「中学受験のその後」のミライをハッピーに導くにはどうしたらいい?脳科学者・茂木健一郎さんに聞きました!
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教えてくれたのは…脳科学者・ 茂木健一郎さん
1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。今年行われた「脳科学から見た中学受験」の講演では会場に入りきらない程の人が集まる反響ぶり。
中受体験で燃え尽きてしまう子、自信を持ち伸びる子――。 その分かれ道は?
◇ ゾーンに入って勉強を楽しめる子は脳のドーパミン構造が持続可能に
中受を体験する12歳の頃は、蝶でいうとサナギの状態。脳科学的にいうと、安全な場所、親元を離れて独り立ちする脳回路の切り替えのタイミングです。この脳のモードの切り替えには、苦しみを伴います。そこに受験のトラウマも重なると、その苦しみの大きさは12歳にとってかなりのものでしょう。
では、この時期に体験する〝中受”で燃え尽きてしまう子、自信を持ってグングン伸びていく子の差は何だと思いますか?
それは、“中受”という目的のために勉強するのではなく、目の前にある勉強、“今”を夢中になって楽しめているかどうかです。幼い頃に夢中になって遊んでいた時のような脳の状態は、最も脳がよく働き、パフォーマンスも上がるし、学びも大きいんですね。
「塾の先生や親に言われたから」と、受験に取り組んでいると、前頭葉を中心とする自立を育めない原因にもなりかねません。勉強だけじゃなく、絵でも漫画でも、何かに純粋に集中できる子は、脳が育つ。そんな子は、合否にとらわれず、その先の人生も切り拓いていける。それこそがカギですね。
夢中になること、集中力はフローとかゾーンと呼ばれますが、この状態の脳を作るのには、3つの定義があります。
1つは「時間の経過を忘れる」、2つめは「時間の存在を忘れる」、3つめは「自分の存在を忘れる」こと。そして、ゾーンに入る勉強法としては、「ゲーム化する」という方法が有効です。勉強もダラダラするのでは意味がなく、「自分にはこの問題を解くのに何分必要なんだろう」と自身で判断してギリギリで時間設定します。そして、先生や親が決めた目標でなく、自身の目標をクリアできたことで、脳のドーパミンという報酬を得る構造が出来上がります。トップアスリートや、研究者はそうやって持続可能なカタチで楽しんでいるんです。
日本は受験のための勉強になりがちですが、今、世界の教育は変化しています。ハーバード大学では、ペーパーテストの点数でなく、クリエイティブとオリジナリティが発達している子の評価が高く、合格している傾向にあります。そういった創造性、クリエイティブな脳を最も育てるのが感動体験。自然でも、人でも、芸術でも、思春期に感動が脳に与える影響は大きい。僕は、小学校5年生の時にアインシュタインの相対性理論を読んで感動して学者を志したんですよ。
そして、今の時代、もう一つ大事なのが「選ぶ」力。偏差値では選べない多様な学部や学校の中から、親は情報を集めて理想図を広げてあげることが大事。その中から好奇心がくすぐられてやりたいことが見つかった子は強い。狭い範囲の情報だけでなく、親自身がどんな未来を描けているかも試されています。
僕は、学歴社会は好きではありませんが、〝中受”自体に反対しているわけではありません。中受は、子どもにとって等身大の自分を知り、受け入れるチャンス。そして、思春期に脳を育てる絶好の機会です。「子どもを幸せにするための方法」それを忘れず、そんな大きなチャンスに親子で向き合ってみてください。
・勉強をゲーム化してドーパミンを出すべし!
※ゾーン状態とは……
・時間の経過を忘れる
・自分の存在を忘れる
・目標を忘れる
撮影/吉澤健太 取材/山崎智子、小出真梨子 ※情報は2024年6月号掲載時のものです。