カンヌ国際映画祭にも出品された、6月20日公開の話題の映画『ルノワール』で11歳の主人公フキの母親、沖田詩子役を演じた石田ひかりさん。仕事も家庭もどこか満たされない不穏を抱える女性を見事に演じられています。そんな石田さんに、ご自身が40代の時のお仕事や子育てについてお話をお聞きしました。(1記事目/全2記事)
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40代は恐怖心から始まりました
STORY編集部(以下同)ーー40代の女性は、今回演じられた沖田詩子のように子育てや仕事、介護など多くのタスクがあります。ご自身の40代はどのように過ごされていましたか
私は31歳で長女、32歳で次女を出産しました。40歳を迎える頃は、ちょうど子どもたちが小学生で、私は子宮内膜症の手術を受けたんです。その入院中に、東日本大震災が起きました。動けない体で感じたあの揺れは、言葉にならないほど怖かったですね。なので、40代の最初の数年は恐怖感がすごく大きかったのを覚えています。仕事には少しずつ戻りましたが、まだ子どもたちは手がかかるし、夫も仕事で忙しくて歯車が合わないというか。そんな中で、父の病気もありました。子どものこと、自分のこと、そして親のこと。すべてを同時進行でやっていかなければならない。
振り返ると40代って、一番大変な時期だったと思います。

思春期の子育ては難しかったです
ーー2人の娘さんがいらっしゃいますが、子育てで大変だったことはありましたか
もう娘たちは成人していますが、思春期を迎えた娘たちとの距離感は難しかったです。うちの娘は2人とも内向的なので、彼女たちの心と体にどんな変化が起こっているのか知ることは非常に難しかったですね。伝える言葉も選ばなくてはいけないし…小学校高学年の頃が一番難しかったです。話をしてくれなくて親子のコミュニケーションをとるのが難しくなったときは、私の母の力を借りました。子ども達も母親の私よりもおばあちゃんの方が話しやすいかなと思って。やんわり母に話を聞いてもらって橋渡しをしてもらっていました。
子育てって、本当に難しいと思います。でも、私はずっと子どもたちに「人生って楽しいんだよ、大人になるのって悪くないよ」というのを伝えたいと思っていました。それをどうやって伝えるかは、何かパフォーマンスをするというわけでもなくて、きっと子どもたちは、私や夫の背中を見て、何かを感じ取っていたと信じたいですね。

結婚したら山口百恵さんのように引退するつもりでした
ーー仕事と子育てはどのようにバランスをとっていましたか
実は、子どもが生まれたら芸能の仕事をスッパリやめようと思っていたんです。山口百恵さんのように潔く(笑)。専業主婦に憧れていたし、私にはそれが絶対に向いていると思っていました。
でも現実は、子どもを産んだ直後、私は軽い育児ノイローゼのような状態になっていました。夫も仕事が忙しくて帰宅するのが遅かったですし、今でいうワンオペ状態でした。すべてが自分の責任、すべてを一人で頑張らなくてはいけない——そんな思い込みで、自分をどんどん追い詰めていたんです。夜は娘たちと一緒に9時に寝て、朝5時に起きる生活を続けていました。
疲れを残したまま一日が始まるのが怖くて……「朝が来るのが怖い」と思ったこともあります。たくさん泣きましたし、夫や子どもに八つ当たりをしてしまうこともありました。
“このままではいけない”と少しずつ仕事を再開したのですが、現場にいても子どものことが気になって仕方がなくて。心と体がついていけない状態が何年も続きました。仕事に戻るなら、やはり心も体も整えてちゃんと準備してから再開すればよかったと思います。子どもがある程度、大きくなってからは朝に夜ご飯を作ってシッターさんか母に子どもたちをお願いして、リフレッシュして、仕事に出ることがすごく気分転換になりました。家の中だけにいると煮詰まってしまっていたんだなと。
私にとっては外に出て社会とつながることは、精神的にもすごく大切で必要なことだと改めてわかりましたね。
衣装協力:ジャケット ¥39,600Tシャツ¥26,400 (アダワス/ショールーム セッション) デニムパンツ ¥28,600 (サージ/ショールーム セッション )ネックレス ¥297,000 ピアス ¥110,000 リング ¥462,000 バングル ¥297,000 (トーカティブ/トーカティブ 表参道 ) 靴 (スタイリスト私物 )
問い合わせ先
ショールーム セッション 03-5464-9975
トーカティブ 表参道 03-6416-0559
撮影/古水良(cheek one) ヘアメイク/山谷友里恵 スタイリスト/藤井亨子 取材・文/山﨑智子

石田ひかりさん出演。6月20日公開、カンヌ国際映画祭に出品された話題作。
【あらすじ】日本がバブル経済絶頂期にあった、1980年代のある夏。11歳のフキは、両親と3人で郊外に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままな夏休みを過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は複雑な事情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。だが、闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれ、フキの日常も否応なしに揺らいでいく――。
■映画『ルノワール』公式サイト https://happinet-phantom.com/renoir/