コミュニケーション講師、心理セラピストして活躍する吉井奈々さん。元男性の吉井さんは性別適合手術を受けて戸籍を女性に変更。4年ほど前に10歳年下の航平さんと結婚し、現在は吉井さんが外で働き、航平さんが専業主夫をしています。二人にとっての理想の夫婦や仲良くい続ける秘訣とは?
「私が仕事をして、彼のつくった料理を食べるのが至福の時間」
夫と出会ったのは仲間内のBBQでしたが、最初の数年は年に一度、顔を合わせる程度でした。私のYouTubeの仕事が軌道にのってきて動画編集をしてくれる人を探していたところ、彼がやってくれることに。よくよく話してみると年齢は10歳も離れているのに、漫画やアニメ、ゲームなど共通の趣味や、クリエイティブなことに関する価値観が近く、一気に距離が縮まりました。
今までたくさんの人に出会いましたが、過去には私がトランスジェンダーであることを認めてくれず、相手の周囲にお付き合いを反対されたことも。でも夫はあまり抵抗や偏見がなかったようです。夫の両親も彼が結婚するときも専業主夫になったときも、反対せず「自分で決めたことならいい」というスタンスで応援してくれました。夫の母はいつも私のSNSなどチェックして、感想なども送ってくれるんですよ。
まわりの友人たちもみんなが祝福してくれて、特に心配するような人もいませんでした。もしかしたら多様性のある友人以外は残らなかったのかもしれませんが(笑)、それでもまわりの人たちや環境に恵まれているなと思います。
「女性扱いをしてほしいわけではない」
夫自身は私がトランスジェンダーであることに、抵抗はありませんでした。最初の頃は私のことを女性と同じように接してくれていたようですが、実はトランスジェンダーと一言で言っても考え方は十人十色。
「女性扱いをしてほしい人」、「元男性として見てほしくない人」など、考え方はさまざまです。私はこれまでの人生で悩んだこともありましたが、それよりも楽しんできたことの方が多い毎日でした。水商売で働いていた自分も好きだし、これまでの自分を否定したくはありません。だから隠すようなこともないし、あくまで吉井奈々として接して欲しいのです。
夫は、私とトランジェンダーの友人が「女性扱いをしてほしいわけではない」と会話しているのを聞いてから、意識が変わったそうです。
「事前にしっかり話し合いを」
実は私は離婚経験があるため、夫と付き合うときや再婚するときに少し慎重になった部分も。私たちは私が元男性のトランジェンダー、私が外で働き、夫が専業主夫。子どもを持たない選択をしましたが、そのことについても事前にしっかり話し合いを行いました。例えば、私は働くのが好きなので、家事に専念するような主婦業はうまくできないこと。名字を変えるのは嫌なので、できれば彼に吉井姓になって欲しいこと。子どもは持たないこと。
名字や子どもに関しては価値観が近く、スムーズに決まりました。仕事は、最初は共働きだったのですが、二人とも忙しいと家のことが疎かになり、雰囲気が悪くなるんですよね。そのようタイミングでコロナ禍になり、お互いに働き方を見直した際に、無理してふたりで働く必要はないという結論に。夫が専業主夫となったのですが、我が家はこれが大正解。料理の腕がメキメキ上達していくし、夫的にも主夫業が楽しく合っていたようです。
今では仕事が終わって彼の料理を家でいっしょに食べるのが、私にとって幸せの時間。横並びになってテレビを見ながらいっしょに食事をして、今日あったことを話すのが至福のときですね。
写真提供/吉井奈々さん 取材/酒井明子