Dr.コトー並みの魅力的な医者を演じるのは本当の医者、がんの名医だった!
中井
笠井君が、映画『愛する人に伝える言葉』にコメントを寄せているのを見て、私も話を聞いてみたいな、と思って。最初にこの映画を観て、どう思った?
笠井
久しぶりに、闘病ど真ん中の映画だな、と思った。最近では闘病そのものというより、サスペンスが入ったりして別の物語が動いている医療モノが多いから。そして、なんて『Dr.コトー診療所』みたいな理想の先生がいるんだろう! と思いながら観てたんだ。そうしたら、主治医を演じていたのがガブリエル・A・サラという本当のがんの専門医だということを知って……。衝撃が走った。それでもう1回観なくちゃ、と。
中井
私も知らなかった。上手いな、とは思ったけど本当のお医者さんだから役作りナシで普段の自分自身を演じているだけだったんだね。
笠井
なにせ、カトリーヌ・ドヌーブとセザール賞最優秀主演男優賞を受賞した演技派ブノワ・マジメルに肩を並べるほど出番があったからね。
中井
監督もすごい。ややもすると、ドヌーブやマジメルの足を引っ張る可能性だってあるでしょ?
笠井
オーディションもやったけれど、サラ先生より魅力的な俳優に出会えず、ご本人に出演依頼したんだって。中井は、キャンサーネットジャパンの理事をして、色々な病院を見ているだろうけれど、今回主人公が入院した病院をどう思った?
中井
あの病院は、理想だよね。今は、日本って保険点数にならないことはなかなかできないから、患者さんにどう接していくかよりどう治療していくかに重きを置かざるおえない。病気にフォーカスして、なかなか患者一人一人の心に寄り添うことができないジレンマもあるんじゃないかな。今の日本の病院は忙しすぎて、映画の中のような病院スタッフのセラピーミーティングなんていう時間は持てないと思う。
笠井
がん患者と対峙するって、看護する側もある意味「死」に対峙して近づかなければならない。だから、看護する側にもケアが必要なんだよね。患者の人生に関わりながらも、自分は別の人生を生きているのだから。サラ先生が、ある種覚悟をもって医者をやっているのだと感じたのは、最初から「助からない」と告知したこと。冒頭からその告知の在り方に、僕は驚いた。その代わり、この患者さんと最後まで寄り添っていこうという覚悟があって、それがすごい。大変な精神力とエネルギーが必要だろうからね。
どう生きるか―― 「生」も「死」も選びとるのは、自分自身
笠井
自分がこの映画で心に響いたサラ先生の言葉の一つが、息子を死なせたくない一心のドヌーブに、サラ先生が言った「旅立つ許可を与えましょう」という言葉。
中井
そう、「いつまでも生きていて欲しい」というのは、エゴかもしれない。家族って、いつまでも生きていて欲しいと思ってしまうから。
笠井
患者さんは、精一杯生きているから、「もう死んでいいんだよ」と許可を与えることが、最高のプレゼントだ、と。そこにハッとさせられた。このまま抗がん剤を打っても、もう死は見えているという人に、どういう選択肢を与えるのか――。夏に亡くなった僕の友人は、抗がん剤を止めることを選んだ。抗がん剤を打っていると、行動が制限される。でも止めれば、命は縮まるけれど、家族と最後の旅行にも行けたんだよ。一方で、抗がん剤を打ちながら細々と生きることもできる。最後までどう生きるか、それを選ぶ時代になっているんだよね。
中井
この映画を家族と観るのもいいかもしれないね。いざ、という時に、あなた延命治療はどうする? なんて聞けないけれど、映画を通してなら、大切なテーマを皆で話し合うことができる。本音を聞くチャンスね。映画って、そういうところがいい。