女性の社会進出すら遅れている日本の中で、トランスジェンダーたちは自分らしく生きるためにどれだけ苦悩し、つらい経験をしてきたのでしょうか。そして、家族たちはどのような思いだったのでしょうか。LGBTQを本当に理解するためには、そばで支えてきた人たちの声にこそ耳を傾けるべきなのかもしれません。
<中>「ミュータントウェーブ。」大嶋悠生さん 35歳・東京都在住 /
妹・上原ゆりかさん 34歳・埼玉県在住
女性時代をしっかり生きて今がある。
だからトランスジェンダーと
名乗るほうが自分らしい。むしろ
それを強みとして多様性への
理解を広めたい
だからトランスジェンダーと
名乗るほうが自分らしい。むしろ
それを強みとして多様性への
理解を広めたい
嶋悠生さんは、元なでしこリーグのサッカー選手で、引退後に性別適合手術を受け、戸籍を男性に変更。現在、後輩の山本朝陽さん、大川政美さんとユニットを組んで、ユーチューバーとして活躍しています。
大嶋さんが、性に違和感を感じ始めたのは小学1年のころ。「スカートよりはズボンがいいとか、女の子っぽいものは持ちたくないとか、そのくらいで。小5まで男の子と一緒にサッカーをしていて、それ以降もプロサッカー選手を目指して必死で練習していたので、悩んでいる暇がなかったんです」。
女子サッカー界では、早くからジェンダーの多様性が受け入れられてきました。「タイプの違う選手を組み合わせることで、強いチームを作るスポーツなので、個性を主張するのが、当たり前なんです。また、男性的な人を示す『メンズ』という言葉があって、男性や女性と同じように『自分はメンズで』という会話がふつうにできるオープンな環境でした」。
家庭でも、自然に受け入れられていたと言います。「中学のとき、女子からもらったラブレターを置き忘れて、母親に拾われたことがありましたが『自分の人生1回きりだから、好きなように生きればいい』と言ってくれました。胸が嫌で『なんでこんなふうに産んだんだ』と言ったときは『冗談じゃないよ。あんなに大変な思いをして産んだんだから、感謝してくれ』って言い返されました。今、親御さんから相談を受けることもあるんですが、母親って、自分を責めがちじゃないですか。でも、きっぱり言われて、そうだな、感謝だよな、と思いましたね」。妹のゆりかさんも「男女を意識はしないし、受け入れるも受け入れないもないですよね」と。
「女性から男性になった方は、男性として生活している方が多く、タレントさんにもいないんです。でも、自分たちは、女性時代にしっかり生きた結果、今があるし、男性になってからの時間のほうが短い。男性と自称するより、トランスジェンダーだと言えたほうが自分らしいんです。むしろ、それを強みにして、企業研修や商品開発のサポートをしたり、保育園や学校で多様性について考えてもらう講演をするなど、活動しています」。
3人は、戸籍を変更し、結婚もしていますが、手術を受けないと戸籍を変えられない今の法律には疑問を持っています。「体を傷つけなければ変更できないのはどうなんだろうと思います。同性婚も認められていないので、選択肢がないんですよね。サッカー界は意識が進んでいるとはいえ、海外と比べるとまだまだですし、日本全体を見たら、多様性については本当に後進国です。だから、自分たちで発信し、多くの方に理解が広がればいいなと思っています」。
撮影/西あかり 取材/秋元恵美 ※情報は2023年5月号掲載時のものです。