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【男の子の育て方 対談連載vol.17】「『女子枠』は男性差別だ」と考える男の子たちに対して、どう説明するべきか?

男の子は自分と性別が違うからわからない……と感じているSTORYママに向けて、「男の子の教育で気をつけるべきことは何か」について、ともに2人の男児を育てている専門家が語り合います。

【男の子の育て方対談連載vol.16】「マウンティングしたがる息子」と「競争心のない息子」

学生は「性差別」と言われてもピンとこない場合が多い

太田さん(以下敬称略) 社会に構造的差別があることによって、人種や性別により格差がある場合に、それを解消して実質的な平等を確保するために行う格差是正のための積極的措置のことを「アファーマティブアクション」といいます。
例えば、あらかじめ組織における指導的地位における女性の人数、女性役員の割合を決めるクオータ制はその一例です。最近も、大学教員で、特に女性研究者が少ない分野について、女性に限定して公募するという取り組みが話題になりました。大事な取り組みですが、これについて
「それは男性差別じゃないか」
「そこに進みたかった若い男性研究者の機会が奪われているんじゃないか」
と言う方もいます。

それに対して丁寧に正確に説明をしたいなと感じており、ぜひ田中さんにご相談したいのです。
どのように皆さんにご説明にされていらっしゃるのでしょうか。
学生さんなどに聞かれたら、どういうふうにお答えになりますか。

田中 先日、僕の務めている女子大で、東工大の「女子枠」についての議論をしました。
1年生や 2 年生の生徒たちは、「それはおかしい」と思う子が多かったです。彼女たちは、競争というものが平等に行われていると思っているようです。男女は同じ受験を受けて競っており、合否はその競争の結果なのだから、フェアに受け止めなければならないと考えている様子でした。
ただ、僕がジェンダー研究をしている3年生のゼミで聞いてみたら、「女子枠賛成」の生徒が多かった。
何が違うかといえば、〈競争がフェアに行われていない〉という事実を知っていれば、「女子枠」が理解できるのですが、〈競争というものは性別問わず平等に行われているものだ〉と思っていれば「女子枠」には違和感がある。
女性差別がこの社会にあるという認識がない人たちにとっては、あえて女性限定とすることは腑に落ちない話なのだろうというのが、大学で議論してみた時の結論です。

太田 「そこに女性差別がある」、ということを否定すること自体が、女性差別の一類型と思うことがあります。
ですが、年齢が若かったり、社会経験不足から「それほど性差別はない」と言いたがるという現象もありますね。
実は私も、学生時代は個人的に環境に恵まれており、家庭面や教育面でもジェンダーバイアスを理不尽に押し付けられる経験は少ないほうだったと思います。だから学生が性差別の存在についての理解が抽象的なのも分からなくはありません。社会に出てからと比べると、学生時代は性差別に直面する機会は少ないとも思いますし。
でも、就職活動で女性差別を体感したという女性は結構いますよね。また、幸運と能力に恵まれて、就職や仕事ではそこまで壁にぶつからなくても、出産の壁は本当に高いと思います。幸か不幸か、自分事として性差別を体感する機会が乏しいまま暮らしてこられた女性が、構造的性差別の問題に気づくのが遅くなるのはわかります。
あまり性差別にピンと来てなかった学生さんが、これで腑に落ちたというような統計データやきっかけなどはあるものなのでしょうか。

田中 データというよりも、おそらく 大学3 年生になってジェンダー研究をしたくなる女の子の意識なのだと思います。
僕が勤めている大学は女子大です。「ジェンダー」とタイトルに付いていなくても、教育社会学や文化人類学など、さまざまな科目の中でジェンダーの話をする機会がいくらかあります。そういったことを学んでいく中で、教育社会学の視点で気づく子もいるだろうし、文化人類学の時に理解する子もいるだろうし、人によって腑に落ちるポイントというのが違うと思います。
だから、いろんなタイプの授業を受けていく中でジェンダーに触れる機会が多いということが、おそらく大事なのではないでしょうか。やはり教育の効果は大きいと思います。
ジェンダーの科目が一科目しかなく、男性教員がジェンダー問題を自粛していれば、学生の意識も変わりません。男性教員のすべてを否定するつもりなどありませんが、そもそも教育者の中に女性がいるということ自体も価値があると思います。
東 私自身もそうですが、大学生までは、女性は裏で差別されていたという認識はありませんでした。やはり、社会に出てから初めて気づくということが、本当に多いと思います。
太田 もちろんジェンダーギャップ指数を見ても差はありますが、理系分野であったり、また、難難関関大学ほどに行けばいくほど女子学生の比率が少ない。この問題を既に学生の時にわかっている人は鋭いと思います。
東 私の子どもたちが今度中学生になるのですが、高校かどこかでも入学する男女比が問題になっていました。男女共学なのに女子より男子のほうが合格する割合が高かったとか。
太田 都立高校で問題視されてましたよね。男女同数にすることを優先すると、合格点が男女で違わざるを得ないとか。単純に点数順で取るとすると、おそらく女子の方が多くなることがあるのでしょうね。
あえて人数を揃えることを優先するために、男の子であれば合格できた点数なのに、女の子では合格できない……。
東 そういうことが、やっと一般的にニュースでも知られるようになってきたのだと思いました。それまでは、暗黙の了解のようなことが多かったですよね。「謎」でした。
太田 男女同数にすることにどこまで意味があって、何の意味があるか。それがどこまで合理的なのか。
アファーマティブアクション的なことに取り組むと、すぐに「逆差別だ」という話になるのは、やっぱり目の前の差別を理解していないからなんですよね。その差別でどれだけの人が不当に抑圧されてきたかの理解を拒否したがる人もいます。
それに対してデータや数字を示して説明することももちろん大事ですが、の説得力はありますが、数字を見てもピンとこない人に対しては、何かで体感してもらう、あるいは想像力が必要なのかとも思います。

〈社会全体がどうなるか〉より〈僕自身がどうなるか〉が大事?

 太田さんの息子さんたちは、社会に性差別があるんじゃないか、と勘づいたりしていますか? 勉強の面や試験の面などで、女子と男子では何かが違うんじゃないか、と薄々気づき始めていますか?
太田 今のところはあまりないですね。
 うちもそうです。まだそんなところまで気付かないですよね。
太田 幸い、今のところは性別を問わず対等な関係性を作ってるほうだと思います。勉強ができる女の子を「あの子は頭がいいんだ」と素直にリスペクトしていますし。
ところで、「女子枠」的なことを今の男の子たちがすんなり受け容れられるような説明を大人は責任をもってすべきだと思っています。
生きてきた年齢が短い人ほど
「別に自分が社会を作ってきたわけではない。生まれた社会がもともと性差別だった」
「それは年長男性たちのせいであって、どうしてわれわれ若い世代が割を食うのか」
という、素朴といえば素朴な思いが出てくるのはわかります。
彼らに対して、スッキリ回答したいという思いがあります。
ひとつ思うのは、社会全体の多様化やジェンダー平等は、別に女性だけでなく、男性のためでもあるということです。社会が良くなることにより、あなたも利益を受けるという伝え方がありうると思っています。
でも、マクロな視点で社会全体を見ずに、「その公募には男性が応募できないですよね?」みたいなところだけを見てしまうのが問題だと思っているのですが……。
そういう意味では「オレは別に性差別社会なんて作ってないけど?」と感じている人にも、やはり社会にある差別を是正する責任があると言ってもいいと思います。どうなのでしょうか。

田中 NHK放送文化研究所の調査によると、“社会”と“自分の生活”のどちらを優先するかというと、若い人は“自分の生活”を優先する人が多く、親もそうしてほしいと思う傾向にあるようです。自分優先だとしたら、やはり「女子枠」はすごく不公平に見えるのだと思います。
〈社会全体がどうなるか〉より〈僕自身がどうなるか〉に焦点が当たってしまう。
そういう個人主義的な考え方が浸透してるので、社会の構造を変えようとしている時に〈それによって犠牲になる僕〉のような考え方が出てくるのでしょう。

太田 本当にそうですよね。
〈社会などというものは存在しない〉というような新自由主義的な感じなんでしょうか。
専ら自分の、目の前のごく短期的な利益を優先しようという発想だと、そういう考えになってしまうのでしょうね。

田中 そうですね。

太田 性差別の意識だけでもないですよね。
社会が良くならなかったら結局は自分も一緒に転落してしまうよ、と思うのですが。そこでなぜか自分だけが〈勝ち抜ける〉〈勝ち抜こう〉といった発想になってしまっても、勝ち抜いて本当に成功する人は極めて少数だと思います。そんな超レアな成功者に向けて皆が走っていくなんて、とても不合理です。
〈みんなで少しずつ良くしていこうよ〉というほうが絶対に現実的で 、99%の人のためになると私は確信しているのですが……。そこから始めるべきなんでしょうね、社会と個人の関係は。
海外との比較はよく分かりませんが、日本では社会に対する責任意識がどうしてこんなに低いのでしょうね。投票率も低いし……。
田中 どうしてでしょうね……。太田さんの先ほどの話が的を得ていると思います。
短期的な利益。例えば、高校生の場合なら、それで良い大学に受かるのか、が焦点にされてしまっているような気がします。
ただ、一方で希望の目がないわけでもない気がしていて。
というのも、最近の高校生や大学生は SDGsに関心のある子が多いんです。
そもそも個人主義に偏った情報が多い中で、逆に社会問題の話のほうが彼らにとっては新鮮なトピックなのかもしれません。

太田 「そうか、そういうのもあるんだ!」みたいなことですね。
田中 そうです。SDGsが総合学習の時間などでも議論されるようになってきたこと自体には希望があります。そして、当然その中にはジェンダーの問題も入ってきます。
あとは、それを担える教育者がいるのか、ということですね。

太田 今は過渡期なんでしょうね。
まだ教育の現場では不十分なことがあるかもしれませんが、学び始めた今の世代が10年後、20 年後には教育者になっていくわけです。
そういった動きを加速化していきたいですよね。

取材/東 理恵

太田啓子
弁護士。中2と小5男児の母。離婚問題や相続問題、セクハラ・パワハラ事件などに多く関わる。数々の経験を基にした、ジェンダーにまつわる投稿が反響を呼ぶ。昨年、SNSの投稿をきっかけに出版した『これからの男の子たちへ』が話題に。

田中俊之
社会学者。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。専門は男性学。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』など著書多数。男性学の視点から男女とも生きやすい世の中を研究。私生活では7歳と3歳男児の父。
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