があるのでは。「強いということは間違わないということとイコールではない、間違ったことを認められることも強さの要素だ」みたいなことをささやかな日常の実践で伝えられないかなと思います。
過ちを認めたり謝るということは自分の何かを弱くする、みたいな思い込みがあって、自分の過ちとか弱さを認められない人が多い気がします。モデルがないと適切なアップデートの仕方ができないのか、あるいは、やはり若干、「男らしさ」への過剰なこだわりのようなものが関係しているのか……。

田中さん(以下敬称略) 以前「金メダルは噛んだけど、歯型はついてない!」とか言う人もいましたけど、過ちを認めたら死んじゃうの? ぐらいでしたよね。

太田 過ちの認め方を一度も学んでこなかったのかしら……。間違ってはいけない、間違ったら死ぬ、みたいな……。

田中 特に年配の男性には、謝ることができない人は多いですね。これまでの男社会の中で、謝ったら実質的に負け、過ちを認めないほうがゴリ押しで上に上がっていける――そんなワザが通用していたような気がします。本来は逆で、立場が上になればなるほど責任が重くなるので、過ちを認められるようにならないといけないんですけど……。そうなっていかない男社会の構造があります。女性も同等の立場で働く社会、外国人の方もセクシャルマイノリティの方もいる社会の中では、急速に通用しなくなってくるやり方ですよね。

太田 かえって脆弱なんですよね。

田中 「男の子は競争して勝たないと!」「社会的な成功しないと!」といった教育モデルに親が固執するのは、もはやマズいと思います。

「謝る」ことは弱くない。むしろ強い!

太田 私も日々、子育ては失敗だらけですけど、うちの男の子たちは「謝る」んです。ほんとに素直に謝るので、段々内心「あとで謝れば悪いことしていいと思ってないか?」と複雑になることもあるほどですが(笑)ともかく、「さっき自分は悪いことをしました」と認めることができているのはいいことだと思っています。

一方で、離婚裁判やハラスメント事案は、謝れない男性たちだらけです。
セクハラをしたと訴えられた裁判で負けたら、それまで非を認めていなくても「裁判で負けたということは、俺は悪いことをしたということだったのか」と神妙な面持ちになるのかというと、そういう人を見たことがないです。離婚したくないと主張しても離婚判決が出たら「そうか、妻がそこまで自分のことを精神的DVというのに納得していなかったが離婚しろという判決まで出るなら認めざるを得ない」とかにはほぼならないです。
「セクハラしてない! 不当な判決だ」「妻が弁護士に洗脳されて離婚と言い出し裁判所まで巻き込んで自分は加害者に仕立て上げられた」「妻は自分のことを誤解している、弁護士が間に入るからうまく伝わらないんだ、妻と直接話をさせろ」というような思考回路になってしまう人をよく見ます」。
そのこじれ方、今は慣れましたが、初めはびっくりしましたね。裁判では勝っているので勝ちなのですが、しかし相手のこじれた認識と行動がここまで変わらないというのは、社会的事象としては「解決」といえるのだろうかと考え込んだり。そんなことばっかりでした。

田中 以前は、おじさん連中をどう変えるか、うちの夫をどう変えるか、でしたが、結局そこにはあまり希望が持てないので、次世代に変えていこう! という話が多いのだと思いますね。
変わろうとしている、そして、実際に変わり始めている中高年男性もいるわけで、もちろん頭ごなしに彼らを否定するつもりはありませんが、次世代をどうするかというのは、考える価値のあるテーマです。謝るということは、弱さではないいうこと。それを弱いと思う文化は、変えていかなきゃいけない。単純にそう思います。

太田 強いことは悪いことではありませんが、その偏った強さイメージをやめようということです。むしろ‟過ちを認められる強さ”のような「強さの内実」をアップデートしないと。

犯罪件数は、世の中としては減っている。でも「言葉」の暴力に注意して

太田 犯罪白書を見ると、刑法犯の件数自体は相当減っているんですよね。ですが、今の法律で犯罪に当たるわけではないけれど、粗暴な言葉遣いや威圧的な態度で人間関係を支配、コントロールしようとする言動というのはあって、日常的な業務ではその問題を感じることはとても多いです。

田中 暴力」を、もっと広く定義しないといけないというのが今の認識ですよね。例えば、暴走族と呼ばれる人たちは昔に比べると劇的に数が減っていて、目が合っただけでぶん殴るみたいな人だってあまりいない。ですが、経済的なDVとか精神的なDVとか、暴力はそれだけじゃないところが問題。鈍感な男性は、アイドルに恋愛禁止とか平気で言っちゃう。女性にだけ貞淑さを求めて、男性は性に奔放であっても良いなんてことはないわけで、そうした考え自体が暴力だと僕は思います。

太田 ホントそうです。配偶者間暴力において、体感では身体的DVは多分減ってると思います。以前はもっと露骨にあざや骨折ができるような事案を多く受けていました。
でもDVが減ったわけではなくて、精神的DVや性的DV、経済的DVが本当にたくさんあって。それを暴力だと思ってないとして人たちが、リアルでもオンラインでも暴れています。精神的な暴力でも人は相当強いダメージを受けますよね。
2002年に施行されたDV防止法における「暴力」の定義は、当初は身体的暴力に限定されていましたが、その後2005年の改正で「身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」が入りました。精神的暴力や性的暴力、経済的暴力も本当に深刻なのですが、殴る蹴るなどわかりやすい身体的暴力に比べると“夫婦喧嘩は犬も食わない”“お互い様”みたいに見られてしまうこともある。それを「暴力」として見なければならないという機運ができている、というのが今の時代ですよね。

田中 統計は数え方の問題なので、犯罪が増えた減ったという話は、あまり意味はなくて。
’90年代に自転車を盗んだ人をたくさん捕まえて、若者の犯罪が増えたと言っていましたが、それをどう捉えるかの問題。暴力の定義をもっと広く捉えた#Metooの存在は、とても大きかったと思います。
今までは「普通の男女の関係じゃん」と男が思っていたことに「異議があります!」と言われたわけですからね。何がハラスメントか、何が暴力か”ということ自体が、今、急速に変わってきてると思います。

太田 その新しい定義を男の子たちにこれからどんどん広めていくべきです。もちろん女の子たちにもですけどね。大人がアップデートしなきゃいけないと同時に、子どもにも「こういうことがオッケーじゃないよ」と。
被害を受ける側にも、それが暴力だとわかってないことがあります。
言葉だって暴力です。属性を問わず、誰にでも暴力を与えたり、受けたりする可能性があるかも知れない。
いじめについて子どもに教える機会はあると思うんですが、言葉の暴力やハラスメントなども教えられる機会があればいいと思います。

田中 ジャーナリストのエマ・ブラウンが『男子という闇 少年をいかに性暴力から守るか』(原題:To Raise a Boy)の中で、男の子たちの体も尊厳と敬意を持って扱われるべきで、そうした経験があれば、他人の体に対して尊厳と敬意を感じられるようになるのではないかと問題提起しています。性別や性的指向を問わず、誰もが自分、そして、他人の体を大切に思える世の中にしていきたいですね。

 

取材/東理恵、奥村千草

太田啓子
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。
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