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トランスジェンダーの夫を持って「性別は意識していません。人として大切な存在」

女性の社会進出すら遅れている日本の中で、トランスジェンダーたちは自分らしく生きるためにどれだけ苦悩し、つらい経験をしてきたのでしょうか。そして、家族たちはどのような思いだったのでしょうか。LGBTQを本当に理解するためには、そばで支えてきた人たちの声にこそ耳を傾けるべきなのかもしれません。

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永田真己さん 49歳 / 妻・永田香織さん 40歳・ともに徳島県在住

性別は意識していません。
人として大切な存在だし、この先、
問題が起きてもお互いが意見を言えて
受け入れ合えるなら乗り越えていける

香織さんは会社の上司だった真己さんと結婚、翌年に長男を授かりました。ところが、子どもが生後2カ月のある晩、夫の真己さんに突然「女性になりたい」と告白されたのです。「何を言ってるんだ、という感じで、よく理解できませんでした。初めての育児でクタクタだったこともあり、『いいから寝てください』と言って寝てしまい、翌日以降もしばらくは、その話題には触れませんでした」。

実は、ずっと以前から、真己さんには、女性になりたい願望がありましたが、むしろ、忌み嫌うことで心に蓋をして男性として生きてきました。ところが、妻が出産し、授乳する姿を見ると、うらやましくてたまらなくなってしまったのです。そこで、離婚も覚悟のうえで、勇気を出して告白したのでした。

香織さんは「家族が終わってしまうのか、一人で子どもを育てていくことになるのかと不安でした。とうとう、『これからどうしたいの?』と尋ねると、真己さんは、『家族としてやっていきたいし、パパであることは変わらない』と言うのです。実は、その言葉を聞いて、ちょっと安心しました。そこで、どうしたらやっていけるのかを模索しはじめました」。

それから半年ほど、香織さんは実家で子育てをしますが、その間、真己さんは、女性の服をときどき着るようになっていました。当時、真己さんが好んで着たのは、花柄スカートにレーストップスのような服でした。でも、極端に姿が変わったら引いてしまう。認められたいなら、我を通しすぎず、女性の服でもカッコいい系のものにするとか、受け入れられやすくして、と伝えました。「あのころの服は、全然似合っていなかったんです。でも、私が意見を言うとちゃんと受け入れてくれたんですよね」。

2年後、次男を授かると「真己さんは、毎回妊婦検診についてきてくれました。年が離れているせいか、助産師さんに、おばあちゃんに間違われたことも(笑)」。葛藤もありつつ、香織さんは真己さんを次第に受け入れていき、そして次男出産後には、真己さんはトランスジェンダーであることを公表しました。

受け入れるようになったのは、奏真君の障がいもひとつの理由だといいます。「奏真の障がいを個性だと思うと、真己さんの性自認もひとつの個性なのかなと思えてきて。日常生活の中で真己さんの性別を意識することは意外と少なく、ふつうのパートナーとして接しています。真己さんの芯の部分は変わっていないんです。私たちはやっぱり夫婦ですし、こんなに家事育児に熱心なパパもそういない。だから、隠すことなく、子どもたちにもパパはトランスジェンダーだよと胸を張ってもらえるような家族でありたい、と思っています」。

  • 長男・奏真君が生まれたころ。真己さんから、女性になりたい気持ちをカミングアウトされたときは、「家族でなくなってしまうのではないかと不安でした」
  • ’14年の結婚式。

奏真君(7歳)には脳性マヒの障がいがありますが、明るく朗らかでお外が大好き。シャイな弟の涼眞君(5歳)は元気いっぱいです。

夫婦喧嘩をして「詐欺だ!」と言ったこともあるという香織さん。「何か問題が起きても、意見を言い合えて受け入れられるなら大丈夫。正解も不正解もないと思えるようになりました」。

<編集後記>自分だったらどうするかと考えさせられました 自分の身に置き換えると、香織さんの戸惑いや葛藤はどんなに大きかっただろうかと想像できます。でも、お互いが自分の立場や思いだけを貫き通すのではなく、家族として考え、歩み寄って支え合ってきた結果、今があるのだろうと感じました。終始笑顔が絶えず、和やかで明るいご家族で、見ていてほのぼのとした気持ちになりました(ライター 秋元恵美)

撮影/前川政明 取材/秋元恵美 撮影協力/カリフォルニアテーブル ※情報は2023年5月号掲載時のものです。

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