STORY8月号・11月号にもご登場いただき、その親しみやすく明快な語り口で大きな反響があった産婦人科医の高尾美穂先生と、STORYの連載ページ「更年期のクスリ」を長年担当してきたライター柏崎との対談連載。
おかげさまで好評をいただき、更年期にたいしての皆さんの関心の高さをヒシヒシと感じます。
ぼんやり知っているつもりだけれど「実はよく分からない」更年期のあれこれについて、柏崎が直球質問。今さら聞けない基本の「キ」にも丁寧に答えてくださり、なんとなく信じ込んでいた思い違いをバシッと斬ってくださる高尾先生のお話は胸がすく思い!
「エストロゲン補充」「運動習慣」「睡眠時間の確保」が3大攻略法
柏崎 前回までのお話で「卵巣は50歳でほぼ使命を終える唯一の臓器」「女性は女性ホルモンに守られた50歳までが特別ボーナス期間で、それ以降の人生がデフォルト」「プラセンタ注射は更年期症状には期待できない」というのが個人的3大衝撃事実でした。
高尾 アハハ。あなただけじゃないですよ。わりと皆さん、自分の体の仕組みについて知らなかったり、曖昧な情報を信じ込んでいたりする人は多いと思いますよ。
柏﨑 それでいうと、前回も話に出たホルモン補充療法(HRT)を躊躇する人の中には、がんリスクが高まると思っている人が一定数いらっしゃいます。
高尾 そのリスクは生活習慣によるリスクと変わりません。乳がんを起こすリスクの程度は、アルコールを飲む習慣がある人の罹患率と同程度もしくはそれ以下とされているので、そんなに心配ないんです。
柏崎 そうなんですか?
高尾 日本ではホルモン剤に対する抵抗感が強いせいか、なかなか普及していないのが現状で、もったいないと思います。2%くらいの人しか選んでいないです。
柏崎 え~、もったいない。あんなに劇的に良くなるものをやらないなんて。
高尾 たぶん、HRTへの誤解は2002年米国WHI(Women’s Health Initiative)の中間報告での「乳がんリスクの上昇」という研究報告だと思うのですが、その後の検討で「乳がんリスクは決して高くない」とされています。
柏崎 ネガティブなニュースがセンセーショナルに報道されて、それが間違いだと分かっても訂正記事は注目されない、というパターンですね。
高尾 そうなの。それに子宮体がんは黄体ホルモンを使用することで、リスク上昇はしないことがわかっています。
柏崎 じゃあ、HRTに及び腰になる理由なんてないですね。
高尾 HRTに二の足を踏む人は、もしかしたら大量のホルモンを投与するものかと思っているのかもしれないけど、実際は生理が順調に来ていたころの1/3程度のエストロゲンを足す程度なんですよ。だから、体にそこまで大きな影響はない量です。不調を我慢しているぐらいなら試してみては? と思います。
柏崎 私の場合も、絶不調のときにHRTではなく、低用量ピルの「マーベロン」を飲みました。
高尾 リスクを正しく把握していないから、怖くて始められない。正しく知ると、そこまで怖がる必要もないかもよ、って感じかな。
柏崎 やはり、何事も正しく知ることですね。
高尾 そして運動習慣ね。これも大事!
柏崎 先生はヨガ指導者でもいらっしゃいますもんね。
高尾 ヨガは趣味ですよ。私がヨガをやっていると言うと「生理痛や更年期に効くのかな」と思うかもしれないけど、ヨガをしても効かない人がいるということを、ヨガをしている人たちにも知ってほしいというのが始まりなのよ。
柏崎 えっ? 先生が「効かない」って言ってしまって、いいんですか?
高尾 いいのよ(笑)。みんなヨガに過大な期待をするでしょう。でもヨガをやっても生理痛は良くならない人もいるし、更年期症状については、2008年にヨガで良くなるという論文が出ているけど、すべての人が解決するわけではないことを私は知っているわけ。何でもかんでもヨガで治るわけではないんです。
柏崎 では更年期に効果的な適度な運動は?
高尾 有酸素運動、それもウォーキングかな。あまり息が上がらないような、誰かと話せる程度の有酸素運動がいいですね。
柏崎 私は夕食後に歩いているんですが、夜でもいいですか?
高尾 あなたは何でも夜にしようとするのね(笑)。お勧めは日光があるうちのウォーキングですね。昼間に活動して、日中に体温を上げるというのがすごく大事なの。体を動かすことによって体温が上がるのは、能動的に体温を上げるということ。自分で筋肉を動かして体温を上げるのは、自分の意思で交感神経を優位にしてるということ。それが体にとって、とてもいいんです。交感神経が優位になったあとには、必ず副交感神経が優位になる。スイッチが切り替わるので、自分の意思で自律神経活動を活発にしたことになるわけ。
柏崎 自分の意思でスイッチングするのが大切なんですね。
高尾 そう。昼間はデスクにずっと座ってパソコンやってます、みたいな状況だと心拍数が変わらない。でも明るいうちにしっかりと体温や心拍数を上げておくと、夜になって自然と下がっていく。活発な時間と静かな時間を作る。メリハリが大事ってことです。
柏崎 今のお話を聞いて、夜のウォーキングを少なくとも夕方ぐらいに変えようと思いました。
高尾 そのほうが絶対いい。でも午前中がいいんじゃないかなぁ。
柏崎 日焼けが気になりますが……。UV対策をしっかりして、午前中に歩きます!
高尾 歩く以外は何かしてる?
柏崎 7年くらい前から、週に一度、ダンスレッスンに行ってるんです。そして今年から加圧トレーニングも始めました。
高尾 結構、動いてるじゃない。
柏崎 私も更年期の不調に悩んで、ようやく生まれて初めて運動習慣が身についたんです。
高尾 それは良かったです。
柏崎 “自分新発見”できました。
「更年期太り」なんて言葉は甘え。ウェアを買うより今すぐキッチンでスクワット!
高尾 運動をするとホントに太らないから。だって年齢とともに基礎代謝が落ちるわけですから。ほっとけば太る。運動してない人は、すごい苦労してると思いますよ。
柏崎 「更年期太り」と言うことも耳にしますし、そういうコマーシャルも多いですが。やはり更年期は代謝が落ちますか?
高尾 確かにエストロゲンは糖や脂質の代謝を促す役割もあるので、エストロゲンがなくなることで太りやすくなるという点は否めないけど、60代以上の女性が全員太っているわけではないでしょう?
柏崎 ですね。
高尾 そこは本人のやる気と努力次第。腰のうきわ肉の部分と背中に肉がつく、それが老けた印象になるんですよ。みんなそれが嫌でしょう?
柏崎 マジで嫌です!
高尾 体の仕組みをちゃんと考えると、無酸素運動、つまり筋トレで筋肉量を増やして、有酸素運動で脂肪を落とすのが正解。脂肪を燃焼させる筋肉を増やして、ようやく脂肪が落ちてくれる、これが理に適っているわけ。むやみに体重だけ落としてもダメよ。
柏崎 確かに!
高尾 だからスクワットもやったほうがいいですね。
柏崎 無酸素と有酸素、その順番はどうすればいいですか?
高尾 筋トレした後に、有酸素運動がベストです。
柏﨑 筋トレで筋肉が裂ける、そこで有酸素運動するといいと聞きますもんね。
高尾 でもそんなこと言ってないで(笑)、とにかくまずは動けばいいの。
柏崎 はい、分かりました。
高尾 いろいろハードルを上げるとみんなやらないから。私は自宅マンションのエレベーターの中でスクワットをやってます。
柏崎 えっ? エレベーターで?
高尾 13階に住んでるんですけど、着くまでに25回スクワットできますよ。
柏崎 はあ、着くまでに……。
高尾 誰かが途中で乗ってきたら止めますけどね。
柏崎 良かった(笑)。
高尾 25回をワンセットにして、1日何セットできるか数えておくの。今日は1セットもできてないという時は、シャワーの間にやったりね。
柏崎 シャワーですか!
高尾 スクワットは3回か4回やっただけで心拍数が上がるから、絶対にやったほうがいいですよ。
だいたいね、STORY読者の人たちは運動を始めるとなると、まずはウェアを買って、シューズはこのブランドで……みたいなところから始めちゃうわけ。そんな時間はもったいない!
柏崎 うわあ、先生、お見通しですね。YouTubeでも動画がいっぱい出てますし、インスタでもTikTokでもありますもんね。とにかく〈できるところから〉ですね。
高尾 そして大事なのは、前回も言ったけど、睡眠時間の確保ね。
柏崎 あ~耳が痛い(笑)。
睡眠時間が少ないと認知症リスクもアップ!
高尾 睡眠時間の確保は、自分の意志でしかできない。とにかく11時には寝ると決めたら、どうやって逆算するか。
柏崎 え~、でも11時になるのはもったいない……。
高尾 は? 何がもったいないの?
柏崎 11時に寝ちゃうのはもったいない。Netflixも見られないし……。
高尾 あー、いるいる、そういう人。でも、私にとっては起きているのがもったいない。
柏崎 はぁ……。
高尾 一体、寝てる時間に体がどれだけの素晴らしいことをしてくれるか。それを考えたほうがいいですよ。まずはお肌の回復。私たちの体って、起きている間に見えないところでいっぱい傷ついているんです。それが寝てる間に勝手にいろいろ修復してくれるんです。
柏崎 自己回復作業は寝てる間に行われているわけですね。
高尾 イメージとしては、眠っている体が筒の中に入っていて、中でシャッ、シャッ、シャッと直してもらってるようなイメージ。
柏崎 高級な酸素カプセルのようなもの中に入るイメージですか?
高尾 例えばね。それがお肌だけではなく筋肉や骨や臓器も同様ですから。
柏崎 11時になったら筒の中に入らなきゃいけないですね。
高尾 睡眠時間をおろそかにする人たちは、その時間を意識できないからなんですよ。その間に体が何をやってくれているか、よくわからない。だから、なんとなくもったいなくて、ないがしろにしてしまう。だけど眠る時間というのは、起きている時間を良くするための時間なんです。起きてる時間のパフォーマンスを上げて、仕事の成果を出すためによく寝ようということなんです。だから何もしない時間じゃないの、睡眠時間は。すごく大事な時間。
柏崎 そうかあ。「もったいない」なんて言ってる場合じゃないですね。
高尾 もっと言うと、睡眠時間の不足が認知症の理由になり得るわけです。それを今の高齢者の方々はわかっていなかった。でも2019年にWHOが認知症予防のためのガイドラインを出してるんです。認知症にならないために、私たちの生活習慣を改善することで予防できるという意味。特に、アルツハイマー型認知症の発症には、睡眠時間が短いことが関わってることも知られるようになってきました。
柏崎 では夜中の1時に寝て8時に起きるのでも大丈夫ですか……(食い下がる)。
高尾 いいですよ。睡眠時間が確保できているのなら大丈夫。でも、できれば夜と認識できる時間に寝たいもの。太陽が昇ったら体を動かすというのが望ましいですね。
柏崎 自分の生活習慣の改善点がいろいろと見えてきました。全部自分の決意だけでできることですから今日から直します!
高尾 みんな時間が足りない人ばかりでしょ? あなたみたいに仕事をしながら妻でもお母さんでもある、そして親御さんにとっては娘でもある。24時間を自分以外の誰かのために使っているわけ。でも更年期以降は、大切な時間を自分の睡眠時間の確保、運動習慣のためにも使ってほしいんです。人生100年。更年期以降40年以上もあるんですから。
柏崎 ですよね! なんなら生理があった期間より長い時間が待ってるんですもんね。
高尾 できることが増えてきてるのだから、無策でいることはない。やれるものがあるならやったほうがいいよね。
柏崎 そうです! 私のまわりは「ホルモン補充療法、早くやりたい!」って人ばかり(笑)。
高尾 同じ話をしても、興味がない人には刺さらないんです。でもSTORYの人には刺さる(笑)。
柏崎 だって私たち、そのために、よりキレイでイキイキとするために毎日情報を集めて、キョロキョロしてますから。足掻いて何とかなるもんなら、何でもしますよ。
高尾 肌の上から何か塗るのも大事だけど、体の内側からが大事だと知ってほしいですね。しかも仕組みをちゃんと知ると、楽しくなってくるでしょ。
柏崎 ホントにそうです!
次回は「今の40~50代は〈人類初!〉を体験している」「マイ婦人科の大切さ」です。
撮影/西あかり 取材/柏崎恵理