今やコンビニにもスーパーにもワインのボトルが何本も並ぶ時代になりました。
みなさんは購入する時にどのような目安で選んでいますか?
「価格帯で選んでいる」
「生産国で選んでいる」
「ワインラベルの見た目で選んでいる」
「その店の“お勧めワイン”の表示やPOP広告で選んでいる」
「一度飲んでみて美味しかったものをリピート買いしている」
多くの人は、そんなところでしょう。
もちろんSTORY読者の一部の方々は、ソムリエ資格を持っていたり、ワインに詳しい方もいらっしゃると思いますが、ここでは、〈ワインは好きだけど、選び方まではよくわからない〉という人向けに、ワイン売り場で迷った時のセレクト基準をご案内します。とはいっても、飲んだことのないワインはラベルを見るしかないですよね。
そう。ワインはラベルで判断すればいいのです。
ちなみにワインラベルのことを専門用語では「エチケット」と言います。
その語源は、ブルボン王朝時代のフランスで、ヴェルサイユ宮殿に入るときの礼儀作法や、着席時の序列などの情報を記した札だとか。
そう。だから、ワインボトルに貼られたエチケットにも、そのワインについてのさまざまな情報が記されているのです。(フランス以外のワインや、ナチュラルワインについては、そうでない場合もあります)
例えば、このワイン。
東京都下の私鉄の駅前にあるスーパーで買った白ワイン。
エチケットには金色のエンブレムが入り、作り手らしき人の名前や、その他いろいろとフランス語で細かく書かれていますが、それをひとつひとつ紐解いてゆく必要はありません。
大切なのは、真ん中に大きく筆記体で記された「Chablis」(シャブリ)の文字。
Chablisと書いてあれば、ほぼ間違いありません。買ってください。美味しいです。
30年間ワインを飲み続け、人に勧めてきた私の感想では、アルコールを嗜む日本人の中で「シャブリはちょっと……」と敬遠する人は、ほとんどいません。
一方で、ワインのエチケットには「Chardonnay」(シャルドネ)という文字もよく目にしますよね?
でも、Chardonnayと書いてあるだけで買ってはいけません。シャルドネワインにはいろいろありすぎて、味わいもさまざまですから。
何が違うかというと、そもそもシャブリとシャルドネは全く次元の違う単語なのです。
シャブリとは、パリから南東へ約180キロの場所にあるブルゴーニュ地方北部の地域の名前で、
シャルドネというのは、白ワインを作るためのブドウ品種の名前です。
そして、シャブリで使われているブドウはシャルドネです。
つまり「シャルドネ>シャブリ」というわけです。
ブドウ栽培は簡単ではないのですが、シャルドネは比較的作りやすい品種なので、世界中で栽培されています。
ヨーロッパに限らず、チリ、オーストラリア、南アフリカ、そして日本など、さまざまな国のシャルドネワインがあります。作り方もいろいろ。
「前にシャルドネワインを飲んで美味しかったから、別のシャルドネワインを飲んでみたものの今度は口に合わなかった……」ということが往々にしてあります。
でもシャブリワインは違います。
シャブリ地区で栽培されたシャルドネ種のブドウを使って、しっかりとした管理のもとで醸造されています。
だからどのシャブリワインを飲んでもだいたい味が安定しているのです。
何が違うかというと、その秘密はやはりシャブリ地区の風土にあります。
まずは、この地ならではの冷涼な気候によってブドウにすっきりとした酸味が生まれると言われています。
そして、最大のポイントは土壌。シャブリ地区の土は「キンメリジャン」と言われる約1億5千万年前のジュラ紀の地層からできているのですが、このキンメリジャンはサンゴや牡蛎、有孔虫といった海の生物が堆積した石灰質の土壌なのです。
「キンメリジャン」と聞くと、コチュジャンやテンメンジャンのようで、いかにも美味しそうですよね(笑)。
そういう土壌環境(テロワール)で生まれたシャブリワインは、すっきりとシャープな酸味を持ちながらも、甘みと苦みが絡み合って深みのあるコクを出します。ただ単純に酸味が立つワインではありません。
そして、香りが全然違うんです。
酸味があるワインはフルーティで酸っぱい香りがすると思いがちですが、シャブリはちょっとスモーキーなチョークのようなアロマが漂い、そこに焼き立てのパンや、あるいはピーナッツのような香りが混ざり合います。
ちょっと話が複雑になりますが、実はシャブリには4つの種類があります。
シャブリ地区の約6,000haの畑を4つにカテゴライズして、【Petit Chablis(プティ・シャブリ)】、【Chablis(シャブリ)】、【Chablis Premier Cru(シャブリ・プルミエ・クリュ)】、【Chablis Grand Cru(シャブリ・グラン・クリュ)】に分けてワインが作られています。
畑の場所によって、日当たりや水はけ、土壌が微妙に違うので育つブドウにも影響します。
それに応じて、発酵や熟成の仕方を変えて、表情豊かな4種類のシャブリワインが作り出されます。
昨年、その4種類の味わいを音楽で表現した楽曲「シャブリ・シンフォニー」が発表されました。
作曲家・松波匠太郎さんは4つのシャブリワインを以下のように解釈されたといいます。
☆プティ・シャブリ「軽やかで明るく、良くも悪くも溌溂さが魅力」メイン楽器はヴァイオリン
☆シャブリ「バランス良くオーソドックス、親近感、普遍的」メイン楽器はピアノ
☆シャブリ・プルミエ・クリュ「明らかな丸み、深く、しなやか」メイン楽器はクラリネット
☆シャブリ・グラン・クリュ「頂点、より深く、輝かしい」メイン楽器はチェロ
ワインが組曲として表現されるなんて斬新ですね。
これは、4つのシャブリワインがそれぞれ表情豊かで、奥深いからこそ実現するのでしょう。
ところで、名前からもわかると思いますが、単純に価格で考えると【シャブリ・グラン・クリュ】がいちばん高価です。
でも、ワインは高ければ美味しいわけではありません。合わせる食事によっても違います。
実際、4種類のシャブリの試飲会に参加しても、「【プティ・シャブリ】がいちばん好きかも」という声をよく耳にします。
一般的に、高価なワインのほうが、ワインを醸造する過程で手間をかけていたり、熟成期間が長かったり、木の樽を使って風味付けをしていたりするものです。
それに比べると、安価なワインは、シンプルに素材そのものの持ち味を生かして作ることが多いような気がします。
そういう意味では、意外と後者のほうが日本食に合ったりします。
鍋とか刺身とか、天ぷらとか、焼き鳥とか。
個人的には、ホウレン草とベーコンのバター炒めにシャブリを合わせるのが大好きです。
あと、鍋のなかでもやっぱり“しゃぶしゃぶ”に合うと思います。
しゃぶしゃぶにシャブリ。
わかりやすいでしょ。
シャブリ地区で栽培されたシャルドネ品種は、その素材だけでも十分にポテンシャルを発揮しますから、4つのシャブリワインの中でも【プティ・シャブリ】や【シャブリ】といった比較的安価なもので十分美味しいです。
コンビニでも売っていることがありますので、「Chablis」と書いてあるエチケットを見つけたらぜひ手に取ってみてください。
文/川原田朝雄