女性としてこれからのキャリアに悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。第一線で活躍している女性リーダーの方々にお話を伺うと、そこには、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、株式会社ユナイテッドアローズ執行役員の山崎万里子さん。お洒落が大好きだった少女がユナイテッドアローズに入社して32年。彼女が積み重ねてきたSTORYをご紹介します。(全3回の3回目)
山崎万里子さん(50歳)
株式会社ユナイテッドアローズ/執行役員・チーフヒューマンリソースオフィサー・人事本部 本部長
1973年福岡県生まれ。学習院大学経済学部在学中にアルバイトとしてユナイテッドアローズで働く。卒業後、同社に入社し、販売促進、広告宣伝、経営企画等に携わり、2010年に同社女性初の執行役員に就任。ユナイテッドアローズ本部副本部長等を経て、2021年に人事本部本部長 兼 人事部部長、2023年より現職。
背中に背負った会社名や役職名という大きな看板。それらがなくなった時に、何もできない人にならないようにしたい
STORY編集部(以下同)――お仕事のお話から、少しプライベート、ライフイベントについて伺えればと思います。
私は、36歳で結婚して41歳で出産しました。会社の様々な制度が整った環境下でしたね。
――育児と仕事との両立で大変と感じられたことなどはありますか?
結婚をしたことで、仕事に影響が出たことは全くないです。ただ、出産や子育てに関しては戸惑うことは大いにありました。ただ、子どもを持ったことで仕事に注ぐエネルギー量が下がり子どもにシフトしましたか? と言われると、そうではないんですよね。逆に仕事のありがたみを感じたんです。子育てと違い、言えば話が通じる大人って素晴らしい! って(笑)。
――その通りですね!
休憩時間が決められている、始業と終業があって、終わったら帰宅していいんだ!? みたいなね(笑)。子どもが相手だと自分の思う通りにはいかない。そんな相手と対峙しながら24時間終わりがない子育て。産休が明けて出社した時、「何ていいんだ! 大人の社会ってやつは!」って思いました(笑)。それに、熱い汁物が食べられる! 暑いとか冷たいものを適度な温度で食べることって、子どもが小さいとなかなかできないですよね。タイミングよく食事もなかなかできないし。
――子育て経験者は、記事を読みながら「わかる〜」って声が出ちゃってますね。
まだまだあります! 仕事の合間にコーヒーを飲んで、息抜きがてら雑談をする。何か作業を手伝ったりしたら「ありがとう」って言ってもらえる。家ではないことですよね(笑)。改めて、色々な意味で仕事のありがたみを感じました。
――産後は比較的すぐに職場復帰されたんでしょうか?
3ヶ月ほどお休みしました。産休は労働基準法で48日と決まっているんですよね。産後休暇に2週間の有給をプラスして丸3ヶ月。有給を使用したのは仕事をしたいからではなく、保活を少しでも優位に進められる状況を作りたかったからです。
――職場へと復帰され、仕事と子育ての忙しい日々の中、癒しの時間とは?
インプットもアウトプットもしない時間。仕事をアウトプットするのと、そのアウトプットに必要なインプットをすることを常にやっているので、それらを全くしない時間ですね。座禅を組むとか、お風呂でのぼせるとか、無の状態が私にとってすごく必要な時間です。あとは、友人や同僚との食事や飲みに行くこと。そこで、全く仕事に関係なく、プラスにならないような他愛もない、どうでもいいような話をすることも必要かな。
――お子さんとのお時間はいかがですか?
子どもは私を“無”にしてくれない相手ですね(笑)。今、小学生なんですが、永遠に質問をされ続けます。対応するのは大変ですが、人に説明することって結構頭の整理にはなりますよね。それと、今、彼から質問されているこの疑問に答えていかないと、この子の脳って育っていかないんだろうなって思い、私自身ものすごく頭を使いながら答えています。ある時、息子から「ママはどんな仕事を会社でしているの?」と聞かれたんです。人事と答えたところで、子どもは何をしているかなんてわからないですよね。なので、「どうやったらみんながもっと楽しく生き生き仕事が出来るかなっていうのを考える役割なんだよ」と、私なりに説明を試みてみました。それに対して息子は「あ〜それって、世界平和を祈りますって言う人と同じぐらい役に立たない仕事だよね」って。デジタルネイティブで、ある意味知識豊富な息子との会話は時に刺激的です(笑)。
――結婚、出産を経て、2018年からは執行役員・人事部長にという立場になり、山崎さんが考える、今後行っていくべきこととは?
会社全体としては、アパレル、非アパレルも含めて多くの新規事業を抱えています。キーワードになるのは“成長や挑戦”。その中で、私は人事の責任者として、新しい戦略を担える人を採用することと、会社がやろうとしている戦略に合致するような人材をどう社内から輩出していくかですよね。そのために会社としてはリスキリングなどに時間とお金をかけています。
――会社としてリスキリングのための制度を設けていらっしゃるんですね。
今までは販売職向けの販売スキル向上のための研修や、店長や課長職向けのマネジメント研修という、現在携わっている仕事に直結したものがほとんどでした。去年からはリスキリング、職能開発に特化したメニューがメインになっています。社内でのコースもあれば、社外で学習していくものもあって、特徴的なのは今の仕事に関係なくていいということです。そして、会社が指名するのではなく、挙手制。自分が何を学びたいか、自分がどうなりたいかなので、自分のキャリア感みたいなものをクリアにするための、キャリアデザイン研修という名の内省するプログラムも実施しています。
――例えばどんなことをやりたいと希望される方がいらっしゃるんでしょうか?
コロナ禍を経て、ネットでの取り置きや予約など、お客様の買い物の仕方の大きな変化を私たちは感じています。その状況の中で、長年店長をやってきた人が、これからの小売の再成長に貢献したいという思いから、物流やデジタルマーケティングを勉強したいという希望がありました。そういった、自分の意思を持ちながらできることを職能開発していくということなんです。
――山崎さんご自身が学びたいことはありますか?
実は、今年、30歳ぐらいの時に通っていたビジネススクールに再び通いたいと思っているんです。当時は基礎科目を受講しただけなので少々枯渇した感があり、もうワンランク難しい講座を受講しようかと思っています。
――忙しい中も常に学びを進める山崎さん。学んだことを携えて、その先に見ている目標とは?
今年、50歳の私が45歳のときに立てた50歳の目標は「会社を辞める」だったんです。この目標は辞めることではなく、辞めて通用する人になるという意味。まだ会社にいるので、目標は達成できていなくて、今も変わらず私の目標です。
――辞めて通用する人になるというのは?
私自身のバックグラウンドには会社名、役職名、部署名と大きな看板がカチッと私の背後についています。でも、これはいつか終わる、外される時が来るんです。60歳かもしれないし、その前かもしれない。だから、この看板がいつ取れてもいい状態でいようということ。それが45歳のときに立てた50歳での目標だったんですが、この先もその目標を持ち続けようと思っています。今の私のパフォーマンスと市場価値は、この看板によってできているものだっていうことをよく理解した上でふんぞり返らないこと。その看板がなくなった時に、何もできない人にならないようにしたい。それだけはずっと今も、毎日思っていることです。
――個人として何が出来るのだろうか? ということを考え始めるようになられたということなんですね。
フリーランスになるとか、個人事業主になろうということではないんです。今ね、私と社長と取締役とで、定年退職するメンバーのお祝いの会をやることがあるんです。ここ最近、商品部門の専門職の方で、定年退職される方がいらしたんですが、技術職や生産の方、手に職をお持ちの方って、辞められる時が清々しいんですよね。退職して肩書きゼロになっても、手に職がある。肩書きなんて、そんなもの必要ないんです。こういう人たちは会社に絶対必要だからと言われ、働いてほしいと請われるんです。こういったスペシャリストの方達を目の前にすると、どんどん大きくなっていく会社名と私自身の役職、それは横に置いておいて、私は何ができる人なんだろう、というのを一方で考えておかないといけないなって思わされます。
――年齢を重ねていく上で誰しもが考えることなんでしょうか。
そうかもしれないですよね。私はもちろん、今置かれている立場としてやるべきことはやります。ただ、やり方のシフトチェンジは必要だと思うんです。若い頃は深夜1時までやっても、翌日のパフォーマンスは落ちなかった。でもその仕事の仕方は5年後、10年後には通用しない。絶対自分がやらなくてはいけないことと、誰かに振るべきことの選別や、無駄なことを削ぎ落とす。すべきことに集中し、短い時間でしっかりとしたパフォーマンス出すためにどうすべきか? は仕事では常に考えています。
人生全体で見ても、やらなくていいことを削ぎ落とすことを意識している気がします。あれもやる、これもやるじゃなくて、もう終わりが見えているので、どちらかというとエンディングに向けて何を減らしていくべきか? を考えています。減らすって少し勇気がいるかもしれない。でも、そこにはマイナスなことは存在しなくて、その作業をすることで自分がやりたいことが明確に見えてくる気がするんです。常に目の前にやってきたことを楽しみながら進んできた私。今度は削ぎ落とした先に、何があるのか! ワクワクしています。
撮影/BOCO 取材/上原亜希子