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Lifestyleママとパパに贈る「ジェンダーレス学」

【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.7】「1985年に成立した男女雇用機会均等法から女性の分断が始まりました」

進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるだろうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。

【上野千鶴子のジェンダーレス連載vol.1】「今の子どもたちは、親が送ったような人生は送れません」

「職業と男女」について④

Q.まず、男性と女性の賃金格差や、正規雇用と非正規雇用での格差もありますが、それについてどう思われますか?

今、日本の女性就業率は約7割で、アメリカやヨーロッパの国々を越えました。

日本の女性の就業率

ところが、働く女性の10人に6人が非正規雇用というひどい状況です。
非正規の何が問題なのかというと、まず第一に賃金格差です。同じ仕事をしても、正規雇用の半分~3分の2ぐらいの賃金しかもらえません。

雇用形態別雇用者数 非正規の職員・従業員割合 1984年~2019年

↑ 2013年以降は総務省統計局「労働力調査」(基本集計、年平均)、2002年以降2012年までは総務省統計局「労働力調査」(詳細集計、年平均)、2001年以前は同「労働力調査特別調査」(2月)

その次の問題が不安定雇用。圧倒的に有期雇用が多く、雇用保証がありません。
そして、3つめにキャリアパスがないこと。そこから這い上がっていくためのルートがない。最悪の労働です。
非正規労働を急速に増やしてきたのが90年代から30年間続いている雇用の規制緩和です。これを推し進めたのがネオリベ、いわゆる新自由主義改革で、その智恵袋がエコノミストの竹中平蔵さん。彼は、今でも経済財政諮問会議の専門員をしていますが、政界を離れてから、㈱パソナの会長になりました。

Q派遣業の大手ですもんね……。

そうです。首尾一貫していますね、感心しました(笑)。自分で規制緩和しておいて、儲かる業界のトップにつくなんて。
データを見ると、正規雇用は横ばいで、もっぱら増えたのは非正規ばかり。なぜそういうことになったかというと、経済界の要請に応え、賃金を抑えるからです。この30年間で日本社会の低賃金構造ができあがりました。
前回、総合職女性の能力と気配りの話がありましたが、私が東大女子の卒業生に聞いたところ、彼女たちはお茶汲みなんてやってません。でもその一方で、もっぱらお茶くみをやらされる非正規の女性が職場にいます。
昔の二重労働市場は、男性のあいだで、学歴と企業間格差で分かれていました。どの会社に入ったかという最初の入り口のところで格差ができました。ところが、そこにジェンダーが加わり、女性が参入すると、今度は正規と非正規の問題が発生します。今は同じ企業の中に、机を並べて正規と非正規がいます。社内格差です。
非正規の女の人たちがどんな扱いを受けるかというと――

私の友人で優秀な女性がいるのですが、非正規で3年おきに勤務先を転々としていた彼女は「毎日がハラスメント」と語っていました。
露骨な嫌がらせじゃなくても、ランチを誰と一緒に食べるか、そこに誘ってもらえるかどうか、あるいは、ちょっとした支給品の違いなど、細かいところで差をつけられます。正社員に仲間意識を持ってもらえず「ハケンさん、ハケンさん」と呼ばれます。

Qでも、派遣の人たちがいないと成り立たないところいっぱいありますよね?

そういう社会にしてしまったんです。その仕事がなくてはまわらないなら正社員を増やせばいいでしょう。それがイヤだから、つけはずし自由の非正規労働者に置き換えたのです。
30年かけて、低賃金構造を作り出すためにそうしちゃったわけです。
もっと具体的に言うと、1985年に成立した男女雇用機会均等法から女性の分断が始まりました。1985年が「女性の格差元年」です。
以前だったら、正社員の女性は結婚すると寿退職してくれました。それが、会社に居座るようになった。居座るようになったら、経営者は“正社員には高い給料を払っているのだから、そのぶんしっかりと働いてもらおう。高い給料払ってる女にお茶汲みをやらせるのはもったいない。そこは派遣で補おう”ということになってきた。
女が会社を辞めなくなったから、逆に、有期雇用で辞めさせることのできる女を雇うようになりました。
そういう構造を作ってきたんです。はっきり言って、人災です。

Q.経営者って、ずる賢いですね……。

巧緻にたけてるというか。
労働者派遣法についてはを何度も改正を行い、非正規でも3年勤続した場合には正社員転換の義務があるという規定を作りました。会社はそれを避けるためにどうするか――2年11カ月で辞めさせるんです。
あるいは1年契約の場合でも、例えば11カ月契約にして、1カ月あけて再契約という具合に。
経営者は知恵者ですから、私たちはやられっぱなしです。
一方で、共犯関係にあったのが連合(日本労働組合総連合会)を初めとする労働組合です。自分たちの雇用保障さえ守れたらOKと思っているオジサン労働者団体は多いです。彼らは非正規の女性たちを組織化してきませんでした。
そして、今になって労働組合の組織率が低くなりすぎると、慌てて非正規のほうに目を向けるようになった。
派遣に限らず、非正規労働を生んだ根本的な理由は、世帯単位で稼ぎ主の男がいれば、女は家計補助型労働でいいだろう、という考えです。“家計補助なのだから、この程度でいいだろう”という。
いちばんの癌は「扶養控除103万円の壁」と「特別扶養控除130万円の壁」。これがあるから既婚女性は就労調整をするわけです。これを超さないように働かせて、賃金を抑え、さらに経営者が保険料負担をしなくてもすむ。この制度は「専業主婦優遇策」と呼ばれていますが、誰がトクをするか、考えてみたらよくわかるでしょう。
最大の問題は、そんなジョブカテゴリーを女性向けに作ったということ。こういう仕事を、「job for pin money」と言います。pin moneyというのは、はした金のこと。こういうワリの悪い労働に女性が入っていったのではなく、「女性向け」にこういう仕事をつくったのです。
でも130万円では、離婚したってひとりじゃ食えない。だから男にくっついているしかない。だけど、家計補助が必要だという仕事を、既婚の女向けに作りました。
ただし、そこに番狂わせが起きます。
90年代以降の不況下で、非婚者やシングルマザーが既婚女性向けに作られた非正規労働市場に参入していきました。この人たちは自分で働かないと自分を食わせられない家計支持型の労働者です。コロナ禍のもとで、その人たちがシフトを減らされたり、派遣切りにあったりして、深刻な問題に直面しています。

取材/東 理恵

上野千鶴子 1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。

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