男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。
【男の子の育て方 対談連載vol.1】「うちの子が競争社会で勝ち抜けなかったらどうするの?」が問題です
【男の子の育て方 対談連載vol.2】「子ども部屋に鍵は必要?」
田中さん(以下敬称略) 前回から「男の子の性」が、ちょっと雑に扱われてるという問題を話しましたが、性の問題以外にもさまざまなことがあって、例えば、うちの子は二人とも男の子なんですが、寝グセを直すのが嫌いなんです。
太田 寝グセが嫌いなのではなく、寝グセを直すのが嫌いなんですか?
田中 そうなんです。寝グセ直しのスプレーをかけていい? と言うと嫌がるんですよね。
だから、そのまま保育園に行かせてしまうんですが、寝グセそのままで来ている女の子は、ほとんどいません。まあ、男の子だからそれでもいい、みたいに親も思ってしまう。
そういった雑なことをいろいろと地続きにやっている中で、たぶん性の問題も起きてくるんですよね。
今の社会では、やっぱり男は乱暴で、不真面目で、大雑把だ、と批判するけれども、僕ら大人たちが、男の子はそもそもそういうものなのだから、彼ら自体を乱暴、不真面目、大雑把に扱っちゃってもいいと思ってしまっています。
それを一度しっかりと問い直さなければいけないと思います。
太田 私の中にもあるジェンダーバイアスが、まさにそこなんです。
良くないと自覚していても〈あっ、私、やっちゃったな。息子に、適当でいいか男の子だし、という対応をしてしまった〉と思うことがあって……。
『これからの男の子たちへ』を出版したあとに、いろんなインタビューをさせて頂く機会があったのですが、息子と普段どんな話をしているかという雑談の中で「親が一所懸命話してるつもりでも、息子は途中で話に飽きちゃって、鼻をほじりながらどっか行っちゃうんですよ(笑)」などと言ってしまったりします。すぐ自分で思ったのですが、もしこれが娘だったら「鼻ほじってた」は言わないだろうな、と。
娘だと配慮して言わないであげるところを、息子だと面白いネタにしちゃう。
だから私の中にも、嫌なことなんだけど、やっぱりまだジェンダーバイアスが残っています。子どもの頃からあるんです。男の子は乱暴で、粗雑で、デリカシーがない存在、というような思い込みが。実際にはそうではないことは知っています。でも自分の中の、いつの間にか刷り込まれたそういうバイアスにふとしたときに気づくことがある。
実際、子どもの頃にあった話なのですが、私の弟が近所の男の子に「ピアノなんか習うの? 似合わない」とひどい言い方で言ってしまい、その子のお母さんにあとから怒られたことがありました。
幼馴染で今でも仲のいい関係なんですけど、あのときは怒られて良かったと思っています。
男の子に乱暴にいじめられたことがなかったわけではないですが、そういうリアルな体験よりも、いろんな刷り込みによってジェンダーバイアスが培われたという気がします。〈男の子って、そういうものだ〉という。社会全体にありますよね。
田中 ありますね。
太田 そういう価値観が小さい時に入っちゃうと、大人になって、親になっても残ってしまいます。
繊細に扱うことを求めている男の子や、乱暴な扱いに傷つく男の子に対して、「女の子でもないのに」とか「しっかりしなさい!」とか、あるいは言葉にしなくてもどこかで〈男の子なんだから……〉という感覚が結構あります。大人が自覚していなくても、社会全体が男の子をそう扱っている感じです。
年齢なんて関係ない! 女性が男風呂を掃除するのはおかしい!
田中 スーパー銭湯で女性が男性風呂の掃除をしていることがあって、以前から気になっていたのですが、たまたま僕の授業を受けている学生がアルバイトをしていたので理由を尋ねたことがあります。
そうしたらわざわざ店長に聞いてきてくれて、「スーパー銭湯は、料金を安くしなきゃいけないから従業員はほとんどパートです。パートだと近所の主婦たちが基本的に働いてます。だから、人数が足りないので女の人が、男子の浴場も清掃もせざるをえず」と。店長さんとしては、安いんだから仕方がないだろ、それが嫌ならもっと高級な店に行け、みたいな話に捉えちゃったみたいなんです。
でも、これって、いろんな問題がありますよね。まず、家事・育児の負担から、近所でしか働けないという女性たち。実際にスーパー銭湯で働いている女性に学生が聞いたところ、男性のお風呂を掃除するのは嫌だという人もいるんです。男の人の裸の所へいくわけですから、当たり前ですよね。
嫌だけど家の近所では他に選択肢がないから、そういう目に合わせられてもそこで働くしかないんです。しかも、男性風呂の掃除は20代の女性にはやらせないらしいんですよ。
太田 すごくわかる! 「おばさんだったらいいだろう」ということですよね。
「若い子だとセクハラされるけど、おばさんならセクハラなんてされないからいいだろう」という誤った思い込みがみえるし、しかも30過ぎればおばさんだからという発想ですね……何重にも問題があります。
実際には高年齢でも性的被害に遭うのに、「歳のいった女性は性的対象じゃない」という決めつけがある。
田中 そうです。だからこの問題には本当にいろんな女性差別の要素が複合的に入ってるんです。女性の賃金労働の問題もある。トイレの清掃にしても一緒だと思うんですよね。
たぶん、なり手は女性のほうが多いから、どうしてもやらざるを得ないところもあるし。
たまたま男性の清掃員がいても、男性には当然女性のお風呂やトイレを洗わせないじゃないですか。
男性の裸は映していいのか? 笑いにしていいのか?
太田 そうですよ。昔から私は、旅番組で温泉紹介をする場面が気になるんです。
温泉紹介の時に、男性のからだが際どいところまで映されてます。
さすがに性器までは映さないけれども、背後からお尻はそのまま映す。洗い場とかにいるおじいちゃんのお尻とか、平気で映ってますよね。「これ、いいの?」と思ってしまいます。
女風呂ではそういうことはしないわけですが、男風呂だったらいいのでしょうか。
そういう男性の性的プライバシーを粗雑に扱うことを許容する発想は、男の子の尊厳を大事に育てようとする発想ととても相性が悪いのではないかと。
〈これって、おかしいよな〉と思っていても、「自分は気にしてる」と言うと「気にしすぎだ」とか言われてしまう。そのままずっと葛藤を抱えながら生きていくことはしんどいから、葛藤を感じないようにするために、性的プライバシーの侵害に傷つく感覚をある程度自分で麻痺させてやりすごしている人も少なくないのでは。そういうことは、〈社会でこういうことになっている、ということに適応しなくては〉というふうに、無自覚なことが多いんじゃないかと思いますね。
それが本当にいいことなのかどうか。
そういう問いかけをされることは、そんなにないと思うんですけど、実際に聞いてみたら「実はヤダ!」という人が案外いるかも知れません。
田中 子どもと『仮面ライダー』の映画を観に行ったら、お風呂から出てきた男の人が腰にタオルを巻いていて、それがポロっと落ちて、女の人が見てキャー!、みたいなギャグシーンがあったんです。男の裸がギャグに使われるということが、僕としてはすごく嫌で。
太田さんも以前、『ワンピース』で男の子の目がハートになる性的なシーンを「ママはイヤだ」とお話しされていました。女の人のバスタオルがポロっと落ちるシーンがあったら、わ~ラッキー! みたいな話とは全く逆で、僕は男の性器を笑いに使う表現が気になっています。
取材/東 理恵
弁護士。中1と小4男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわるSNS投稿が反響を呼ぶ。昨年出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。
田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では5歳と2歳男児の父。