幼いときに芸能界にデビューし、人気絶頂を経験したアイドルや子役さんたち。大人になっても芸能活動を続けている方もいれば、違う世界に飛び込んだ方もいます。40代になった今、当時自分に向けられた熱狂をどう感じているか、また、それが、その後の人生にどんな影響を与えたのかを、お話しいただきました。
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自分にできることを考えた結果
「応用演劇」の世界に行きついた
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15歳で地元静岡の番組出演をきっかけに芸能活動を始めた酒井美紀さん。数々の映画やドラマに出演し、多くの名だたる賞を受賞されています。
東京の大学に進学してからは、女優業のみならず旅番組のレポーターなど新しい分野にも挑戦。そんな中、後の活動に大きな変化をもたらす仕事のオファーが。ドキュメンタリー番組の企画で、フィリピンの「スモーキーマウンテン」を訪問するという内容でした。それはフィリピンの首都マニラの北に存在し、巨大なごみ山とその周辺のスラム街のこと。名称の由来は捨てられたあらゆるごみが自然発火し、火事が絶えないことから、そう名付けられたそう。
「現地に足を踏み入れ、その光景を見たときの衝撃と悪臭。今でも鮮明に思い出すことができます。そして、12歳の少女との出会い。既に父を亡くし、病気がちな母と幼い弟2人をごみ山からリサイクル可能なものを探し換金することで生計を立てていました。幼い少女が過酷な生活を強いられている現状を目の当たりにして、愕然としました。同時に、この状況を変える術を持ち合わせない無力な自分に気づかされたんです。とはいえ、この現状に背を向けることはできない! まずは、プロフェッショナルに託すべきと考え、帰国後、国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンのチャイルド・スポンサーシップに加入しました」。
’07年からは同団体の親善大使に就任。「就任後、活動しながら経験を積む中で、自分に学術的な基礎知識が乏しいことを実感しました。また、途上国での問題を解決させるにはどうしたらいいか? を研究したいと思うようになっていったのです」。
国際協力学を基礎から学ぶ必要性を痛感し、’19年東洋英和女学院大学大学院の国際協力研究科修士課程に入学。’08年に結婚、’10年に長男を出産されていた酒井さんは、家庭と子育て、女優業やボランティア業と並行しながら大学院での学びを進めていくことに。草鞋を何足も履こうが、酒井さん持ち前の〝好奇心〟はとどまらず、実はもう一つ学びのテーマを携えて大学に入学されています。それは、「応用演劇」という手法でした。
「きっかけは仕事で訪問したバングラデシュでNGOの方が演劇を使っていろいろと教えていたこと。識字率の低い地域では演劇的手法が役に立つのです。そしてもう一つが、息子が通う小学校から演劇を用いた授業をやってくれないかと言われたことでした。一体何をどう教えたらいいかわからず、調べるうちに出合ったのが『応用演劇』だったのです」。
「演劇」と名がつくものの、観客は存在せず、演じるのは参加者本人で物語は即興で作っていきます。相手の言葉を聴いて、感じて、考えて、楽しんで、分かち合う、参加者が経験するための演劇です。ただし目的を見失わずに進行するためのファシリテーターが必要。この役割を酒井さんが担うのです。
「日常生活ではできなかった行動や想像、様々なシチュエーションを演劇を通して形にし体験する。そこには、いわゆる俳優に求められるような、上手、下手は存在せず、失敗や間違いと思えるようなことも生かし合いながら、すべてが必要な発見や学びとなっていくのです」。欧州では学校教育の場で実践が数多く行われ、教科としての「演劇」が存在しているそう。
「15歳から演劇を続けてきた私が見つけた、自分にできること。それは日本ではまだまだ認知度が低い『応用演劇』を用いて、社会課題を解決するための一つの手段、アプローチの仕方として応用するということでした。『演劇でそんなことができるんだ!』って思ってもらえるように。発信方法はまだ模索中なのですが……新しい概念が浸透するには時間を要するもの。そう思えるようになったのも、ボランティアに携わり、長期的な目線を持つことの大切さを学んだから。焦らず、学びや経験を積み重ねながら前に進んでいこうと思っています。『スモーキーマウンテン』を目の前にし、無力な自分に愕然とした私が見つけた自分にできること。皆さんの中にもきっと何かあるはずです」。
「困ったときは徹底的に調べるのがモットー。私の駆け込み本屋は青山ブックセンター(現『文喫 六本木』)。そこで、何時間も過ごし様々な知識を得、疑問を解消してきたんです」。
「高校まで静岡の親元から東京へ新幹線通勤。なかでも連ドラ『白線流し』撮影時は高校3年生。仕事と受験勉強で睡眠時間も少なく、常に今日は何時間眠れるか数えていました」。
TVの仕事で訪れたフィリピンが大きな転機に
「スモーキーマウンテンで生きる少女との出会いが私の国際協力への歩みを大きく進めてくれました。あれから12年が経過した‘17年。少女の“今”を知りたくて、再訪しました」。【写真提供:国際NGOワールド・ビジョン・ジャパン】
「友人が制作してくれた特注品の台本カバー。かちんこ型のしおりには『miki』の刻印も入っています」
Her history
セーター¥45,100スカート¥37,400(ともにnooy/ヌーイ)ピアス¥113,300ネックレス¥115,500リング¥93,500(すべてカスカ/CASUCA表参道本店)腕時計¥33,000(VAGUE WATCH/CASUCA表参道本店)
撮影/BOCO ヘア・メーク/後藤真弓 スタイリスト/安野ともこ 取材/上原亜希子 ※情報は2023年11号掲載時のものです。