第11回は思春期とルッキズムについて伺いました。
尾木ママ’sAnswer
典型的な思春期のお悩みですね。でも、男の子のお悩みっていうのが今時ね。
思春期の子が自分の容姿を気にするというのは、昔からある、成長の過程で特徴的に見られる現象です。しかし、近年ではSNSの発達の影響もあり、エスカレートして極端なダイエットによる摂食障害や心身の不調などの問題を生んでいます。
容姿や身体的な特徴により人を判断することをルッキズムと言いますが、昨今のこのような現状は、思春期の特性とSNS、そしてルッキズムの風潮が結びつき強まった結果とも言えるでしょう。
―思春期は「他人から見た自分」を意識し始める時期
思春期になると、男女ともに第二次性徴期に入り、男子はがっしりした体つきに、女子は丸みを帯びてくるなど、まずは体の変化が始まります。それに並行して精通現象や生理などの性的な変化もあらわれ、外見上も、内面上も自分自身について見つめるようになります。顔の大きさ、背の高さ低さ、肌の色やニキビなど、外見的に人と違うところが気になって、自分を人と比較してコンプレックスを感じるようにもなります。これは自分を客観視するようになってきたという思春期の成長の一つで、程度の差こそあれ、誰もが成長過程で通る道です。
同時に、異性や他者を意識するようになり身なりを気にしたり、オシャレに目覚めたりします。お悩みの息子さんの様子も、高校生らしくて微笑ましいですね。
ただ、現代はSNSが発達し、色々なことが可視化できる時代です。極端に「盛る」(※よく見せるため修正や加工をすること)など加工された容姿の画像や投稿を日常的に目にすることで、自分のありのままの容姿や外見を“否定”し、美化された自分のイメージを追求するあまり、その作られた自己イメージに慣れてしまっているかもしれません。
さらに、デジタル上の修正や加工に抵抗がなくなった結果、過度なダイエットや美容医療などで姿形を変えることにも抵抗がなくなる傾向があるようにも思えます。子どもの15歳の誕生日にプチ整形代をプレゼントするというご家庭のお話も聞きましたが、子どもだけの問題ではないかもしれませんね。
今の時代は美の基準やジェンダーの価値観も多様化し、スキンケアや脱毛、整形も女子だけでなく男子がしてもおかしくない風潮もありますし、それ自体は否定されるべきではないでしょう。でも、SNSの発達で自己イメージが歪んだり、同調圧力を感じてしまう子どもが多いことには不安を覚えますね。
―SNS、自撮りで歪む、自己イメージ
これまでテレビなどのメディアは、女性はスリムで色白がいい、などといった偏った固定された価値観を発信し続けてきました。このことが私たち、とくに若者や子どもへ与える影響の大きさは甚大なものがあります。
加えて近年では、SNSの影響が非常に大きくなっています。イギリスのバーミンガム大学が13歳~18歳の中高生対象に行った調査で「自撮りが思春期の子どもの成長を阻害する」ということも明らかになっています。
同級生や同年代の子がSNS上にアップする自撮り写真から「ピア・プレッシャ―」(同調圧力)を感じ、自分の容姿を人と比較して劣等感を感じ、46%の10代の若者が同級生らの自撮り写真を見たことをきっかけに、ダイエットのための食事制限や運動等を試みていたことがわかっています。
思春期は、アイデンティティ(自我同一性)の発達途上にあります。アイデンティティとは、自分が自分であるという感覚のこと。そのため、他者の目がことさらに気になったり、反対に自己中心的になったりします。人は気にしていないのに、みんなは自分のニキビを見ているんじゃないかと気に病むなどは、思春期のこの特性が背景にあります。
このような“自意識が過剰”で不安定な思春期特有の心理と相まって、自撮りやSNS上の同級生、同年代の子の加工された写真に気を取られ、エスカレートするとダイエットや摂食障害等の引き金になる危険さえあるのです。
日本だけでなく、海外でも同様の問題が起こっているようです。
イギリス・アイルランドの2015年の調査では、摂食障害になる子どもが5年間で30%も増加し、醜形恐怖症になり自殺をしてしまう子も増えたことで社会問題にもなりました。
ノルウェーでは人物の体形やサイズ、肌の色などが加工されている広告にはラベル付けを義務化する法案が可決されています。
―背景にある、日本の子どもの自己肯定感の低さ
摂食障害や自己イメージのゆがみなどの問題は、日本だけに限ったことではありませんが、日本には、自己肯定感の低さや、多様性を受け容れにくいという特有の文化的な背景があるようです。2018年に7カ国(日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデン)の13歳~29歳を対象に行った内閣府の調査によると、自分の容姿に誇りを持っている日本の若者はわずか6%で7カ国の中で最も少なく、反対に自信を持っていない若者が25.7%で7カ国の中で最も多く、4人に1人は自信がないという結果が出ています。
―親としてできること
では、親として子どもにどんな働きかけをしたらいいでしょうか。「人は見かけじゃない、中身を磨きなさい。」と言っても、通じないですよね。それは子どももわかっていますから。ただ、親から見て、外見を気にし過ぎて心身に不調をきたしたり追い詰められたりしてはいないか、とらえ方が歪んでいないかなど、注意深く見ながら、思春期の成長と発達の特性を踏まえつつ、本人の気持ちも尊重して、気にし過ぎないようにアドバイスをしてあげてください。
また、前提として、子どもにはありのままの自分について、プラスのイメージを持てるような声かけをして、自己肯定感を高める土台を作ってあげることが大切です。そうすることで、自分自身でもありのままの自分へのプラスのイメージを持つことができ、他人の目や言葉も跳ね返すことができます。
また、親が日常的に親自身の容姿についてマイナスな発言をしていると、子どもも無意識のうちに自分をありのままに受け入れる感覚が育たなくなる危険性もありますから、親も気をつける必要がありますね。
ところで、僕は最近気になっているんですが、お笑い芸人さんの影響などもあるかもしれませんが、自分の容姿を貶めることで自ら笑いを取りにいく、いわゆる「自虐」をする子どもが増えているように思います。人を傷つけて笑いを取るのは良くないけれど、自分を傷つけて笑いを取るのならいいんじゃない?って思っているのではないかしら。自虐が癖になっている子には、是非、自分をばかにすることは、自分の品格を傷つけることで、あなたを愛している私(=親)を傷つけることにもなるんだよ。ありのままの自分を大切にしてほしいと話してみてください。
ルッキズムという問題がある一方で、多様性を大事にする世の中の流れもあり、悪い方にばかり進んでいるわけではありません。ありのままのすばらしさを親が子どもたちにきちんと伝えていくことで、容姿の偏見に対しての意識も少しずつ変わるかもしれませんね。
取材/小仲志帆