『流浪の月』、『汝、星のごとく』と、40代で2回の本屋大賞を受賞した凪良ゆうさん。
様々な年代の“結婚しない男女”を描く新著『多類婚姻譚』は、
先日発表された、2026年の直木賞にノミネートされ、話題に。
結婚生活を重ねる中、夫婦のカタチが変化してくるジャスフォー世代、
子どもが成長して夫婦二人の時間が増えるアネフォー世代と、
40代は夫婦関係について立ち止まって考える世代でもあります。
今、なぜ”結婚“をテーマに、結婚に踏み切らない男女を描いたのか――?
凪良さんの30代、40代の経験から導かれた、その理由についてお聞きしてみました。
★ 離婚で自由を手にした30代は、不安をかき消すように仕事をして経済力をつけた
★ 自らの力で食べられるようになった40代、ひたすら仕事が楽しかった
★ 今の時代、結婚制度自体を見直すべき!?
“結婚”をテーマにしながら、「誰も結婚していない物語」を書きました
私の新著『多類婚姻譚』は“結婚”をテーマにした5つの物語ですが、主人公の
5人誰もが、結婚に踏み切らないんです。
そもそも、一つ屋根の下で、育ってきた環境も性格も異なる人間が一緒に暮らしていく
ということは、本来すごく大変なこと。
特に今は、「個性を尊重しよう」とか、「自分のスタイルを持って生きよう」といった風潮で、
そんなふうに生きる人たちが男女問わずカッコイイと言われる時代。
でも、そんな時代感と“結婚”に必要な「忍耐」とか、「譲り合いの精神」というものが、
ちょっと噛み合わせが悪くなってきているんじゃないか――そう思うことが多くなってきました。
今は仕事をする女性も多く、“結婚”ということを考え始めた時、「今までと同じような働き方が出来るのか」
「出産していったん育児に専念するのはいいけれど、経済力を手放してしまうのは将来的に不安……」と、
一度考えて立ち止まることになります。
そして、40代に入ると、手放してしまった自由や、自分らしい生き方を、
もう一度取り戻したくなる。
そう、“結婚”って、男女どちらにとっても負荷のかかるスタイルだと思うんです。
そして、男女平等やジェンダー平等が叫ばれる現代においても、
やっぱりどちらかというと女性の負担が大きい。
どれだけ意識の高い男性でも、いざ結婚生活になると家事の得手不得手や、
細かなところまで目が行き届きにくいという問題もあって、
家事の負担はどうしても女性のほうにかかります。
それに、美容医療だって発達した昨今、大人の女性はキレイでイキイキしていなくちゃいけないし、
仕事もしていなくちゃいけない。
家事をして、産んで、育てて、さらに稼いで、職場では機嫌よくポジティブでいなくてはいけないなんて、
女性は自由になった一方、なぜか昔よりもずっと大変という状況です。
もちろん男性に悪意があってのことではありませんが、
そこに歯がゆさや怒りみたいなものがずっとあったんです。
人は、「”好き”、”愛している”から共に生きたい」とか、「老後一人では寂しいから」
といった様々な理由で結婚に踏み切ると思うのですが、
結婚というシステムを通して現代を生きるさまざまな人物を描くことで、
これまでのモヤモヤした気持ちを少し整理できた気がします。
離婚で自由を手にした30代は、不安をかき消すように仕事をして経済力をつけた
私自身、40歳で離婚を経験していますが、すごく自由で楽しい日々を送っています。
離婚してしばらくは、「ちょっと寂しいな」とか、「これから1人でずっと生きていけるのだろうか?」と
気持ちが落ち込んだこともあったのですが、それも短い期間のことで、
それが過ぎた後は、「好きに働いて、好きなときに好きな人たちと会って、誰にも遠慮しなくていい。
そこそこ生きていけるし、こっちのほうが断然楽しくない? いい!」と思いましたね。
とはいえ、経済的な不安はありました。
だから、とにかくキャリアを積むんだ、自分の足場を固めるんだとがむしゃらに仕事をしました。
1年で8冊本を出したのも、この時期です。
“離婚”となった時に、しっかり一人で稼ぐこと、経済力を持つことが、
本当に大事だと痛感して、これから誰と出会って別れようと、相手に振り回されることなく、
生活基盤が一切揺らがないようにしようと決めたんです。
それであのころは、本当に朝から晩までずっと仕事していまいした。
朝起きてはまず書いて、ご飯を食べてまた書いて、お風呂に入って寝るまで書いてと、
そんなルーティンを、365日ずっとやっていました。
もともと人付き合いがいい方ではなかったので、家に閉じこもってひたすら
仕事をするのも、特に苦ではなかったんです。
それに、仕事とはいえ、私にとって「書くこと」は何より好きなことですから。
そして、ほかの仕事が何一つ続かなかった中、唯一続けられたのが「作家業」。
私はたいした学歴も職歴もないですし、この仕事がなかったら、
離婚した後、のたれ死んでいたかもしれません。
自らの力で食べられるようになった40代、ひたすら仕事が楽しかった
私は母子家庭で育ったのですが、20代の終わりまでは、もう生きていくだけで精一杯でした。
仕事も選べなかったので、食べていくために、とにかくできる仕事は何でもやりましたね。
結婚したのは29歳。
たまにパートはしたものの、ほぼ家にいることができたおかげで、
幼い頃に自身を励ましてくれたもの、「小説」を書いてプロとしてデビューできました。
時間もお金もカツカツでは、なかなか小説なんて書くこともできませんから。
作家になる足がかりをくれたことだけは、元夫に感謝しています。
でも仕事をはじめてから、それまでのように完璧な家事はできなくなりました。
そのうち収入が逆転して、様々に揉めることが多くなり、
最終的に離婚となりました。
作家デビューをしてから5、6年で迎えた40代は、
もうひたすら仕事が楽しかった。
誰にも依存しなくていい。
自分の好きな仕事をしながら、自分を食べさせていくことができる。
その“楽しさ”、そして“喜び”は、40代になってから初めて得たものでした。
だから、若さゆえにキレイと言われる10代、20代よりも、40代からの10年の方が、
キレイかどうかはさて置き、自分自身輝いていたと思いますし、本当に楽しかった。
女性の40代は、本当に楽しくていい時代。
でも、その楽しさは、自らの“経済力”があってこそ。
だから、もし今経済的に不安がありながら離婚を考えている人がいるとしたら、
とにかく旦那さんにはイイ顔をして油断をさせておいて、その間に仕事のスキルを
しっかり磨いて経済的基盤を固めるように、とアドバイスしたいですね。
「どこか満たされない」という思いが拭えない人は、その思いを一生抱えたくないとしたら、
どこかで腹をくくって頑張るしかないんです。
でも、そうして一度“経済力”が成り立つと、
後は「自由で楽しい!」しかありませんから。
今の時代、結婚制度自体を見直すべき!?
多様性が謳われ、個人の権利が尊重される現代においても、
結婚は大きなライフイベントのひとつです。
する、しないに関わらず、結婚について一度も考えたことのない人は少ないでしょう。
けれど、それがすべてではない。
男女の間にも友情はあると思いますし、そもそも、人生100年時代と言われる今、
20代、30代で出会った人とずっと一緒に生きる「結婚」という制度自体、
どこか無理がある気がします。
それに、相手を選ぶチャンスが一度しかないというのも、ちょっと時代にそぐわない。
ただ、子どもを産み育てるということが主目的であるとすると、
男女の共同事業として「結婚」という選択は、正しいのかもしれません。
とはいえ、今の時代、「結婚」という制度によって結ばれている男女の関係は、
10年、20年ごとに見直しをしてもいいかも—―とも思います。
『多類婚姻譚』
一緒に生きる。わかりあえないあなたと。
一番近くにいる他人-こいびと-。どうして結婚はこんなに難しくなってしまったのだろう。
『流浪の月』『汝、星のごとく』で二度の本屋大賞を受賞した著者が描く、今そこにある愛のかたち。
セクシュアリティ/ジェンダー、金銭感覚、世代間格差、成育環境……
あらゆる価値観の対立の中で現代を生きるわたしたちの祈りと叫び。
発売即大重版にて、早くも12万部突破!
¥2,090(税込)<講談社>
撮影/田頭拓人 取材・構成/河合由樹





















