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Lifestyleママとパパに贈る「ジェンダーレス学」

【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.3】「日本の社会では、子どもの人生を『子どものためだけの人生』とは思えない」

「結婚と家族」について③

Q.これからの時代、「結婚すべきかどうか」は「家族形成をしたいかどうか」だとお聞きしましたが、一方で「シングルマザー」も増えています。「シングルマザー」に対しての公的補助制度についてはいかがでしょうか。

シングルマザーになる原因のなかで、今いちばん多いのは離別ですが、最大の問題は離別した夫からの養育費の支払いがないことです。
そもそも離婚時に養育費の取り決めをするカップルがわずか1/3。そして養育費の支払い額の平均は、月に2万円から4万円と極めて低い。その上、取り決めをしても、その支払いが継続しない。1年半ほどで疎遠になって中断し、男が再婚したらほぼ完全に途絶えます。
さらに、日本の制度には、養育費を男から強制徴収する仕組みがありません。外国には養育費を給料から天引きするような強制徴収の仕組みがあるところもありますが、日本は男が逃げやすい社会、制度が男に甘い社会を作ってきたんですね。

Q政治家が踏み込んでないからですか?

政治家自身もそうやって逃げてきたし、男の責任を追求する政治家が出てこなかったからじゃないでしょうか。シングルマザーへの公的補助も低額なだけでなく、ことあるごとに減額されてきました。それを押しとどめようと、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむのような民間団体が頑張ってきたんです。
シングルマザーには死別>離別>非婚の順に序列があります。わけても差別されてきたのが「非婚シンママ」。「自分勝手でふしだら」と思われてきたのでしょう。実際には無責任な男に逃げられたケースが多いのに。非婚シンママも死別・離別シンママと同じように扱え、と長いあいだ要求してきましたが、ようやく一昨年には、自民党の女性議員、稲田朋美さんが党内に働きかけて実現しました。そんな女性政治家も与党には今まではいませんでした。

Qやっぱり女性の政治家を増やさないといけない?

女性なら誰でもいいわけではありません。選択的夫婦別姓にさえ反対している自民党の高市早苗さんのような政治家もいますからね。
シングルマザーの平均年収は200万円程度、非正規雇用の場合には130万円台です。その上、多くが子どもという扶養家族があります。離別・非婚・死別など理由を問わず、その多くが経済的に困窮しています。
一方で、離婚率は上昇しています。最近の傾向は、子どもがいることが離婚の抑止力にならないこと、子どもが小さいことも離婚の抑止力にならなくなってきたことです。。乳幼児を抱えていても、妊娠中でも、離婚する時はします。
昔の親たちは「この子を大人にするまでは」とか、「娘をこの家から嫁に出すまでは」といって、離婚を先延ばししてきました。そうすると年老いてしまう。今はバアサンになる前に、さっさと離婚しちゃいます。その先に経済的な困難が待ち受けていると分かっていても、「別れる」という選択をするようになった。
離婚の大きな理由が、DVと婚外異性関係。それもまた、かつての女たちがガマンしてきたことです。今の女性たちは、経済的困難があってもガマンしなくなった。
ガマンしない女たちが増えたのはとってもよいことです。離婚の自由があることは、それがないことより、ずっとましです。
男性たちもそれを認識すべきでしょう。「結婚は上がりじゃないよ」「結婚したって捨てられるよ」って。

Q.個人的な話なのですが、私の甥が先日結婚しました。母親である私の姉(シングルマザー)は、ずっと「嫁が気に入らない」と言っていて……。やっぱり母親はそういうものなのでしょうかね?

逆に、そうでないようなケースが想像できません(笑)。
シングルマザーだからということではなくて、ありとあらゆる母親が自分の子どもが選んだ配偶者を気に入らないでしょう。

Q.どうしてなんでしょうか?

子どもを自分の所有物だと思っているからです。どんなにすばらしい配偶者を見つけてきても、子どもが自分で選んだというだけで気に食わないでしょう(笑)。
日本は自助努力の社会ですから、子育てにしても教育にしても、親の負担はものすごく重い。それだけテマヒマかけて育てた子どもなのだから、自然と親は所有物意識が強くなります。子どもは自分の「作品」だから、子どもの人生を「子どものためだけの人生」とは思えないのです。
だから、私は東大生によくこう言いました。

「ここにひとりで来られたと思うなよ。あなたには、親のテマもヒマもお金もエネルギーもかかってるんだからね。それに全部ヒモがついてるんだからね。親はそれを回収する気でいるからね」って(笑)。

Q.親は余計に手放したくなくなるわけですね?

子どもを自分の思うようにコントロールしたいのでしょう。なかでも配偶者は大事な選択ですから。
子どもの方でもわきまえていて、「親の気に入るようなひとしか選べない」って言いますよ。

Q.先生は初回のお話で、家にこもりきりだった大学院生時代に結婚を望んだということでしたが、女性はネガティブな時に結婚を考えやすいんでしょうか?

女性は後ろ向きな理由でしか結婚しないのかな、って思ったエピソードがあります(笑)。
以前、保健師専門学校で「女が結婚を決意する時」というブレインストーミングを行いました。びっくりしたのは、次々出てくる意見が「仕事で自信を無くした時」とか「気持ちが落ち込んだ時」「将来に展望が見えない時」……。
結婚を決意する上で「このひとを愛したから」とか「一緒にいたいと思ったから」というポジティブな理由が出てこないんです。だから、一日おんもに出ないとネガティブになるのよ(笑)。

Q.でも、そういう昔の思い出があると、ちょっと胸が温かくなりませんか?

そうですね(笑)。よい理解者でした。
私たち団塊の世代は、「ないない尽くしの時代」に育ちましたが、団塊ジュニア世代はいろいろなものを与えられて育ってきた人たちだけに、守りに入っている気がします。だから結婚の条件が上がる一方で、選択が遠のくのは仕方がないこと。STORY世代の方には「結婚はもはや上がりではない!」と伝えたいですね。
結婚というのは家族戦略です。実際、日本のように子育てと介護に自助努力が期待されている社会では、親族間の相互援助関係というのはすごく強いんです。
最近「親ガチャ」って言われてるでしょ。親に資源があるかないかが、子どもの生活を左右します。親の資源の中にはプラスの資源とマイナスの資源があるのですが、それには資産があるかないかだけじゃなくて、親が健康かどうかなど、多くの要因がからみます。
孫の子育てを祖母が担ってくれるというのはプラスの資源。一方で、子育てをしながら親の介護もしなければならないとなるとマイナスの資源。親は資産にもなるし、負債にもなる。人によって大きく違ってきます。

Q.私の子どもが30歳で結婚するとします。30年もの社会の変化は大きいのでしょうか。「私の頃は……」というのは通用しない?

はい。完全に時代は変わりました。昔は息子が結婚するときに「嫁」という従僕がついてきた。でも今は自分でさえが、もうそんな嫁の役割をやっていない世代。事実、夫の親族より、自分の親族の方を優先してるでしょう? 自分の次の世代の女たちは、もっと変わっていくでしょう。

 

取材/東 理恵

上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。

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