親子の15分性教育ワーク。今回は女らしさ、男らしさの押し付けについてです。
いくつかの小学校で保健体育の授業をしていますが、その度に気になっていることがあります。それは「女の子は正解を探しながら発言していて、男の子は失敗を恐れないでバンバン答えている」ように感じられること。
授業の様子を客観的に分析したわけでもなく、あくまで私たちの肌感覚になってしまうのですが、どの小学校でも、どの学年でも同じような印象を持っています。
私たちの授業では、子ども達に意見を求める場面が多く、性別に関係なく発言する子はたくさんいます。その中で、女の子は「これが正解かな」と探りをいれながら答えることが多く、男の子は「そもそも、質問の前提条件がおかしくない?」と鋭い指摘をしたり、自分の体験したことを混ぜて答えたり、真正面からドーンとくるような回答が結構出てきます。
慎重に発言することと、元気に発言することは、どちらでもいいと考えますが(そもそも授業中に発言する、発言しない、授業を聞かないなど授業の受け方は子ども本人に選ぶ権利があるので)、発言内容に性別で差が出ていることが気になっています。
子育て関連の書籍や記事で、「男性脳と女性脳」といった用語を使って、「人はそもそも性別によって脳に違いがあり、『女の子は周りをよく見ていて、おしとやか』『男の子は宇宙人、やんちゃ』」と、性別による考え方や行動の違いを説明されているのを見かけたことがあるかもしれません。
一見分かりやすい理屈ですが、「男性脳と女性脳」の話はいくつかの研究で否定されています。性別によって女の子と男の子の行動パターンや考え方が異なっているのは脳の構造の違いではなく、周りの大人の育て方や環境が原因といわれています。
思い起こせば、「(足を投げ出して座っていると)女の子なんだから足を閉じて座らないと」「(女の子なのに)乱暴な言葉づかいはだめだよ」といった「おぎょうぎ」について、女の子の方が男の子よりも注意されている気がします。周りの大人から繰り返し言われることで、「物事には正解がある」と認識し、慎重な発言や行動をするようになるのかもしれません。
そして、男の子がのびのびとくらしているかと言うと、そんなこともありません。数年前、地元の神社で行われていた相撲大会を見に行った時のことです。思い切り投げだされて、地面に叩きつけられた子が大きな声で泣いていました。それを見た周りの大人(主に、おじさん方)数人が、泣いている子に向かって「男の子!男の子!」と叫んでいました。これは「男の子だから泣くんじゃない!」という意味で性別を連呼していたようでした。
他にも、「うちの子(息子)は気が弱くて、なぐられてもなぐりかえさないから心配」と知り合いが言っているのを聞いたこともあります。
このように「男の子は弱音をはいてはいけない」「強くなくてはいけない」という「男らしさ」のおしつけは、まだまだ根強くて、女の子とは違った窮屈さがあります。
「女の子らしさ」「男の子らしさ」をおしつける言葉は、まるで「のろい」のよう。その子を抑えつけ、行動を制限され、苦しくなる子もいます。また、性別による「らしさ」を絶対的な正解と思うことで、そこから外れた人を攻撃してしまうこともあります。
今回のワークは、「女の子らしさ」「男の子らしさ」をおしつける、「のろいの言葉」を見つけよう、というもの。
自分の体験や、動画、マンガ、本、色々なところに「のろいの言葉」は散りばめられているので、それを子どもと一緒に語ってみてください。
もし、子どもから、親自身が「○○(のろいの言葉)と言ってた!」と指摘されたら、素直に謝りましょう。
私たち親世代の中には「女の子はおしとやかに」「男の子はリードして」「女性は仕事をするとしても、育児や家事と両立を」「男性は働いてかせがないと」と、たっぷり「のろいの言葉」をおしつけられてきた人がいると思います。今回のワークを子どもと一緒にやると、自分にかけられてきた「のろいの言葉」を振り返る機会になるかもしれません。
それではワークをはじめましょう
②親子で読める!「女らしさ」「男らしさ」を吹き飛ばすマンガ、本4選
①「のろいの言葉」を見つけて、「バリア」を張ろう!
「『女の子らしさ』、『男の子らしさ』をおしつけること言われたこととか、誰かが言っているのを聞いたことある?」と、お互いの経験を話してみてください。
子どもがいまいちピンと来てなければ、「たとえば『男だから泣くんじゃない!』みたいな」と、いくつか例を挙げてみるといいと思います。下のイラストも参考にしてください。
また「テレビとかマンガとか、本の中ではどうかな?」と聞いてるのもいいです。ヒットしているマンガとか、ご長寿アニメとか、「女らしさ」「男らしさ」はメディアの中にたくさん出くるので意識すればたくさん見つけられます。
そして、「のろいの言葉」から身を守ってくれる「バリアの言葉」もセットで考えてみましょう。
たとえば「男だったら泣くんじゃない!」という「のろいの言葉」に対して、「男の子だって泣いてもいいよね」と返すのが「バリアの言葉」です。
「バリアの言葉」をたくさん持っていることで、家庭の中や、友達とのやり取りの中で、「のろいの言葉」を言われた時にはねのけられます。
この下に、「のろいの言葉」「バリアの言葉」の例をいくつかのせておきます。
のろいの言葉:「女の子はおぎょうぎよくしないと」
バリアの言葉:「性別に関係なくおぎょうぎはよくしたほうがいいかもね。ただ、おぎょうぎのことしつこく言われたらウザいよね」
のろいの言葉:「男だったら、殴られたら、殴り返さないと!」
バリアの言葉:「どんな時でも殴っちゃだめだよね。もし殴られたら誰かに相談するのが一番いいよ」
のろいの言葉:「女の子は髪型とか洋服とかに気を使わないと」
バリアの言葉:「髪型とか、洋服とかをどうするのかに性別は関係ないよね。自分の好きにすればいい」
のろいの言葉:「(かわいいものが好きな男の子に向かって)お前そんなの好きな!?女みたい」
バリアの言葉:「どんな性別でも、かわいいものが好きでいいよね。そもそも悪口に『女みたい』という言葉を使うのって、女性を下に見ているようで、どうかと思う」
②親子で読める!「女らしさ」「男らしさ」を考えるマンガ・小説4選
・君の心に火がついて(著・ツルリンゴスター)
「恋愛はして当然」「男の子がメイクするのは変」「妻は家庭の中にいて、家事育児をして当然」など、「あるべき姿」を押し付けられて、苦しんでいる主人公達の前に、人間の心に灯る「火」を食べる焔という妖怪が現れる、というマンガです。
漠然とした苦しさをはっきりと言葉にすることで、「あるべき姿」を押し付ける人に立ち向かったり、丁寧に対話を重ねたりなど、主人公と焔の姿に勇気づけられる、そんな素敵なマンガです。大人も子どもも、グイグイ引き込まれるストーリーが詰まっています。
・あの時も「こうあるべき」がしんどかった(著・パレットーク、マンガ・ケイカ)
学校や家庭の中、会社の中で「こうあるべき」をおしつけられてモヤモヤしたり、辛くなったりするこがあると思います。このマンガでは色々な視点から「こうあるべき」を押し付けられたエピソードを丁寧に紹介されています。各エピソードについている分かりやすい解説も参考になります。
このマンガの著作、パレットークさんのインスタグラムもオススメです。
・ニッターズハイ!(著・猫田ゆかり)
手芸部にいる男の子が主人公のマンガです。男の子同士の中の良い感じは「ボディコンタクト多め」「ザ体育会系」みたく描かれることが多いですが、このマンガでは優しく描かれています。
このマンガ、出てくるキャラが魅力的で、ストーリーも面白く、猫がかわいいと、お伝えしたいことがたくさんあるのですが、文字数的に語りつくせないので、とりあえず読んでみてください。
・ソーリ!(著・濱野京子)
総理大臣になりたかった女の子が主人公の小説です。性別のこと、ジェンダーのこと、政治のことについて扱われています。小学校高学年向けですが、大人が読んでも楽しめます。
おつかれさまでした!
次回は、「家族」や「結婚」について考えてみましょう!
〈次回へ続く〉
イラスト/ばばめぐみ ※イラストは書籍「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」(ほるぷ出版)から抜粋
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公立小の保健の授業や楽しく性について学べるワークショップを日本各地で開催。
家庭ではじめられる性教育のヒントや性に関する社会問題についてなどを発信している。
著書:「10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック 変わるカラダのいろいろ編」 (ほるぷ出版)、「3~9歳ではじめるアクロストン式 『赤ちゃんってどうやってできるの?』」、「いま、子どもに伝えたい性のQ&A 、思春期の性と恋愛 子どもたちの頭の中がこんなことになってるなんて!」(ともに主婦の友社)
監修:シールでぺたぺた「おうちせいきょういくえほん」(主婦の友社)
インスタグラム
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