生かされた命、ポイントが切り替わり人生の第2ステージに――
中井
「生」と「死」そうやって向かい合った笠井君は、これからどう生きようと考えていることはある?
笠井
よく、「これからしたいことは?」「これからの希望は何ですか?」と聞かれるけれど、「普通に働くことです」という答えしかない。毎日普通に働いて、時々休んで。それを、やりたい。だって、それがどれだけ素晴らしいことかわかってしまったから。いつ再発するかわからないし、再発したらまた働けなくなってしまう。
中井
私もそうだけど、普通に生活していると、それをつい忘れてしまうから。
笠井
もう一つは、今、生かされた命は、普通に生きているのとは違う、次のステージに上がった気がしてる。退院後、僕はSNSに助けられた経験から、「#病室WiFi協議会」という団体を作った。様々な理由があるのだけれど、9割の病院にWi-Fiが通っているにもかかわらず、入院患者がWi-Fiを使える病院は3割しかない。患者にも使えるよう今、各署に働きかけているところなんだ。
中井
笠井君のその活動は、新聞にも大きく取り上げられたよね。
笠井
マスコミ関係者は僕一人で、設立メンバーはがんになって知り合った人たちばかり。そもそも、自分が社会貢献活動をするなんて、思いもよらなかった。中井だって、そうでしょ(笑)。中井ががん患者のための団体キャンサーネットジャパンの理事だなんてそういうのに一番遠い存在で、思いもよらなかったから(笑)。
中井
私も、病気になったのがきっかけで……。
笠井
みんな、当事者になってやっとわかる。意識が変わる。死と向き合って、戻ってきた命を何かに使ったほうがいいだろう、ただ漫然と生きているのは違う。自分でも、こんなパワーが出ると思わなかった。ポイントが切り替わって、これまでと違う人生を生きている気がする。
中井
この間、笠井君の奥様とお会いしたら、「最近、働きすぎだから注意しておいて!」と言ってたよ。
笠井
つい先日も、妻に強く叱られたばかりなんだ。
中井
笠井君のブログのタイトル「笠井TIMES 人生プライマイゼロがちょどいい」だもんね。
笠井
最初は、タイトルを「絶対負けないブログ」にしようとしたんだけど、家族に猛反対されて。「負けたら、どうるするの!」ってね(笑)。
中井
さすが、家族! でも、働きすぎは要注意だよ!
笠井
はい。やっぱり、仕事が好きなんです(笑)。昔は、130%準備しないと気が済まなかったけど、今は70%、90%で止めてる。
中井
でも、笠井君若返ったね。
笠井
昔は、睡眠時間3時間で疲れてたから(笑)。今は、ハツラツと好きなことしてるからね!
1987年フジテレビアナウンス室同期入社、(左から)青木美枝さん、笠井さん、中井さん、塩原恒夫さん4人で。「4人のうち誰かが結婚すると、残る3人で司会をした」というくらい同期4人、昔も今も仲良し。
撮影/田頭拓人 取材・文/河合由樹