女性としてこれからのキャリアについて悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。個人として評価され活躍される女性リーダーの方々には、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、2023年6月にマネックスグループの代表執行役社長CEOに就任された清明祐子さん。金融グループでは初めての女性CEOが歩んできたSTORYをご紹介します。(全3回の1回目)
清明 祐子さん
マネックスグループ株式会社 代表執行役社長CEO
京都大学経済学部卒業後、三和銀行(現在の三菱UFJ銀行)を経て、2006年プライベート・エクイティ・ファンド「MKSパートナーズ」へ。ファンド解散決定後、’09年マネックス・ハンブレクトに入社。’11年には同社代表取締役社長に就任。’19年にマネックス証券代表取締役社長、’20年に持株会社であるマネックスグループ代表執行役COOを経て、’22年4月マネックスグループ代表執行役Co-CEO兼CFOに就任後、’23年6月マネックスグループ代表執行役社長CEOに就任。
仕事をする上で大切にしていることは、新卒で入社した銀行での5年間で学んだ「社会人としての基礎」
STORY編集部(以下同)――自らの強みは「決断力」。そのルーツをたどると、幼少期からこれまで積み重ねてきた大小様々な取捨選択の歴史があったとのことですが……。
幼い頃から自分がしたいことは、ほとんど自分で決めてきました。例えば“習い事”。数多くの習い事をしてきましたが、全て自らやりたいと思ったものだけを習ってきたんです。習い始める時は勿論のこと、辞め時までも自分で決めていました。時には、周りの友達や先生に「もったいないよ~」なんて言われたり、「引き止め」にあったとしても、自ら決めたことは曲げない。とても自立心の強い性格でしたね。
――何かを「始めたい」というのは好奇心旺盛な子どもにはありがちかなと思いますが、「辞める時期」、ましてや上手だったり、周りから引き止められても決断を曲げないというのは強いですね。
「何事も自らの意志で決めさせる」というのが両親の教育方針で、両親から「こうしろああしろ」なんて言われた記憶がありません。例えば、我が家には小さい時から「門限」というものがありませんでした。本人が望めば何時まででも遊べる……でも、他の家には門限があるので、必然的に友達はある時間になると帰宅し、私には遊ぶ相手がいなくなってしまう。当然、帰宅しますよね(笑)。上から言って行動を制限したりするのではなく、自らの意志で行動させる。今思うと、上手なやり方だな~なんて感心してしまいます! 同時に両親にはとても感謝していますね。
――大学卒業後に株式会社三和銀行(現在の株式会社三菱UFJ銀行)に入行されています。もちろんご自身の選択かと思いますが、きっかけとは?
実は大学では奨励金を受け、学費に充てていました。立花証券を創業した石井久さんが私費を投じて設立したもので、返済義務のない給付型のものです。今思えば、奨励金を受けていたことでも、金融業に貢献を、という気持ちがどこかにあったようにも思います。新卒で入社したのは銀行でしたが、その後マネックス証券の社長に就くことになり、少しは恩返しができたかなと思っています。
――三和銀行に入行され、その後転職されることとなりますが、6年間の銀行勤務で学ばれたこととは?
入行後に大阪梅田支店に配属され、中小企業向けの法人営業を3年ほど担当しました。自分の社会人としての基礎は、この梅田支店にあると思っています。この時期に学んだことはその後のキャリアでも大切にしてきました。
まずは何事にもトライしてみること。そして、量をこなせば、質がついてくるということ。そして、会社というのは“チーム”だということです。メンバー一人ひとりが自分の役割を果たして成長していくこと。それがとても大切なんです。真摯に取り組んでいれば、必ずそれを見ていてくれる誰かがいて、共感や支援の輪が広がっていくんです。
――そのことは実際に銀行勤務時代の経験から得た学びなのでしょうか?
はい。こうしたことは、梅田支店の先輩たちから学びました。その中でも、特に印象深いのは配属当初のラインから異動したあとの上司で、特に厳しく指導されました。ことあるごとに叱られ、稟議書などの書類を提出しても、すぐに突き返されてしまう。何度も戻されているうちに、いくら書いてもどうせまたダメだろうというネガティブな気持ちになり、書類を提出するのが怖くなってしまったんです。
そんな時、職場の飲み会の席で先輩に相談した際に言われた、「部下の指導が上司の仕事。指摘できないなら上司である意味がない」。という言葉で、気持ちが少し楽になったんです。上司も好きで叱っているわけではなくて、それが役割だから叱っているんだなと思えたんですよね。
そう思ってみると、自分では努力しているつもりだったけれど、できていなかったかもしれない。もっと数をこなしてみようと、気持ちを前向きに切り替えることができたんです。
――お気持ちを切り替えた、その後……気になります!
上司が出かけている間に作った書類を山積みにしておいたんです。すると、「なんだよ、これ」と言いながらも見てくれる。最初は全て突き返されていたのが、次第に半分くらいしか戻ってこなくなりました。すると、徐々に戻される理由や上司の意図、修正のコツもわかってくるんですよね。この上司とは今も接点があり、時々飲みに行っては、笑いながら当時のことを振り返っています。今でも「お前みたいな部下はいなかった。心の中では実は、『すごいな、こいつ』って思ってたよ」と言ってくれます。
――気になるのは、「上司が出かけている間に作った書類を山積みに」という言葉。現在もそうだと思いますが、とても忙しい毎日を過ごしていらっしゃったんですよね……。
猛烈に働いていました(笑)! でも、その時はそうすべき時期だと思ってやっていたので苦だったとは思っていません。自分は今何をすべきか? というのを常に考えています。自分の生活の中心が仕事だった当時から立ち位置が変化した今、今の自分がすべきことを考えた時、プライベートを充実させることの重要さに気づいたんです。
撮影/BOCO 取材/上原亜希子